若き騎士との対立
部屋に金髪のやや長めの洗いざらしの様なさらさらの髪をなびかせている。
とがり気味の顎ではあるがきりっとした口元、端正な目鼻立ちを持ち、真っすぐで透明感もある、厳しそうでかつしっかりした目つきをしている。
洗練された外見で高貴そうではあるが他人に厳しそうな軽薄とは無縁な感じの外見の騎士が入って来た。
「レオン」
不安げにクリウは彼を呼んだ。顔が雲っている。
クリウがレオンと呼んだ騎士は訝しげにじっとシギアを見つめた。
シギアは敏感にぴくりと反応した。
何か意味のある視線と感じ、いきなり睨まれ何だと言う不信感のこもった目でシギアは睨み返した。
言葉は発せずとも会ったとたん一触即発の雰囲気を醸し出しクリウはハラハラしながら見ていた。
「この人はレオンハルト。王宮の騎士よ」
クリウの紹介を受けて礼はしたものの、自己紹介はせずレオンハルトと呼ばれた騎士は切り出した。
「君、何か知らないが、随分と横柄な態度だな」
レオンハルトは出来るだけ冷静を装った。
クリウは少しどきっとした。騒乱が起きそうだと感じた。
「……」
シギアは少し下を向き黙っている。
反省している様にも見える。
レオンハルトは相手の態度や反応に構わず続ける。
クリウの表情も含めて。
「メイドさんが泣いていたぞ」
「……」
シギアはまだ黙っている。
しかし右から左の態度ではなくきちんと聞いているのは伝わる。
眉間にしわを寄せている。理解はしている様だ。
少し怒っていながら少し下向きで悲しげである。
少しだけメイドに言った事を反省するふしもある。
レオンハルトは聞いた。
「君が勇者なのか?」
シギアは今度は何か言いたそうに 間を置いてうなずいた。
レオンハルトを馬鹿にする感じはなかった。
警戒している感じだった。
レオンハルトは目を細めながら説明した。
「今は王様方からの勅命でお城全体が君を客人としてもてなせ、失礼がない様にと仰せ使っている。それは分かる。だが……」
だが……から一層に強い言い方になっていた。
「ここは厳粛な場だ。皆忙しく働いている。君を長時間お客様待遇でもてなす暇人はいない。それを分かってもらおうか」
「……」
「ここは君の家ではない。横柄な行動は慎んでもらいたい」
「……」
「王様が君を呼び出し期待してるんだろうが皆が大歓迎で迎えてるわけじゃないんだぞ。さっきからの君の態度でみんな不愉快な思いをしてるんだぞ。皆が優しくしてくれると思うな」
まだシギアは黙っている。
実はレオンハルトはわざと挑発的な言葉を言いシギアがどう反応するか試していたのだ。
さらに加えた。
「俺は前へならえが出来ない人間が嫌いなんだ。ついでに言うと品位のない人間もな」
「……」
シギアは真面目な顔でじっと黙っている。
目線はレオンハルトを見たり下を見たりを繰り返した。
「規律を乱す人間、合わせない人間、順序を無視しルールに従おうとしない人間たちがだ。君が別世界の勇者だと言っても例外ではない」
「……」
「だからここではそうしてもらう」
「わかった」
シギアは初めて答えを返した。
その答え方は真面目だった。
決して軽くもいい加減でもなかった。
敬語ではないが一種の誠実さもあった。
レオンハルトは問いかけた。
「何も言い返してこないのか?」
レオンハルトには意外に言いかえさないのがどこか不思議な雰囲気に映った。
しかしシギアは少しトーンを変え不意に聞いた。
「あんたはその主義と言うか考えを、自分で考えて言ってるの?」
これにはレオンハルトはどきっとした。
体のどこかをつつかれた様だった。
「ああ、俺はそういう環境で育った。自分でそう考えて思ってる」
少しだけ焦りがあった。
彼の脳にふいにある少年時代の回想が浮かんだ。
ある人物が子供時代のレオンハルトに言った。
「それ、自分の意見?」
何故だ、あの時のあいつの言葉が浮かぶ、と思った。何故こんな事を思い出す、と。
レオンハルトは頭を抑えないように目をぱちくりさせる反応だけで済ました。
ここで回想は終わり部屋に戻る。
部屋のやり取りの様子を先輩騎士たちは陰で見て噂した。くすくす笑っている。
「あの少年意外と言い返してこないな」
「しかしレオンの挑発じみた注意も相変わらずだな」
シギアは急に話題を変えた。
今までより嫌な面倒くさそうな言い方だった。
「俺はこんなへんぴな所にいる場合じゃないんだ」
「へんぴだと?」
いきなりレオンハルトの怒りの度合いが上がった。
さらに怒りを増す事を言った。
「俺は天界の勇者だ、お前らとは違う。こんな国に関わっている暇はないんだ」
静かに抑え気味に言うのが逆に怒りを買った。
歯ぎしりをしながら自制心を必死に出しレオンハルトは言った。
「プライドの塊だな」
「ああそうだ」
否定をせずしっかりプライドが存在する事を認める様にシギアは言った。
先程までの面倒くささがなかった。
レオンハルトの言葉には悲しさがあった。
「だがな……君がこんな国呼ばわりしたこの国を俺は愛している。誰よりもと言うつもりもないが誰にも負けたくない」
シギアは気持ちを半ば理解し少し好戦的に言った。
「じゃああんたが守ればいいだろ」
「言われなくてもそうしてやる」
「お客さんであろうとここは言わせてもらう。今の君はお客様として王様たちが取り計らっているが度を越した無礼はやめて頂きたい。理解できないのか」
「ああ、出来ないよ」
またこれがレオンハルトの癇に障った。
「君がどれだけの力があって立派な人間かは全く知らんがどうもしつけ全般が出来ていない人間としか俺には映らない」
また影で先輩騎士たちが見ていた。またにやにやしている。
「またややこしいのが来たな」
「へそ曲がりというかわからずやと言うか」
「そんなレベルじゃないだろ」
貧乏ゆすり、苛立っている何かに、急いで焦っているような態度、とクリウは推測した。
先輩たちが入って来た。
「まあまあ」
「先輩」
「レオンハルト、あまり1人で突っ走るな」
しかしレオンハルトは続けた。
「君はおぼっちゃまでいつも身の回りの世話をやってもらったのではないか」
「また不要な皮肉言ってる」
と小声で先輩は噂した。
しかしシギアが次の瞬間空気を切り裂くような事を言った。
「もう少し気の利いた皮肉を言ったらどうだ」
流石にレオンハルトは怒りシギアに歩を進めた。
これは睨み合いになった。
クリウは心配している。
レオンハルトは精一杯抑えて言った。
「悪いがそういう規律に反した行動を取る人間が私は1番嫌いでな。まあよく堅物と人に言われるが」
「……」
しかしシギアはこれに言いかえさなかった。
緊張感は消えない。
今度はシギアは黙った。
しかしレオンハルトは言う。
「大体そんなえらそうな態度を取るのが君の世界の勇者の定義なのか? 理解出来んな」
シギアは言い返した。
「王様に忠誠を誓っているんなら大人しく聞いたらどうだ?」
「何?」
さらに言いかえしは続いた。
「意見は王様やあんたの上司に言ったらどうなんだ」
「貴様」
真剣で相手を馬鹿にしている様子はなかった。
冷めたようで目を離さずレオンハルトは憎しみのこもった目で歯ぎしりしながら睨んだ。
その時突如集合令がかかった。
「敵襲だ!」
「城下町が帝国に襲われている! 騎士、兵士は直ちに出動を!
クリウは言った。
「こんなタイミングで敵襲なんて……」
当然、レオンハルト達も行く。
先輩騎士達が先導した。
「じゃあ我々も行くぞ」
「はい!」
レオンハルト達若手は気合いを込め返事した。
そこへ、突如後ろから声が聞こえた。
「待ってくれ」
みな一言で振り返った。
「俺も行く」
それはシギアだった。