プロローグ
「お嬢様!本日もお疲れ様でした!」
「えぇ、ありがとう。あなたもゆっくり休んで。」
はぁ〜。疲れた。もう仕事なんてしたくないよ〜!なんで私だけこんな目に会わなきゃ行けないの!
私の名前は『芹沢 美月』、19歳、大学2年生。
世界有数の資産を誇り、製造業から、建設業、不動産業、金融業、サービス業まで幅広く事業を行い、世界中に沢山の企業を持つ『芹沢グループ』の長女だ。
世間からは容姿端麗だとか、頭脳明晰、成績優秀、運動神経抜群、数々の事業を成功させる商才など色々言われてはいるけど、私は褒められても特に嬉しいとかそういう感情は湧いてこない。
同じ年頃の子達は、大学で青春を送ったり、ゲームをしてたり、夜遅くまで遊んでたり、バイトでお金を稼いでたりしている中、私は仕事漬けの毎日だ。
芹沢グループの後継者として育てられた私は、一流大学に合格し籍は置いているものの、入学からは一度も大学には行ってない。両親の意向で高校を卒業してから、デスクワークや会議、事業開発、顧客との関係構築など毎日忙しくてしょうがない。
正直に言うと仕事なんかしないで、同年代の子達みたいに普通に生活してみたい。毎日ダラダラしたいし、昼寝もしたいし、横になりながらポテチとか食べてみたい!ってそれは普通の人じゃなくてただ寝てるだけのニートか……。
まあそれは置いといて、私が今1番やりたいこと……、それはゲームだ!
20XX年。今から20年くらい前、当時弱小企業だった『アストラ社』が新たな製品の開発に成功した。『完全没入型VRカプセル』、五感を機械に接続することによって意識を仮想空間に送り込む機械だ。この技術が世に発表されることによって、世界は大きく変わった。
仮想空間を使ったゲーム、通称『VRMMO』が世に出回り初め、それを実際に体感した人々は、いつしか仕事や学校をサボってまでゲームをやり始めた。
それからVRMMOが世に浸透しきった現在、人々は変わらずゲームを楽しんでおり、ゲームを仕事にする人まで出てきた。ちなみに開発元であるアトラス社は現在、芹沢グループと並ぶ日本の2大企業グループの1つに数えられている。
今の世の中、ほとんどの人間がVRMMOに没頭している。それなのに私は子供の頃から習い事や勉強ばかりの毎日。VRMMOなんて高校生の頃少しやったことあるくらい。この日本でやってないのなんて私の家族くらいだろうな……。
しかし今日は本当に疲れた。事業開発とかの頭を使う仕事はお手の物。顧客への対応は好きではあるんだけど、今日の相手は話がとにかく長いおじさんだった。途中から気絶しそうだったよもう……。とりあえず今日は仕事終わったし、スマホでニュースでも見るかな?
《アトラス社からついに新作VRMMOの発表が!?》
へぇ〜。アトラス社が直々に制作するのって初めてじゃない?
私はVRMMOはやらないけど、大体のことは知ってる。昔からゲーム関連の記事とか攻略サイトとかは色んなの見てるし。でもやれないから意味ないんだけどね?
《アトラス社は『release world planet』、通称『RWP』の発売を宣言した。CEOは「今までのVRMMOとは次元が違いますよ。」と言った発言をし、数々のメディアからの注目を集めている。》
『RWP』ね〜。アトラス社が開発したゲームなんて正直めちゃくちゃ気になるんですけど!なんで私はこんな時もゲームが出来ないのかな?とりあえずやれないけど他の記事でも見ておこっと。
《まるで現実で動いているような操作感、何千種類もの職業に何百万ものスキル、最新技術『時間加速』により仮想空間の中では時間の流れが遅く、仮想世界の広さは地球とほぼ同じ。まさに第二の世界と言っても相応しい完成度。》
次元が違うとは言ってたけどこれは流石にヤバすぎない!?操作性、職業、スキル、地球とほぼ同じ広さ、どれもとんでもなくヤバい。でもそれよりも『時間加速』。現実の4時間がゲームの1日になるってどんな技術なの!?作った人凄すぎない?
それ以外にも沢山の技術が追加されてるけど、私的に1番激アツなのは、新しく導入された機能。土地を買えたり、お店を建てれるって所。課金もできるみたいだし、逆にゲームの金を現金に換金出来る。つまりゲームをしながら仕事もできる!
何これ?まるで私のために作られたかのようなゲームじゃん!このゲームならお父さんも許してくれそう!
早速お父さんにお願いしに行こう。ーーー
ふぅ〜。社長室の扉の前まで来たはいいけど、なんだか緊張してきた……。でも私なら大丈夫!なんたって私は芹沢グループの後継者だ。このくらいのこと出来ないでどうする!
トントンッ
「お父さん、私です。入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ。入れ。」
部屋に入るとメガネをかけて資料に目を通す父と秘書の姿が目に映った。まだ忙しいのかな?
「今日はお願いがあって来ました。少し話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
「……分かった。秘書、美月と2人になるから一旦退出してくれ。」
秘書が部屋から出ていき、私は父と2人になった。
「話ってのはなんだ?」
「実は新しい事業の話なんですけど……。私、VRMMOをしたいんです。」
「VRMMO?もしかしてアトラス社が出したっていうあれのことか?」
「知っているんですか!?」
以外だ。ゲームなんて嫌いそうなお父さんが知っているなんて。しかもさっき出た情報を……。
「何故よりによってVRMMOで事業を?」
「それは……、今の時代、ほとんどの人間がVRMMOをやっています。そして新しく発表された『RWP』では時間加速や課金、そして新しく導入された機能、土地の購入や店の営業。この機能が導入されたことによって、これからは仮想世界に会社を建てたりする人が大量に出ると思われます。私達も時代の流れに合わせてそろそろ仮想空間への進出を考えなければなりません。」
これくらい言えば大丈夫だろう。でも、お父さんはVRMMOが普及した今でも、頑なにやろうとしない。そんな人が本当に許してくれるのだろうか……。
「なるほどな。……で、ほかにも理由があるのだろう?」
「!?なんでそれを?」
驚いた。まさか他の理由があるのをみら抜かれてしまうとは……。こうなったらもう正直に言うしかないのかもしれない……、よし!こうなったらもう当たって砕けろだ!
「私は……、ゲームがやりたいです!同年代の子達が遊んでいる中、私はいつも仕事ばかり。正直みんなが羨ましいです!」
「……やっと自分の口から言ったか。」
やっと?どういうこと?まるでずっと待っていたかのような口ぶりだ。
「えっと……、それはどういう?」
「美月。お前には昔から厳しくしく接してきた。子供の頃から本当にやりたいことも出来ずにずっと辛い思いをさせた。」
「でもそれは後継者になるためで当然のことなんじゃ……?」
「いや、最近になって今更気づいたんだ。娘が辛い思いをしていることに。昔からお前にはやりたい事もやらせてあげなかったし構ってあげられなかった。すまないと思ってる。」
お父さんが謝った!?あのお父さんが?
「VRMMOに関しては許可しよう。」
「え!?いいんですか!?」
「今更で申し訳ないが、これからはやりたいことも少しずつやるといい。忙しいができる限り協力する。」
「ありがとうございます!お父さん!」ーーー
正直あのお父さんがあんな事を言ってくれてるなんて思ってもみなかった。まあ、普通の家庭と比べたら正直父親としてはダメダメだけど、私は仕事をしてるからわかる。お父さんはとんでもなく忙しい。私に構う暇が無いくらい、毎日ずっと働いてる。
だから私には、これくらいで十分だ。
それにしてもついにVRMMOができるんだ!楽しみだな〜!始めたら何しよっかな〜?暗殺者とかやってみたい!戦ってみたいし、仮面とか被って正体隠した暗殺者とかかっこいいかも!カフェなんかも良さそう!コーヒーとか出してみたいし、路地裏に出したら凄い雰囲気出ていいかもしれない!そしてそのカフェで特定のメニューを頼んだら、「奥の部屋へどうぞ。」とか言ってみたい!実は裏では情報屋でした!みたいな!
あ〜!妄想が止まらない!発売の日が楽しみで仕方がない!ーーー