同業他社との愚痴
外回りの仕事を終えた俺はそのまま残業をすることなく会社をあとにした。社長……いまはCEOを名乗っているがやってることは昔と変わらないので俺は心のなかで社長と呼び続けている……は同業他社のあいつらに顧客を取られないようにどんどん契約を取れと言っていたが、今の時代にこんな古臭い契約で仕事が取れるわけはないのだ。努力しろというのにも限度がある。今日も一件しか契約が取れていないが知ったことか。
俺は社長に見つかり小言を言われる前にさっさと退社すると、行きつけの酒場へと向かった。
酒場に着いた俺は顔見知りの女が一人で飲んでいるのを見つける。俺はその女の隣に座ると酒を注文して仕事の調子はどうだ、と声をかけた。
「いつも通りなーんにも変わらず。業績上げろって言ったって限度があるのにガミガミガミガミ。そっちはどう?」
「そちらとご同様さ」
その女は同業他社で働いている女で、社長が目の敵にしている会社の社員だった。だが俺とその女は個人的には仲が悪いわけではなく、こうして顔を合わせれば時々愚痴を言い合う仲だった。
しばらくの間酒を飲みながら愚痴を言い合っていた俺たちだが、やがてどちらともなく立ち上がると店を出る。誰かに愚痴を聞いてもらっただけでも少し気が楽になっていた。
「そもそも魂集めなんて古臭いこといつまでも続けるんだか」
店を出たその女は最後にそう愚痴ると羽を広げて天国へと戻っていく。それを見送ってから俺も家路につく。
また明日から社長に色々と言われながら働く生活である。
「あーあ、仕事辞めてえな」
俺と契約する人間と同じようなことを言いながら地獄へと降りていった。
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