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健全なボランティア ②

「暑い。ダルい。暑い。ダルい」

「文句ばっか言ってないで働いてよー」


「動物愛護のためにご協力お願いします」と壊れたロボットのように繰り返し、人もまばらな駅前で募金箱を差し出す仕事(無給)に俺が熱意をもって取り組めると思うか?

 募金箱を投げ出してその場にへたり込む。

 もう2時間もやってるんだぞ。限界だ。

 連休直前の土壇場になってこんなボランティア依頼を持ってくる学校側も学校側だが、受ける旦椋も旦椋だ。

 オカルト絡みではない真っ当なエコ部の活動とはいえ、ゴールデンウィークにやらされる労働ほどモチベーションをそがれるものも無いだろう。世の高校生たちは自堕落にお気楽な連休を過ごしているだろうに、俺は初夏の日差しを浴びていい汗をかいている。

 滅びろ動物虐待。滅びろ密猟。どっかの阿呆がそんな事しなきゃ俺がこうして募金活動をすることも無かったんだ。


「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。ごめんって」


 見るに見かねた旦椋がスポーツドリンクを手渡してくれた。

 俺以上にあちこち歩き回っているだろうに、キラキラ笑顔を崩さずに他人にも気を回せるなんて、本当にボランティア中の旦椋は別人のようだ。

 これでオカルト癖が無ければな…とも思うが、コイツにとってボランティアに精を出すことも超常現象を追いかけることも、同じくらい本心から楽しんでいるのだと最近知った。

 どうやらこの部長さんは怪しげなオカルト的活動の隠れ蓑として社会奉仕をしているのではなく、単純に楽しいからやっているらしい。ますますよく分からない。


「さっき募金箱にゴミを入れてきた奴がいたよ。歩くゴミ箱だと思われてるらしいぞ、俺たちは」

「うわ、最低。酷い目に遭わないかな、そいつ」

「…そうだな」


 正直な話、あの廃校でコイツがみせた仄暗い一面を、俺はまだ恐れていた。くらい眼差しと幽鬼のような雰囲気に呑まれて今現在まで行動を共にしていると言い換えてもいい。

 脅されて協力しているところもあるが、実際はこの何を考えているか分からない部長さんを目の見えるところに置いて安心したかったんだと思う。世に不思議なことは何一つない。旦椋あざりも少々エキセントリックなところのある高校二年生女子に過ぎないのだと、自分を納得させたかった。

 そうでないとあまりに得体が知れないから。

 手の内を隠して器用に立ち回る、というのは俺の理想とするライフスタイルだが、こうして実践している人間を目の当たりにしてしまうと羨望よりも不気味さが勝ってしまう。

 空々しい笑顔や立ち振舞い、何かをはぐらかすような話し方は今も時折見られる。

 それは他者に隠したい何かがあるのか、俺を試しているのか。

 俺が旦椋の試験に合格してここに居るとしたらどうだろう。釣堀峠での一件がそうなのだとしたら?それが名誉なことか不名誉なことかは分からないが、ただ少し気味が悪い。

 旦椋あざりは単にオカルトマニアってだけじゃなく、まだ何かを隠しているって事になるんだから。

 コイツは俺をどうするつもりでこの部に引き入れたんだ?


 ―――なんてことを考え出してもきりがないし、オチもない。旦椋は得体が知れないしボランティアはかったるいが、今はただ与えられた仕事を粛々とこなして早く帰ろう。

 というか旦椋。なんでお前は汗一つかいてないんだ。

 以前の投球の一件といい、過去にスポーツでもやってたのか?


「これが無給じゃなけりゃなぁ…」

「いつまで言ってんのさ」


 いつまででも言ってやる。俺はしつこいんだ。

 額の汗を拭い、貰ったドリンクを一気に飲み込む。

 日差しにやられて少しばかりぬるくなってはいるが、今は水分補給ができればそれでいい。

 旦椋も持参したドリンクに口をつけると、そのまま「ちょっと持ってて」と俺にペットボトルを託し、いそいそと募金活動に戻ってしまった。

 休憩時間40秒。アクティブという言葉の化身のような女だな、とぼんやり考えながらその背中を見送ると、俺は旦椋の飲み物を含め募金箱や私物をかき集めて日陰のベンチへ避難する。


「ああー、もう動けん」


 荷物をベンチにぶちまけると、完全にやる気を失って項垂うなだれる。疲れ切って重い瞼で腕時計を確認するも、こういうときだけ針が進むのは遅いもので、1分が100倍にも引き延ばされたような感覚に陥る。クロノスタシスっていうんだったか?

 今日は12時まで活動予定のはずだが、あと1時間も残っている。正直もう一歩も動けないし、動きたくない。

 暑さと疲れのピークで朦朧とした頭でふと、さっき募金箱にゴミを詰められたことを思い出す。大方レシートか何かだとは思うが、ゴミの入ったままの箱を動物愛護団体に返却するわけにもいかない。今のうちにさっきの紙屑を募金箱から回収しておかなくては。

 箱上部の蓋を取り外すと、中を覗き込む。はたから見たら募金をくすねようとしているよこしまな奴に見えるかもしれないな…などくだらないことを考えながら、箱の中から折りたたまれた一枚の紙をつまみ上げる。


 どうやらそれはA4の用紙を小さく折りたたんだもののようで、何やら文字が書き連ねられていた。広告チラシか何かだろうか?

 何が書かれているのか気になった俺は、何の気なしに紙を広げる。

 

「なんだこりゃ……」


 そこにあったのは犬の写真と、子どもが書いたような拙い字だった。

名前はぺこ 白い犬で、大きいです。

釣りぼりとうげの近くで車にひかれてしまいました。一回死んじゃったけど、生きていました。


さがしています。

なにか知っていたら、れんらくください。

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