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17話 ケバブ・アテンダント

次の話から大きく動き出します。

「おはようございまーす! 本日の保安検査は、4列でお並び下さいねー。新規入植希望の方は、向かって右にお進み下さーい!」


 バリュノア城門前の光景である。

 新年が明け、仕事始めを迎えるキュレーブルホールには、緊急招集に応じた臨時の城塞兵たちが早朝から出勤してきていた。

 普段は市井で各々の仕事を持つ彼らだが、国の大事や懐が寂しい時などは、こうして集ってきてくれるのである。

 

 久々の勤務に腕を鳴らす経験者たちが、制服である革鎧姿で城門を開けると、そこには惨憺たる有り様が広がっていた。

 数日前に襲来したアースクローラーの影響により、休日期間中、一度も城門を開けられなかった結果、想像を絶するほどの長蛇の列が出来上がっていたのだ。

 

 隊商を率いて移動する旅客がほとんどであることから、数日程度の追加キャンプであれば物資に問題はない……はずなのだが、いつもの串焼き屋が駆けずり回っているところを見るに、既にアールハート商会が手を回し助けている可能性が高かった。

 丁寧な接客態度を崩さず、整列に一役買ってくれている様が頼もしい。


「大変混雑しておりますので、場所取り札がご入用の方はお声がけ下さいね! 名物の串焼きも焼き立てですよー!」


 と、商魂も忘れていないようだ。


 呆気に取られたまま待機列を眺める臨時門番の4人組は、中の準備が整うまで井戸端会議に花を咲かせる。


「急な招集だとは思っちゃいたが、まさかここまでとはな。あのねーちゃん、頑張るなぁ」

「しっかし、いつものメンバー全然いないね?」

「怪我人だらけって聞いたわよ」

「でかぶつのアースクローラー2匹はさすがに想定外っしょ」

「噂じゃ帝国が魔物を送り込んで来てるってのがあったよなぁ?」

「あんなもんコントロール出来るかよ」

「ちがいねぇ……あぁ、でもボロボロの難民は帝国がって話はどうよ?」

「どの道、自由貿易協定でまた変わるんじゃない?」

「ま、俺らは臨採兵だし、言われたことだけやっとこうぜ」

「そういや新顔も入ったよな」


 4人が振り返ると、ホールの中で新人たちが指導を受けているのが見えた。その中にはフェルデールの姿もある。


「あの子、議員のお気に入りかと思ったけど、到着してすぐにココなら、ただの難民かしらね?」

「あの人けっこうお人好しだからなぁ」

「やっぱドンラン家との和解がねぇ」

「どっちでもいいじゃん? 移民なんて珍しくもないし」

「つか全員移民だろ俺ら」


 今日ばかりは叱れる上司もいないとあって、彼らのおサボりは、焼け焦げた串焼きの束を両の手に握り締め、そろりそろりと近づいてくる売り子の姿が現れるまで続いたのだった。



 新年祭の翌日に、バリュノア南東から現れた2匹のアースクローラーは、斜面に広がる休眠期のブドウやオリーブといった果樹林を薙ぎ倒し、城壁へと到達。農地への侵攻ギリギリのところで駆けつけたミュリオルの手により1匹を撃破、逃亡を図ったもう1匹の足取りを追跡中……とのことだった。


 複数の怪我人が現在、城塞内の詰所とアカデミーの診療所にて療養中である。また、これとは別に果樹園や農地、倒壊したいくつかの物置小屋の修復と、人手を要する作業が山積していた。

 魔物の襲撃そのものは日常茶飯事とはいえ、常勤の城塞兵だけでは手が足りない状況である。


 あの日のフェルデールは、ミュリオルの指示に従い公園で寝ている傭兵たちを急ぎ起こして回った後、その足で再び城門まで走り応援を呼んでいた。

 

 光魔法に関する忠告を受け取ってしまった以上、直接手を出すことはせず、大人しく大家の居る家へと戻りミュリオルを待ってはみたが、一向に姿を現さないまま数日が経過した。


 急な予定変更とはいえ有事は有事、フェルデールは大家が営む飲食店の仕込みや掃除を手伝うだけでは物足りず、何か出来ることはないかと問い掛けた。

 

 すると「本来ならばシャオムが言う予定だったんだろうが」と前置きした後、大家はバリュノアにおける“市民権”の扱いについて、かなり詳細に講義してくれたのだった。


 大家曰く、バリュノアの建国史は多種多様な人材との共存史なのだという。

 強大な魔物や帝国と渡り合うためには、初代当主と土着のバリュノア族、そして各地から集まってきた冒険者たちだけでは到底立ち行かなかった。

 

 そこで、近隣の少数民族や、行き場のない放浪者、各国からはみ出て来たであろう身元不明の逃亡者にさえも分け隔てなく門戸を開き、国力拡大に務めたのだという。


 事実、彼らから得られる知識や武力を元に、バリュノアは着実に大きくなった。国家としての体裁が整うにつれ、ダンジョン攻略の要のオアシスとして広く知れ渡るようになり、そこでようやく交易都市として羽ばたきはじめたのだそうだ。

 

 そうして城塞が建造され、ますます人が集まり出した頃でもやはり、この過酷な土地は多くの労働力を必要とした。それは門戸を開き続けることこそが存続の道であると全市民が納得するほどのことであった。

 無論、犯罪者やスパイといった負の側面も否定出来なかった当時の議会は、この土地の秩序を維持するために“市民権”制度を作り上げたのだった。

 

 “市民権”は、バリュノアで産まれた子供ならば誰でも生まれながらに有する権利であるが、この国に新たに入植する場合、その身分も出自も問わない代わりに、この権利の購入を義務付けるという制度だった。


 身も蓋もない話だが、多少怪しくても金さえ払えばそれでよし! という内容である。

 ここから得られる収入は、城塞兵の増強予算に割り当てられる寸法である。

 

 ちなみに“市民権”がなくとも旅客証を購入するだけで、誰でも制限なく滞在することが可能である。要するに、居住や帰属を求めない限りこの“市民権”は必要のないものなのだ。

 それにも関わらず、これを求める者が後を立たない背景には、厄介な魔物から市民を守る安全な国として認知されていることが大きいのかもしれない。


「何でもかんでも金で解決出来るってのが、この街の流儀ってやつなのさ」

「お金がない人はどうするんですか?」


 アパルトメントのダイニングで堂々と語る大家は、厳しくも優しくフェルデールを指導する。

 ついでだから肩を揉めと言う指示も、まだまだ緊張感が抜けきらない少年――否、16歳になったのならば、青年への配慮なのかもしれなかった。

 

「ふっふっふっ……もちろん質屋もあるし、なんなら金貸しだっているけどね。バリュノアの真髄はそこじゃあないよ。金がないなら価値あるものを差し出せばいいのさ。例えば情報。それから、兵役。地味に一番多いのが労働力、これは鉱夫から農作業、大工に踊り子、それから教師……得意な分野ならなんだって構わないのさ」


 使わない手はないねぇ、と頷く大家は更にこう付け加えた。


「ああ、それにね、意地悪は言いたかないが、シャオムの弱点になりたくないなら、買っておくに越したことないよ。丁度、うちの孫も季節兵役に入るとこだ。繁盛期にはこっちに戻って貰う予定じゃあるが……どうせついでだ、あんたの面倒も任せちまおうか?」


 多忙な首脳陣を卒なくフォロー出来るからこそ誰もがこのボスを敬う。薄々それを感じ取っていたフェルデールは素直に頭を下げた。

 

「よろしくお願いします!」

「借金をチャラにするためだけに兵役を買って出る輩もいるくらいだからね、城塞兵で稼ぐってのは悪かない選択だよ。強くなって魔物と戦えるようにさえなれば、素材の売却で一括購入も夢じゃないしさ!」

「市民権を一括購入……あの、結局ここの家賃も含めて一体おいくらなんですか?」

「市民権は一律3万だよ。朝食40、宿泊200、最低ランクの武器が500。そしてここの家賃は月6000マルベリー……と言いたいとこだが、細々とした雑用をやるっていうなら、まけてやらないこともないねぇ?」

「が、がんばります……!」


 肩を揉む手にも力が入る。

 自由に伴う責任は重いが、その先に待つものが希望であるならば、未来は自ずと開くだろう。せめてその道筋を示してやれれば、という大家なりのお節介であった。


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