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1話 孤児院での生活 独白1

 僕の故郷である神聖ヴェルティルオス光国は雪深い国だ。夏でも溶けることのない閉ざされた世界は、えてして貧しいと思われがちだが、僕が知りうる限り、ここは富める側の国だった。

 

 古の時代に神が遺したという大いなる恩寵。

 その恵を授けられし聖なる国の、聖なる民族たちは、誰にはばかることなく光神ヴェルティルオスの庇護を強調し、周辺諸国から奉納される熱烈な支持をほしいままにしていた。

 彼らがそうまでしてこの国におもねるのは、光国がその名の通り、“光魔法”を扱うことが出来る唯一の国だからだ。


 この世に存在する魔法の力のうち、火、水、土、風、雷は、その出自や身分を問わず、適正さえあれば誰もが皆、修得可能であるとされている。

 

 けれど光魔法だけは違う。

 この力は光国内でしか発現しないばかりか、神が認めた人間にしか与えられないものだとされているからだ。

 その力を最も強く発揮出来る聖人ともなれば、どんな致命傷や重篤な病でさえも、死地から連れ帰ることが可能だと言われている。

 

 僕は、その恩寵を管理するべく創設された宗教組織・神聖ヴェルティルオス教に拾われた孤児だった。

 名をフェルデールと言う。誰が名付けたのかは知らないし、名乗れる姓も持ち合わせていないけど。


 神に愛されしこの国は、何もせずとも魔を退ける稀有な土地でもあることから、教団の権力は絶大だった。彼らは役職に応じて領地を与えられるのが一般的で、僕が住む大司教領ともなると相当広大な土地であると聞かされていた。


 ここで神官の卵として教育を施され、何不自由なく育てられたことそのものは幸運だったように思う。生まれながらに持ち得た力だったけれど、誰かの役に立てることは、孤児の僕にも居場所を与えてくれたからね。孤児院の暮らしそのものも決して悪いものではなかったし。


 だけど耳障りの良い話ばかりがあるわけじゃない。孤児院には代々、伝聞形式で言い伝えられている確かな警告があった。

 それは、教団の上層部には絶対に刃向かわないこと。という至極シンプルなものだった。これに従わない者は、奴隷のような扱いに堕ちるという脅しまで付いていた。

 

 どの子供も半信半疑で聞き流す程度の噂話に過ぎなかったけど、いつの間にやら消えていく仲間が1人、また1人と増えるにつれて、徐々にこの伝聞の信憑性は増していくことになる。

 僕が最初にこの話を信じる気になったのは、12歳の時だった。

 

 あの日、僕は友人と些細な喧嘩をした。

 孤児院で共に過ごす仲間とはいえ諍い(いさか)が全くないわけではない。特にこの時はそれが顕著だった。

 

 ものすごい美人が入って来たぞ! という噂話が駆け巡ったかと思えば、当の本人が一切姿を現さなかったからだ。

 幻でも見たんじゃないか? と詰め寄られた情報源の少年は、躍起になってその人物を探そうと、馬屋から物置に至るまで、ありとあらゆる物をひっくり返しはじめた。

 当時既に最年長だった僕は彼を諌めなければならなかった。このままでは連帯責任で全員が飯抜きか、更に悪ければ“教育的折檻”を受ける可能性があったからだ。


「いい加減うるさいぞフェルデール! お前の小言はうんざりだ! 俺はあの子を絶対に見つけ出すんだ」

「探したって無駄だよ。どこもかしこもめちゃくちゃじゃないか。ここまでやって見つからないなら、もう里に降りてるかもしれないだろ?」

「だって俺は見たんだ! あの子、院長先生にべったりくっ付いててさ、それから、誰だか知らないけど制服をめかし込んだ大人たちもいっぱいいた!」

「それなら尚更無駄じゃないか。教師宿舎か院長先生の屋敷にでも匿われてるんだろ。訳アリにはよくあることだよ」

「あいつおかしいんだ。何か変なんだよ。もっかい会わなくちゃ、会って確かめなくちゃ……銀色に輝く髪がホントに綺麗でさ……ねぇ、頼むよフェルデール。俺を行かせて?」

「ダメったらダメだ。ほら、点呼に間に合わなくなるぞ」


 ふくれっ面を晒し、未だ抵抗を諦めない学友の襟首を掴み上げた僕は、腕に引っ掻き傷を作りながらも彼を食堂へと引きずっていった。

 

「また喧嘩して!」

 

 という雷こそ落ちたが、それ以上の被害はなく皆が胸を撫で下ろした。

 

「きっとまた抜け出すわよ」


 と、女子寮長が警告を発したが「また明日説き伏せるよ」とだけ返し、そのまま就寝してしまった僕は、翌朝それを酷く後悔することになった。その日を境に彼をこの孤児院で見ることは二度となかったからだ。


 ほどなくして現れた銀髪の子供に対する僕の心境はかなり複雑なものだった。消えた学友が喚き散らした通り、誰もがその美しさに見惚れていたし、儚さと気高さを兼ね備えた紛うことなき美人だと思ったが、男子寮長である僕に預けられるということは、彼が間違いなく少年であるとことを意味していたからだ。


 聞けば僕よりも2つ年下で、自らをヴェリウスと名乗った。おそらく偽名だろうなと思いはしたものの、誰も気に留めてはいなかった。

 孤児院ではごく稀に、本当はどこぞのご子息様なのだけれど一時的に匿名で預かるという教団ならではの慈善事業がある。

 この場合、根掘り葉掘り聞かないでおくのが暗黙のマナーであることを皆重々承知していたので(そして無事にご帰宅された暁には、食事が豪華になるオマケが付く)、この件に関しては問題なかった。


 問題があるのは、むしろ教師や寮監といった、孤児院の運営に関わっている大人たちのほうだった。

 事あるごとにヴェリウスにまとわり付いては物陰へ連れていこうとしたり、ただ遊ぼうとしているだけの年少組を遠ざけてまで彼を独占したりと、明らかに不自然な行動が目立つようになっていった。

 そして案の定、見知っていたはずの顔ぶれが季節ごとに入れ替わるようになってしまった。あの警告は大人にも有効らしい。


 ヴェリウスを取り巻く不自然さをただの嵐と捉えていた僕は、彼への対応を弁えながらも、まだまだ楽観視を続けていた。関わりさえしなければどうってことはないと慢心していたのかもしれない。

 今にして思えば、人生における分岐点はここからはじまっていた。


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