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13話 新年祭 2

 野外ステージの周りに人が集まりつつある。

 串焼きチェーンのボスである肝っ玉小母さんがシャオムに詰め寄っているためである。ギャラリーにしてみれば酒の肴に丁度いいや、といったところであろうか。


「あんたって子は! またほっつき歩いて! 一体幾つになったら落ち着くんだい!!!」

「あーーーー、小母さん、もうちょっと声量を、こう、どうにかなりませんか」

「そうやってヘラヘラヘラヘラしてるから、いつまで経っても嫁が来ない!!!」

「はい、はい、ごもっともで」

「議会も仕事もサボるし!!!」

「家業はずっとねぇ、ほら、兄に任せきりでしたから、どうにも性に合わなくてですね……」

「言い訳はよろしい!!!!!!」

 

 ああ先代ご夫妻になんて顔向けしたらいいんだいとオイオイと泣きはじめた小母さんを皆で慰める。


「あ。そろそろスピーチの時間なんで、僕はこの辺で……」

「待ちな」

「ハイ」

「で、あれは誰の子だい。まさかどこぞから拐かしてきたんじゃないだろうね!?」

「違います! 違いますって! ちゃんと説明しますから、待ってて下さいって、ね?」


 蛇に睨まれた蛙状態からようやく抜け出すことに成功したシャオムは、転がり込むようにしてステージへと駆け上がった。

 毎年恒例、創始者一族による年始の挨拶の時間である。

 

 今日のシャオムの服装は、これまでとは打って変わって東国式の伝統衣装に身を包んでいた。一見したところ簡素な黒色の綿素材だが、所々に施されている品の良い常盤木(ときわぎ)金駒(きんこま)刺繍は、嫌味がないながらも新年を彩るに相応しい装飾だった。髪も真面目に結い上げたのか、いつもの垂髪は幞頭(ぼくとう)の中に隠れていた。


 マイクテストならぬ拡声魔法具テストを手早く終えたシャオムは、先程より更に増えた聴衆に向けて語り出した。


「皆さん、どうも。お久しぶりです。シャオム・アールハートです。長らく留守にしておりましたが、この度ようやく帰って参りました。不出来にして、不肖のボンクラを支えて下さる皆々様には、相変わらず顔も足も向けられない次第であります。留守中を預かって下さったバリュノア族長ご両人、そしてギルド長の御三方には心より御礼申し上げます」


 ギャラリーたちの拍手が収まるのを待って、シャオムはスピーチを続行する。


「新年を迎えるにあたり、抱負を述べるべき時ではありますが、まず真っ先にお伝えしたいのは、世界にはまだ、どこにも行き場のない迷い子たちが数多く取り残されているということです。我々の祖先が、このバリュノアに辿り着いた時、何を求め、何を欲し、何を願ったのか。今一度問いただす時が来ました。


 私の一族は、遥か東国の地を追われ、この場所に最後の希望を求めやってきました。それは庇護です。命を脅かされることなく生きられることは何物にも代え難い宝でした。しかし、人はそれだけでは生きていけません。次に欲したのは、それは安心です。王侯貴族をはじめとする、ありとあらゆる権力に蹂躙されるのは、もうまっぴら御免でした。だからこそ願ったのです。この地を訪れる全ての人間に未来が開かれることを。


 私の後継者が誰であろうと、この信念は変わることがありません。バリュノアは、人の未来のために力を尽くす場所であって欲しい。この想いが代々受け継がれてきたからこそ、この国は最高の移住地となり、居住地となり、投資先へと押し上げられてきたのです。


 忘れてはならないのは、私がここにいる全ての人々に感謝しているということです。バリュノアが今日この日を迎えるためには、強い結束が必要でした。幸いにして、我々の希望は一致していたのです。全員が請い願ってきたからこそ、この地は意義ある使命を全う出来たのです。


 過去は現在を。現在は未来を形成します。歴史の重みは、この愛すべき城塞と愛すべき人々の心にしかと刻まれ、必ずや受け継がれていくであろうと信じています。


 私は旅先で、命を脅かされているにも関わらず、身動き出来ないままその生を終えようとしている少年を発見しました。このバリュノアを背負う一族として、決して見過ごせるものではありません。世界が続く限り、バリュノアを必要とする者は必ずや増え続けるでしょう。その時、この国の門を開き続けるためにはどうするべきか。私は覚悟を決めました。


 今日、この日、バリュノアは新たなる歴史を刻み付けます。私、シャオム・アールハートは、自由貿易協定にサインすることをここに宣言します」


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