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死霊組成  作者: ボナンザ
80/80

80話 評議会2

「ぬっ、何者だ!?」


「衛兵! 衛兵は何をしておる?!」


「侵入者の対処も出来ぬのか!?」



突然の僕達の登場に騒ぎ立つ評議会議員達。ベイカーも僕達に気付いた様で、私兵に囲まれながら憎しみの視線を向けて来る。



「ああ、衛兵の方達は当分の間はここに来れないと思いますよ。多分」


「なっ!? 」


「貴様はいったい……」



衛兵が来ない旨をあっけらかんと言い放つ僕に、議員達も訝しげな視線を向ける。



「何者て、そこにふんぞり返っているおっさんの件であんたらが呼び出したんだろ?」



何者と聞かれたのでベイカーを指差しながら応える。



「なっ! お、お前が猫連れの魔道士!?」



どうやら僕は界隈では猫連れの魔道士と呼ばれている様だ。まさかそんな2つ名があるとは、始めて聞いたよ。



「衛兵! 衛兵、何をしておる!?」


「早くこの者を捕らえぬか!」



衛兵は来れないと言ったのに、やはりこの世界の人々は言葉が分からないだしい。


いやそれ以前に評議会の連中は、やはり僕を犯罪者として扱うつもりの様だ。何故なら僕が当事者と分かったにも関わらず、僕を捕らえさせ様と必死だからだ。



「ハア…… ここの衛兵にも言ったが、僕は犯罪者ではない。あくまで協力者だと言う事を勘違いするな」



もはや言葉遣いなんてどうでもいい、そちら側がそのつもりなら真っ向勝負といこうじゃないか。



「何を言うチンピラが!」


「やっと来たか、衛兵そいつらを捕えろ!!」



議員の呼び出しで残っていた衛兵達が駆け付けて来た。その数は10人程。会館の入り口で僕を待っていた衛兵より明らかに弱そうだ。


控室で呑気していたのかまだそんなに残っていたとは驚き。だがそんな彼等に僕は問答無用で、100キログラムの重力のお土産を与えた。



「グァっ!?」


「な、なんだ?! か、体が重い……」



重力の枷に捕らわれた衛兵達は身動きができず、その場にへたり込んでしまう。この重力場はその場に固定させているので、5分程は動く事すら出来ないだろう。



「なっ!?」


「何が起きたというのだ?!」



この時にベイカーの私兵も動こうとしていたが、アレスがピンポイントで殺気を放つ事でその動きを止めていた。


3メートルオーバーの巨人?もベイカーの側に居り、ベイカーを守る様に動いていた。それなりの実力者達なのだろうだが、睨み一つで彼等を抑えてしまうとは流石はアレスさんだ。



「おのれ小僧め!」


「あくまでも我等に楯突くつもりかぁ!!」



それでもまだ議員達が騒がしいので彼等には、風で作った刃で彼等が座る議席を断ち割る事で黙らせた。もちろんいつでも殺せるぞと言う脅しも込めての行動だ。



「やっと静かになったね。これからは言葉で言っても通じない様なら、実力行使も辞さないよ」


「…… 」



ここに来てやっと議員達も今回の評議会の評議の対象が、只者ではないという事に気付いた様だ。先程までの騒がしさとは裏腹に、今度は一様に黙り込む議員達。


だがそんな議員達の中で、1人静かに事を伺っていた議長と思われる議長席に座る人物が、場の空気を変えるため僕に話し掛けてきた。



「…… 貴殿が猫連れの魔道士だと言う事は分かった。ここまでのご無礼、皆に代わって謝りたい。済まなかった」


「なっ!」


「ぎ、議長、いったい……」



議長が僕に謝罪と共に頭を下げた事でざわつき出す評議会。



「良かった、ここにも話が通じる相手が居た様だね」



最近は魔導書の影響で好戦的になってしまう自分がいる。だから今回は争い事より話し合いを優先させるつもりだった。


だがこの市民会館に来てから僕を不愉快にさせる展開が続いていた。正直言って後先考えずに暴れたい心境だった。だがやっと本来の目的の話し合いが出来そうだ。



「それだけの力が有るのなら、何のしがらみなくこの町から去る事も出来たはず。何故この場に現れたのですかな?」


「僕がここに来たのは簡単な話しです。ただこの茶番を終わらせるための、話し合いをするためにこの場に来ました」



そう言うと傍聴席でふんぞり返っているベイカーを睨み付ける。


僕に睨まれたベイカーが舌打ちと共に顔を逸らす。どうやらまだあの日のトラウマは癒えていない様だ。



「茶番を終わらせる…… うむ、貴殿程の実力者がそう言うからには、余程の自身があるのだろう。ならばこの審議は見直す必要がありそうだ」



僕の力を知り、僕の言葉を聞いて審議のやり直しを示唆する。どうやらこの議長はこの中でも、わりかしまともな頭をしている様だ。



「なっ!?」


「デ、デミタス殿、それはどういう…… 」


「今言った通りだ。この件はベイカー殿の一方からしか話を聞いていない。それでは不公平というもの、双方から話しを聞く必要がある」



議長のデミタスはベイカー片方だけの意見だけでなく、僕からも意見を聞き取ろうと言うのだ。


まあまったくもって当たり前の話なのだが、ここの連中にはそれが通じないから困るのだ。



「な、何を言う! 犯罪者の意見を聞くと言うのか?!」


「そんなバカな話があるものか!」



やはり素直に「はい」とは言わない議員達は、どうしても僕を犯罪者として扱いたい様だ。


ベイカーからの裏金や夜の接待で雁字搦めにされ、彼に逆らえない様に躾けられた議員達。僕に動かれては都合が悪い。


そんな彼等のエゴもただの犯罪者になら通用しただろう。だが今回の相手はそれをよしとはしない絶対者なのだ。


その事実に現時点で気づいている議長のデミタスが彼等を諭す様に口を開いた。



「ほう、其方達は先程の魔道士殿の力を見ても何とも思わないのか? この魔道士殿は先日、10メートルに及ぶ火球をこの町の上空に作り出したという。その火球が町に放たれた際にどれ程の被害が町に出るのか考えもしない。この町を滅ぼす事が出来る程の力を見ても、まだ其方達は分からぬというのか?」



「グッ、そ、それは……」


「…… 」



決して怒る事なく語気を強める事なく淡々と真実を語る議長に言葉を失う議員達。彼の言葉通り、僕達がその気になればこの町を滅ぼす事は簡単だ。


そうさせない為に動く事は、町の事を第一に考える者なら当たり前の事。それに当の当事者が争い事より話し合いを求めているなら尚更だ。



デミタスはこの町が奴隷の町と呼ばれる以前から、この町を愛し尽くして来た。腐った評議員の中で彼は、真にこの町の事を思っている人物なのだ。



「そんな力を持つ者が争い事より話し合いを望むと言っているのに、それでもまだ其方達は現状を理解出来ぬ愚か者なのか? ならば早々にこの場から立ち去るがいい。愚か者に評議会の評議員は務まらぬからな」



デミタスが議員達に最終通告を突き付ける。彼の言葉でもうこの評議場に、無駄口を開く者は居なくなった。


どうやらデミタスはこの機会に評議会を牛耳り、ベイカーの力を削ぐ算段を立てた様子。



流石は実力者揃いのブルナン派閥と行ったところか。その事実は知らない僕でも彼の優秀さは分かる。



「では評議会を開催する」



文句を言う者が居なくなったので淡々と話しを進めていくデミタス。先ずベイカー側からしか聞いていなかった事の顛末を、僕からも聞くという。



「では魔道士殿、手間をかける様で申し訳ないが、事の顛末を聞かせてもらいたい」


「はい、分かりました」



僕はこの町に来てからの事の顛末を分かり易く簡潔に話す。突然ベイカーに呼び止められ、仲間のニャトランをよこせと言われた事。


勝者には敗者の物を奪う権利が有ると強引に勝負を持ち掛けられ、僕が勝ったにも関わらずその約束を破り奴隷に落とすと脅迫して来た事。


それらの事柄を分かり易く丁寧にデミタスに話し聞かせた。



「…… フム、魔道士殿の話しとベイカー殿の話しには大きな隔たりがある様ですな」



そう言うとベイカーをギロリと睨み付けるデミタス。ばつが悪かったのかベイカーが視線を逸らす。


ベイカー側の話しでは、突然襲い掛かって来た魔道士がボディーガードを殺して、彼の奴隷を奪ったという事になっているだしい。


どうやら僕は通りすがりの盗賊で、彼から財産を奪った極悪人。それがベイカーと彼の派閥の評議員が考えた筋書きだ。



「このたぬき親父は……」


「グヌッ!」



思わず本音が漏れ出てしまった僕を睨み付けてくるベイカー。



「嘘だ! その小僧の言う事は全て出鱈目だ!!」



そしてまるで駄々っ子の様に否定の声を上げる。彼からは未だに自身の思惑通りに事が進むと疑いがない様子。


何故なら評議会は多数決で信義を決めるため、議員に根回しをしているベイカーに不利は無い。



「私の奴隷には私にしか解けない奴隷紋が魔導具によって刻まれている。その娘の腕を調べれば分かる。必ず奴隷紋があるはずだ!」



ベイカーの奴隷には秘宝級の魔導具による奴隷紋が刻まれている。この奴隷紋は呪いに近い物で、同レベルの魔道士か魔導具でなければ解除する事は出来ない。


因みに秘宝級の魔導具はこの世界では滅多にお目にかかれないレアリティで、金貨100枚分の価値がある。



「その娘の腕に必ずある、早く調べるのだぁ!!」



勝負に負けたら奪われると云うこの町の掟を無かった事にして、強引にエスメラルダの所有権だけを主張するベイカー。


頭がそれなりに切れる彼はデミタスの行動に危機感を覚え、奴隷紋が無いニャトランを切り捨て、エスメラルダの所有権だけを主張する事にした様だ。



(本当に忌々し小僧だ。先日の腹いせに小僧が連れていた猫も取り上げてやろうと思っていたが…… チッ、おのれデミタスめ! 私の賄賂を唯一受け取らなかっただけはある。まったくもって侮れない男よ…… )



根っからの悪人だが先を見通す力はあるベイカー。唯一の目の上のたんこぶだった男が敵に回った現状では、当初の予定通りには行かない。


それにもう他の議員に発言の機会はないだろう。ここは何とか多数決まで持ち込み、自身の有利に事が進む様に仕向ける。




「さあ、奴隷紋を調べるのだ! (……もし万が一が起きたとしても、此方にはSランク冒険者のタイタスがいるのだ。いかにあの小僧とてタイタスには勝てまい)


「そ、そうだ!」


「それぞ強奪された証、早速調べましょうぞ!」



そんなベイカーの言にそれまで黙り込んでいた議員達が息を吹き返す。



「…… どうですかな魔道士殿、貴殿がよろしければ奴隷紋を調べさせていただいても宜しいだろうか?」



デミタスがどうするかと聞いてくる。どうやら彼は僕の判断にこの後の事の行末を任せるつもりの様だ。


今この評議会場は僕が制圧していると言っても過言ではない。衛兵達の重力は切ってあるが、不穏な動きをする様ならまた動きを封じればいいだけの事。


問題は強そうなベイカーの私兵だが、此方はアレスが睨みを効かせており、今は動く気配はない。



僕の判断如何でどう動くか決めるつもりのデミタス。僕の状況如何では自身が生き残る為に、簡単にあちら側に寝返るだろう。



(…… とんだたぬき親父だね…… )



この場で奴隷紋の確認を断る事も出来る。だが僕はあえてエスメラルダの奴隷紋の確認を容認する事にした。



「ああ構わない。エスメラルダも問題ないね?」


「…… はい。大丈夫です」



今奴隷紋があるという彼女の腕は、僕の与えたドレスで隠れていて今は見えない。そんな彼女の元に評議会で呼んでいた紋章官が確認の為に近づいてくる。


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