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死霊組成  作者: ボナンザ
79/81

79話 評議会1

翌朝、僕は憂鬱な気分と共に目を覚ました。


今日はアジレスコの評議会からの召集命令の日、本心は行きたくない。僕には拒む選択肢もあったが成り行き上、一応は従う事にした。



ニャトランの願い事が発動したからには、この町の奴隷達は何らかの形で解放される事だろう。


それがどの様な経緯で、どれだけの時間がかかるのか僕には分からないが、間違いはない。


評議会に従ってそうなるのか、敵対する必要がありらのか、まあ一先ずは流れに任せるつもりだ。



「……ハア、めんどくさい…… (まあ、どくな事にはならないだろうな……)



ニャトランやエスメラルダも、審議確認の為に連れてこいとの要望だ。


なんでもニャトラン達の所有権が僕に有るのか審議すると言っているのだ。正直言ってムカつくが、その理不尽に対して見返してやりたい気持ちもある。


ニャトランはその性格からか、何も考えていない様に見える。その反面エスメラルダの方は、思い詰めた顔をしている。



「アレス、今日の評議会での話の流れ如何によっては、一暴れするかも知れないからそのつもりでいてね」


「かしこまりました」



彼もこの町に対して思うところがある様で、心なしかやる気に満ちているアレスの顔。



僕は今、知らぬ間にアレスが作ってくれた、皇帝蜘蛛の糸で編み上げたという魔導着を、いつも着ているジャージの上に着ている。


一本糸で編み上げたという魔導着はとても薄く、まったく重みを感じない。因みにこの皇帝蜘蛛の糸は、高い対物理と魔法防御の効果がある。



どうやらアレスさんは僕が寝ている間に、いろいろと動き回っている様だ。


闇さえあれば食事も要らず、疲れる事もない彼は僕の為にわざわざ生息地に赴き仕入れて来たとの事。


アレスさん、本当にありがとう。



このアレス製の魔導着と昨日作った魔導具とで僕の守りは万全だ。さあ吉と出るか凶と出るか、気は乗らないが伏魔殿に向かうとしよう。


--


アジレスコの町の中心部にある市民会館、そこにまちの評議会のメンバーが集まっている。



「皆さんお久しいな」


「1年振りの評議会ですな」


「それで、今日は何の評議でしたかな?」



評議会員の1人が分かって居ながらもある人物に話を振る。背後に数人の護衛を連れた、この町1番の奴隷商ニッチェ.ベイカーだ。



「ワシに逆らった愚か者の後始末を頼みたい。礼はいつもの通りに」



憎しみに染まった顔でそう言い放つベイカー。自身の思惑通りに事が運ぶと疑う素振りもない。



「ああならばいつも通り、簡単な話だ」


「まったく、早く片付きそうですな」


「ならば久しぶりの酒盛りと行きますか?」


「おおいいですな。早く片付けてそうしましょうか」


この町の重鎮だけで組織されている評議会。今日行われる審議の為に集まった総勢12人の町の中心人物達。


それぞれに投獄後に隷属にするや、後腐れなく極刑にするなど、好き放題に評議対象の処置に付いて会話を弾ませる。



正直この中に大した者は居ないのでその詳細は省くが、1人だけ侮れない人物がいる。


その者の名はデミタス.フィールド、アジレスコの町で卸問屋を営む評議会の議長だ。



「…… (簡単な話? 果たしてそう易々と進むだろうか、そうは思えんが…… )



このアジレスコの町は、奴隷売買に力を入れているアーリアナ王国直轄の町だ。その為町の重鎮は軒並み王党派の人物で固められている。


アーリアナ王国では王党派が絶対的に主権を握っている。言わずもがな、その殆どが腐り切った俗物だ。


そんな中でも真に王国を思う者達がブルナン派に属している。


このデミタスも表向きは王党派を偏っているが、実際は貴族派筆頭のブルナン侯爵の息がかかった人物だ



「今のままでは王国に未来は無い」それを嘆くブルナンが選ぶ彼の配下の者達は精鋭が多い。

そのためデミタス自身も物事の見通しが鋭く、本筋を捉える事に長けている優秀な人物だ。



「…… (ブルナン様の手の者の情報、数多の地で事を起こしているという猫連れの魔道士。もし今回の者がその者と同一人物だったならば、簡単に片付く話ではない……)



他の者が呑気に会話に興じる中、デミタスは1人事の成り行きに不安を感じていた。


--


そんな町の権力者達が一堂に会し思惑に耽る中、僕達が支度を終えてホテルのロビーで待っていると、最初の日に街を案内してくれた衛兵隊長が20人の部下と共に僕達を迎えに来た。



「ま、魔道士殿、これより評議会が行われる町の市民会館までご案内いたします」



初日こそあの巨大火球を見て僕達に怯えていた隊長だが、今回は部下の手前怯えた様子は見られない。



「はい。では行きましょうか」



だが僕が歩き出そうとしたその時、部下の1人が僕に手枷、足枷を着けようと近づいて来たのだ。


僕を犯罪者か何かと勘違いしているのか、その顔に迷いの色は伺えない。あたかも当然の様に僕を拘束しようとしている。


だがその者は僕に触れる一歩手前で動きを止めた。アレスが場が凍りつくかの様な殺気を放ったのだ。



アレスの殺気がこもった一睨みを受けて、その者は小便を漏らしその場で気絶してしまった。


話し合いの前だったため気絶程度で済んだが、そうでなければ彼はこの世の地獄を見ていただろう。


この一見で初顔合わせの警備隊の隊員の間に緊張が走る。何故隊長が引け腰なのか理解出来た様だ。



「ああ勘違いはしないでね。僕は犯罪者ではないし、貴方達に強制されている訳でもない。あくまで協力している立場だ。だから拘束は拒否させてもらう」



自分はあくまで彼等に協力している立場であって、強制されている訳では無いという事をはっきりと伝える。



「わ、分かっておりますとも…… 」



どうやら部下の1人の独断での行動だった様で、運ばれていく気絶した部下を隊長が睨み付けている。


僕は任意で町の評議会に出るのだ。決して犯罪者として出頭するのではない。だから拘束は断固拒否させてもらう。



「で、では市民会館まで案内させていただく」


「はい、行きましょうか」



アレスの一睨みでら僕達に手を出す者はいなくなった。そんなこんなで僕達は市民会館があるという町の中心部まで歩いて行く事に。


町の衛兵達は2メートル程の距離を保ちながら、近付かず、離れずの距離で着いてくる。


今回はニャトランとエスメラルダも同行する。ニャトランは皇帝蜘蛛の糸製のチョッキを着ており、エスメラルダは余程気に入ったのか、僕があげた黒いゴスドリドレスを着ている。


実はこのドレスの素材もダークシルクという、ブラックキャタピラーというAランクモンスターの素材で、皇帝蜘蛛の糸に引けを取らない素材なのだ。


そのため万が一の場合にも彼女を守ってくれるだろう。



「む、胸がドキドキするニャん……」


「…… 」



ニャトランとエスメラルダから緊張している様子が伝わってくる。正直言って僕自身も緊張しているのだが、彼等の手前は冷静を装っている。


精神を鎮める魔導具のおかげで冷静で居られる。彼等に取り乱した様を見せる訳にはいかないから本当に助かるよ。



「あ、あちらが我等アジレスコ市民の誇りの市民会館になります」



衛兵隊長が手で指し示した先には、この町の奴隷の血と涙の象徴。ゴテゴテの大理石の石像に、キラキラとうるさいクリスタルの飾り。


成金悪趣味全開の豪華な建物がそこに有った。



「うわ…… (いったい何人の奴隷を売ればこんな悪趣味な建物が建つんだ?)



隊長としては僕がその素晴らしさに驚愕し、圧倒されると予想していたのか、しらけモードの僕を残念そうに見ている。



「ハア、さてと行きますか……」



悪趣味の園に入るとこの会館の衛兵と思われる兵達が待っていた。そしてその手にはやはり拘束の為の枷が持たれているのだ。


どうやら彼等はどうしても僕を犯罪者として扱いたい様だ。ここまで案内してくれた衛兵隊長も、もう関係ないとばかりにソッポを向いている。



「評議会の命令だ、拘束させてもらう」


「…… 町の衛兵にも言ったが、僕は犯罪者ではない。だから拘束は拒否させてもらう」


「逆らうのならば魔導具での拘束も辞さない。大人しく言うことに従え!」



そう言うと隷属の首輪なる絶対服従の効果のある魔導具を取り出す衛兵。衛兵のその傲慢な態度に、僕達は話し合いの可能性は皆無だと悟った。



「ハア…… この世界の人間は言葉が分からないのかも知れないね」



衛兵の数は10人前後か、僕は衛兵の中で最も若そうな1人だけを残して、会館の衛兵達の足元を凍らせた。


彼等の足を床に凍り付かせたのだ。当分の間は床と張り付いた足が取れる事はないだろう。



「なっ! あ、足がぁ!?」


「あ、足が取れないぃ?!」



まあ、足が凍った程度では死にはしないと思う。その後に歩行困難になるかも知れないが、僕が彼等の足を凍らせなければ、きっとアレスが彼等の足を切り飛ばしていた。


彼の目が怒っている時のソレだったので間違いない。ここに来てアレスの我慢も限界間近の様だ。



そして僕達は足を床と凍り付かせた衛兵達をその場に残して、1人残しておいた衛兵に案内をお願いする。


トミーというソバカス顔のナイスガイだ。



「じゃあトミー君、評議会の行われる部屋まで案内してくれるかな?」


「か、か、かしこまりました!」



威勢の良い返事と共に進む彼の後を着いて行く。道すがらもこの町のお偉いさんの肖像画や、趣味の悪い黄金に輝く像などが目に付いた。



「…… (本当にこの世界の権力者は悪趣味だね……

でも、あの像が金か何かだったらお金になるかな。後で貰って行こう)



あの金の像を売れば僕達に対しての迷惑料、慰謝料代わりになるだろう。それだけの事はされているのだし、この世界で使える資金が欲しいと言うのも正直なところだ。



案内された部屋は中央に裁判所の様な証言台あり、その証言台を囲む様にこの町の権力者と思われる者達がどかりと座っている。


そして傍聴席にはベイカーがふんぞり返っており、その背後に奴の私兵と思わしき者達が座っている。



「…… まさに魑魅魍魎の棲家だね…… (さてさてどうなる事やら、嫌だけどこの茶番劇に参加するとしますかね)

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