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死霊組成  作者: ボナンザ
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75話 テスの冒険4、望まない同行者

死霊組成51話 テスの冒険4



昨晩の騒ぎから翌日、ジーナはそうそうに宿場の村を発とうと馬車置き場に向かった。傭兵団とのこれ以上のいざこざは避けたい、それが彼女の思惑だ。


だがそんな彼女の行動を予想していたのか、傭兵団の団長のモーゼスが馬車置き場で待ち構えていたのだ。



「チッ…… 」


「なんだ旧友へのあいさつが舌打ちなんて、近衛騎士筆頭にあらざる挨拶だな」


昨晩の出来事への当て付けか、口元にいやらしい笑みを浮かべながらモーゼスが言う。心底嫌そうなジーナを見ているのが本当に楽しそうだ。



「…… 悪いがアンタのお遊びに付き合う暇はない」


そんなモーゼスに付き合う気は無いとジーナは、彼を無視して預けて有る馬車の元に向かおうとする。



「…… 言霊の巫女、アンタが連れているお嬢ちゃんがそうなんだろう?」


「…… 」



モーゼスの突然の一言に動きが止まるジーナ。ライスムール聖王国の筆頭騎士が、たった3人だけの少人数で行動している事実。


とともに聖王国からの商人から聞いた与太話を統合して、モーゼスは独自にその事実に辿り着いた様だ。



ジーナはこのキレ過ぎるモーゼスの洞察力を警戒してはいたのだが、まさかその事実に彼が辿り着くとは思いもしなかった。



彼女はすかさず腰の武器に手を掛ける。彼女の今現在で1番の任務は言霊の巫女のテスを守る事。その為ならジーナは多少の問題は厭わないつもりだ。



問答無用でこの者を切り捨てる。



「まあ、まて。俺にこの事でアンタを脅すつもりは無い。今回はアンタに頼み事があって来た」


そんなジーナに対して一歩退くと共に、この場に来た真の目的を話すモーゼス。



「……頼み事?」


殺気は薄まらないが、ジーナのちょっとした動揺は見逃さなかったモーゼスは更に言葉を続ける。



「ああ、王国までの道筋を俺達と一緒に行動して欲しい。いや、俺達と共に行動しろ」



実は昨晩の騒ぎを聞き付けた彼等の雇い主の貴族が、ジーナ達の話を聞き付けて彼女達を護衛団に加えたいと言い出したのだ。


彼の雇い主は父親がアーリアナ王国で副大臣を勤める重鎮で、支払いも良いためモーゼスの傭兵団とは5年に渡る関係だ。



「俺の雇い主は我儘でな、一度言い出したらガンとして言う事を聞かん。それでも支払いは悪くない。そうゆう事で悪いが、雇い主の為に俺の頼みを聞いてくれないか?」


もっともな事は言っているが早く言えば脅迫である。



「…… 私が貴様の頼みを聞くと思うのか?」


モーゼスに対して更に殺気を強めるジーナ。彼女から言わせればこの場でこの者を始末してしまえばそれで済む話し。


確かにモーゼスは手強い相手だ。だが何のしがらみもなく殺す事だけなら彼女にも出来る。


テスの旅路の邪魔になるものは、如何なるものでも排除する。それが彼女が女王ユリアナから言い使った命なのだから。



「おっと、俺を始末しようだなんて物騒な考えは止めろ。今俺の部下が宿屋を囲っている、その意味は分かるよな?」


どうやら既にテスを人質に取られている様子。宿屋にはダハラも居るが、彼女だけではテスを守りつつ逃げ出すと云う芸当は無理だろう。


傭兵団だけならダハラ1人でどうにでもなるが、自分達が護らなければならないのはテス1人。



「…… 全て貴様の思惑通りと言う事か」



なんとも悔しそうに武器から手を離すとジーナはモーゼスを睨み付ける。



「王国迄の短い旅路だがよろしく頼むぜ護衛さん」


そんなジーナに不敵な笑みで返すとモーゼスは、旅支度をしている仲間の元に戻って行った。



「…… 本当にやり辛い野郎だ…… 」



そんな経緯でモーゼスの傭兵団と共にアーリアナ王国を目指す事になってしまった彼女達。そんな中でもジーナの心情とは対照的に、テスは何とも楽しそうだ。



「こんな大人数での旅なんて、ワクワクが止まりません!」


天真爛漫なテスの反応に不貞腐れていた自分が馬鹿らしく感じる。それと共に先程までの怒りがスウっと消えていく。



「…… まったくテスには敵わぬな」


このテスの天真爛漫なところが彼女にとっては唯一の救いだろうか。


だがテスとは違い、もう1人の護衛のダハラの方は怒り浸透といった様子。



「なぜこの様な申し出を受けたのか! 貴方は護衛としての役割を蔑ろにするおつもりか」


彼女は自分に断りもなく、彼女だけで勝手に決めた事に憤慨しているのだ。



「この者……テスの旅路には聖王国の運命が掛かっているのですぞ。その大事な旅を其方は何と心得る?!」


「これからの旅路には魔物も多い。いつぞやの様に盗賊に襲われる危険もある。なればこそ戦力は多い事に越したことはない。ダハラ殿もそうはおもわぬか?」


モーゼスからの脅迫の事は避けて、至って冷静にありきたりな理由を繕うジーナ。


都合が良いのか悪いのか、これから進む海岸沿いの街道は、旅人も多い分盗賊や魔物の類も多い。


ジーナとダハラの2人が居れば間違いなくテスは安全だ。それでも人数が多い事に越した事はないだろう。



「し、しかし…… 」


確かに旅路の安全を第一に考えるなら数が多いに越した事はない。だがダハラの真の目的はテスを聖王国に連れ戻す事。


ジーナ1人でも隙がないのに他も者が加われば、更に目的の遂行が難しくなる。



「すでに決まった事で今更覆せはしない。済まぬがダハラ殿もそのつもりで居てくれ」


「グッ…… 」


そんなダハラの思惑を見抜いている感のあるジーナ。ダハラ自身もその事実に気付いて居るからからこそ、彼女に返す言葉が無い。


ダハラの沈黙を了解と解釈してその場を去るジーナ。



気は乗らないが彼女はこれから、先方の貴族の元に挨拶に伺わなければならない。


ダハラは世間知らずなため自分1人で赴くつもりだ。また無礼者と斬りかかられたらたまったものではない。



「…… まったく気が乗らん、とんだ茶番だ……」



ジーナは嫌々と背に哀愁を漂わせながら、貴族が泊まる高級宿に向かった。



彼女がこれから会いに行く貴族の名はローバル.フィン.バルデウス伯爵。大臣の親の威を借る道楽息子だ。


彼は宮廷でも一二を争う程のイケメソで、本人もそれを自覚しているのか自信家なのも厄介なところだ。



ジーナが貴族が泊まる宿屋に向かうと、彼女の行動を見計らった様にモーゼスが待ち構えていた。



「…… 」


「俺の主人へ挨拶に来たんだろ? 案内する、着いて来い」


胸にモヤモヤを抱えながらモーゼスの後に続くジーナ。案内されたのは貴族様に誂えられた豪華な部屋。


ジーナの顔に嫌悪の感情が浮かぶのを他所にモーゼスが部屋の扉にノックをする。



「ローバル様、聖王国の筆頭騎士殿が挨拶に参りました」


「うむ、お入りいただけ」


部屋の中にはこの機会のために着替えたのか、金色に輝く趣味の悪い服を着た男が居た。そして部屋に入るジーナを目にすると少し落胆した様子を見せる。



「むっ何だ、あの娘は一緒ではないのか?」


「……(娘?)


ローバルの言葉に最初は意味が分からなかったジーナだが、彼が発した次の言葉で顔色を変える。



「ローバル様、挨拶にお越しいただいたのは筆頭騎士殿1人だけにございます」


「何だそうなのか…… あの娘を寝屋に誘おうと思っておったのに、今から呼んで来る事は出来ぬのか?」



なんとジーナの連れのテスに魅了されたローバルは、彼女を妾に取り立てようと旅の同行を申し出た様だ。


何とも下卑た貴族の醜態。他国の重鎮を前にその連れを、娼婦の如きに扱うローバルの醜悪さに顔を顰めるジーナ。


彼女が大の貴族嫌いになるのも頷ける悍ましさがそこにはあった。




「ローバル様、まだ筆頭騎士殿の挨拶が済んでおりませんぞ」


そんなジーナの心中を察したのか、モーゼスがローバルに挨拶を促す。



「ああそうだったな、ローバル.フィン.バルデウス伯爵だ。筆頭騎士殿、よしなにな」


先にモーゼスからジーナの身分を聞いていたのか、筆頭騎士という彼女の身分に対して上から目線の挨拶をするローバル。



「…… ライスムール聖王国筆頭騎士ジーナ.アインザック。アーリアナ王国迄の短い旅路だがよろしくお頼み申す」


ジーナはローバルの態度に思うところはあったが、ここでいざこざを起こしてしまってはモーゼスに従った意味が無い。


ここは無難な返事を返してこの場を乗り切る腹積りだ。



「そうか、うむしかし…… あの娘程ではないが其方もなかなかの美形。どうだ、今宵は私と……」


「旅支度が残っています故、これにて失礼」



ジーナはローバルの話しを遮る様にそう言うと趣味の悪い部屋を後にした。その際にモーゼスをしこたま睨み付けておいたが、彼は全く気にした素振りもなく、憎たらしい笑顔を返すだけだった。



そして望まない同行者達との旅路が始まった。道中はジーナの殺気混じりの視線に怯えたのか、傭兵団の者が絡んで来る事は無かった。


だが彼女達が逃げない様にか傭兵団も、距離を置きつつ彼女達を囲うような布陣で馬車を走らせている。


強行突破する程の事ではないが良い気分でない事も確かだ。



「…… (チッ、本当に嫌な野郎だ……)



そんな彼女達の前に海岸線から臨む青い海が見えて来る。



「わ〜! 綺麗〜!!」


3歳の頃から言霊の塔に幽閉されていたテスが、生まれて初めて見る海に歓喜の声を上げる。



「そうかテスは海を見るのは初めなのだな」


「はい。こんなに大きな湖は見た事がありません」


テスが幽閉されていた塔から小さな池は見えた。だが海を見るのはもちろん初めてだ。



「この湖は海といってな、遥か遠くの国まで続いているのだ」


「うわ〜 そうなのですか?!」


「この大海原の景色も其方にとって良き思い出となるだろう」


「はい!」


テスの純粋無垢な仕草を見ていると、出立前にあったいざこざで荒んだ心が晴れる気分のジーナ。


そんな彼女達とは対照的に望まない邪魔者の同行に不機嫌さを隠さないダハラ。本国より受けた使命の遂行の為には望まない状況だ。



「…… (まったく、これでは使命が果たせないではないか……).


それぞれの思惑は違えど運命共同体の彼女達、そんな彼女達の視界に次の宿場町ドールが見えて来た。



ここまでは傭兵団の数もあり魔物にも山賊にも襲われる事はなかった。だがこの宿場町ドールから先のビューヘン街道は海岸沿いの崖と、深い森に挟まれた難所。


ジーナとテスの2人だけなら問題はない。この街道は冒険者時代に何度も通っており、ジーナ1人でならテスを護りながら街道を越える事も出来る。


だがそこにダハラという不穏分子が入ると簡単ではなくなる。聖王国から出た事がなく常識のない彼女では、腕は立っても足手纏いでしかない。


それに彼女はテスを本国に連れ戻す事に執着している。その結果、どの様に足を引っ張られるか分かった物ではない。



ジーナにとってはダハラは、邪魔者以外の何者でもないのだ。


本来はこのドールの町で、商隊などに護衛として入れてもらう算段だったジーナ。そのためモーゼスからの申し出は正直言って渡に船だった。


まあその相手側が彼女が1番苦手な人物だったという事実が問題ではあるのだが……。



「……予想外の結果だったが、まあ街道を渡る算段も立った。一先ずは良しとしておこうか……」



暗雲立ち込めるアーリアナ王国への旅、彼女達の夜は更けていった。



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