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死霊組成  作者: ボナンザ
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69話 反省……




翌日目を覚ますと何故かアレス以外の皆がよそよそしい。



(んん? 何だろう…… 僕が何かしたのかな?)


ニャトランもエスメラルダも、何故か起きて来ても僕と顔を合わそうとせず目を逸らすのだ。それどころか少し怖がっている様にも見える。



「…… エ、エスメラルダ、ニャトラン、それにタマさんおはよう。良い朝だね」


彼等の機嫌を伺う様に少し明るめに朝の挨拶をしてみる。



「…… お、おはようございます……」


「……おはようニャン……」


「……にゃふん!」


原因は分からないが、やはり彼等に避けられている感が拭えない。



「さ、さあ元気を出して今日も一日頑張ろう」


「……」


「……頑張るなんて無理ニャン……」


「……にゃ……」


(う〜む、一体彼等に僕が何をしたのか、まるで見当が付かない)



僕には心当たりはないが彼等が怒っている事は事実。



「君達まだ目が覚めてない様子ですね。あちらの部屋に顔を洗う為の桶を用意してあります、顔を洗ってらっしゃい」



そんな現状を見兼ねたアレスが助け船を出してくれる。まったくもって頼りになる男だ。だがしかし何で彼等があそこまで僕を避けるのか、その原因がまるで分からない……



「……国幽斎様、国幽斎様は気付いておられない様なので言わせていただきます。あの『渡世丸』は普通の人間には少々刺激が強すぎます」


「えっ?! 『渡世丸』が?」


僕はアイテムボックスから取り出した鞘に収まったままの『渡世丸』を見る。相変わらず素晴らしい出来だ。


それでもアレスに指摘されたその意味が分からない。



「はい。『渡世丸』は魔道書から直に力を注ぎ込まれた事によって存在の格が跳ね上がり、神器に変化してしまったのです」


何とアレス曰く、魔導書からの力の流入が強過ぎた為に刀の格が跳ね上がり、『渡世丸』がゴッズクラスの武具に進化してしまったと言うのだ。


インテリジェンスウェポンに進化したのもそれが原因だろう。



この世界のレアリティで最高峰のゴッズクラスの魔導具や武具は滅多に目にする事はない。あったとしても人知れず迷宮の奥で眠っているか、一握りの強者が所持している物が殆どだ。


滅多に世に出ないゴッズクラスの魔導具、しかも『現世丸』は魔導書特製のオーバーユニークでもある。


僕が国分さんに渡した魔道具カウンター.マリスが、お祖父ちゃんの残してくれた魔道具の中で唯一のゴッズクラスの魔道具だった。


カウンター.マリスは身を守る為の防御の魔道具だ。そのため持ち主や敵意を持たない者に害はない。それはお祖父ちゃんがそう作ったからだ。



だがアレスが打ち、僕が仕上げた刀『現世丸』は敵を攻撃する事に特化させた武器。それに意思を持つインテリジェンスウェポンでもある。


その刀身が放つ強い剣気は向けられた者を死に追いやる事が出来る程に強力で、そのため耐性を持たない者には抜き身の真剣を喉元に突き付けられるかのごとく害悪なのだ。



「……そ、そんな……」



抜き身の真剣を首筋に当てがわれている様な感覚がずっと続いていたのだ。ニャトラン達に与えた心労ダメージは余程の物だろう。



「神話級の武具は免疫のない者にとっては害毒にもなり得ます。特にオーバーユニークでも有る『渡世丸』が及ぼす影響は計り知れません」



僕はアレスの言う事を聞いてピンときた。アレスの言う事が正しければ、僕はニャトラン達の首筋に真剣を突き付けていた事になる。


だが僕を避けてはいたが心身的に参っている様にはみえなかった。もしかしたら、この刀からの影響をアレスが最小限に抑えていてくれたのかもしれない。



いや、そうとしか考えられない。なんとアレスは『現世丸』からの力の刃流を受け止める為の防壁となり、ニャトラン達を守ってくれていたのだ。


そうなると彼自身にもそれなりのダメージがあった可能性がある。



「…… アレス、ひょっとして……」


「魔導書の所有者であられる国幽斎様はその影響を受ける事はありません。影響を受けないという事は他の者に及ぶ力にも気付く事が出来ない。それは仕方のない事なのです。貴方様がお気になさる事ではございません」



アレスが僕の言を遮る。そして僕に非がないと、仕方のない事だと言う。どうやら彼は以前から、僕の魔導書の影響が他に及ばない様に、漏れ出る力を抑えてくれていた様だ。


それでも、僕に組成されて神代の力を持つ様になった彼でも、魔導書『死霊組成』からの間接的ダメージは計り知れない。


僕は改めて、アレスの僕に対しての忠義の厚さを思い知った。まさか魔導書の影響がこんなにも大きいとは……



「アレス、君にも知らずとはいえ、多大な被害を与えていた様だね。ごめん…… こんな事にも気付けない何て、僕はマスターメナスとして失格だな……」



アレスの障壁があってこうなのだ。もしアレスが居なかったらどうなっていたかを思うとゾッとする。


もしアレスが間に入りクッションの役割をしていなかったなら、その先は考えたくもない大変な惨事だっただろう。



「国幽斎様に組成された私なら、魔導書の力に如何様にも耐える事が出来ます。ですからこのアレスに任せて、貴方様は己の道を突き進んでくださいませ。それこそが我が望みでもあるのです」


僕に向けられたその言葉には「尻拭いは自分に任せて、ただ前だけを向いていてくれ」との意味合いも含まれているのだろう。


確かに魔導書『死霊組成』で再組成された彼は、闇と一体化する事によって瞬時に傷やダメージを癒す事が出来る。


即ち闇さえ近くにあれば不死身と言っても差し支えのない存在だ。



彼はこれから先も僕が知らず知らずの間に及ばす様々な障害の盾になり、他の者達を守る障壁となるつもりなのだ。それが彼なりの忠義の形。


そんな彼の思いに報いる為にも僕は、魔導書に使われるのではなく、魔導書を正しく使える真の所有者にならなければならない。



それまでは申し訳ないがアレスの兄貴分的忠義に頼る事にしよう。



「アレス…… ありがとう。そしこれからも、僕のサポートを頼む」


「かしこまりました国幽斎様。お任せ下さい」



力強い眼差しでアレスすが返事を返す。


友達の少なかった僕にはこうゆう時にどうしたらよいのか分からない。だがアレスが自然と出した握手を求める手に僕は笑顔と共に応えた。


僕とアレスは改めて握手を交わして、互いの信頼関係を確かめ合った。



僕は魔導書の所有者マスターメナスだ、その影響を受けない。だがそれは他の者への被害にも気付けないという事だ。


知らなかったとはいえ、今度からは魔導書の扱いには細心の注意を払わなくてはならないだろう。



「…… 後でエスメラルダとニャトラン、タマさんに謝っておかなきゃな…… (しかしまあ、何と凶暴な刀を作ってしまったのだろう、まさか刀が勝手に、それも見境なく敵対行為をとるとは……)



2度とこんな事が無い様に『渡世丸』には、彼等を攻撃対象から除外する様に設定しておこう。


それと共になるべく彼等の前では、魔導書や『渡世丸』を使わない様にしよう。これ以上害悪を与えたくないし、彼等に嫌われたくない。



それから顔を洗いに行っていたエスメラルダとニャトラン、タマさんが部屋に戻って来る。僕はその場で皆に謝る事にした。



「皆んなごめんなさい…… まさか皆んなに危害が及ぶとは思っていなかったんだ。今度からは気を付ける事にするよ……」

 

知らなかったでは済まされない事だが、僕には彼等に頭を下げるより謝る方法はない。



「大丈夫にゃ、吾輩はセイジに大きな借りが有りますにゃ。セイジ殿を信じてますニャン」


「にゃにゃ」


ニャトランとタマさんは気にするなと言ってくれた。楽観的で基本優しいニャトランと、それなりに付き合いの長いタマさん。彼等は許してくれた様だ。



だがエスメラルダは出会って一日経ったかどうかの間柄だ、仲もそんなに良いとは言えない。


彼女は何も言葉を発する事なく無言で下を向いている。やはり怖がらせてしまった様だ……



「エ、エスメラルダ……」



僕が話しかけ様とすると彼女は逃げる様にニャトラン達の方に行ってしまった……


まあ『現世丸』によって死を連想させる状況に追い込まれたのだ。それは致し方のない事だろう。



「…… (しばらくは、そっとしておいてあげよう)



今は僕が近くと恐怖から逃げてしまうエスメラルダ。しばしの間はニャトラン達に任せて見守る事にする。


彼女達にプレゼントを渡しそびれているが、それも後日でいいだろう。



そんな憂鬱な朝を過ごしていると案の定、予想通り魔道書が生贄を欲して蠢きだした。



「ハァ…… はいはい分かったよ、ちょっと待っててね」



だが今回の生贄の当ては付いている。『渡世丸』の試し斬りと魔道書の生贄の為に、このムカつく町の資金元を利用させてもらおう。


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