68話 刀作り2
よろしくお願いします
『先ずはこの刀の許容量を見測る』
調べてみたところこの刀には、3つのトリプルレアと1つのダブル、3つのレア能力を付与出来る事が分かった。
因みに付与可能な力のランクはトリプルレアを頂点に、ダブル、シングル、アンコモン、コモンとなる。
余程に希少な素材で作られたエンシェントやレジェンドの素体でなければトリプルは付かない。
付いたとしても一つ付けば御の字で、これだけのレアリティが複数付く素体は滅多に無い。
お祖父ちゃんが残してくれた魔道具の中でも唯一、あのカウンター.マリスがトリプル2つにダブル3つ、アンコモンが4つとレアリティがズバ抜けて多かった。
それに並ぶポテンシャルのこの刀。アレスが打ち上げた時点でレジェンドクラスの力を有していた。やはりアレスにはそれ相応の褒美を与えなければならないだろう。
そうなると問題は、刀に付与する能力だ。この天下無双の刀に合った能力を選ばなくてはならない。
僕が受け継いだ魔導書『死霊組成』には強力無比な付与能力の数々が載っている。
奈落の禁断のラビリンスに眠る失われた能力や、邪神や魔神がその長い生涯を費やして手に入れる様な力や、この世に出たならば世界の均衡を崩す禁断の力などだ。
僕は『展開魔法陣.万物婚流』の力を使う事で、それら禁断の力を自在に付与する事が出来る。
だがこの能力を使う今回の生贄の確保は予想以上に大変そうだが、仕方がない事なのでそれだけは覚悟しておこう。
では早速能力の付与を始めるとする。先ず最初に刀に付与するトリプルの力の一つは"次元断絶''の能力だ。
この能力は空間を切り裂く能力で、いかなる防御も意味を成さない、正にこの刀に相応しい無双の力。
注ぎ込んだ魔力の容量によって威力と範囲、飛距離が変わるため、魔力が高く剣術の素人の僕にはうってつけの能力でもある。
牽制の役割もあり非常に戦闘の幅が広がる。僕が真っ先に付与したかった能力だ。
そして次に僕が選んだ能力は''高速再生''。
いかなる傷でも、あり得ない事だが例え粉々に砕け散ったとしても瞬きの間に再生する能力だ。
大切な刀を失う訳にはいかないからね、この力は必ず必要だろう。
因みにこの刀を持ちながら何らかの治療行為を行うと装備者にもその恩恵があり、治療の際の効果が跳ね上がるオマケ付きだ。
そしてトリプル最後の能力は"自動操作''の能力。
この能力は、持ち主の魔力を宿す事によって自動操作が出来きるようになる能力で、持ち主の命で自動的に動かすことが出来る。
AIの様に自ら考えて持ち主にとって最善の行動を選ぶ様になる。それに魔力を覚えさせる事によって持ち主以外が扱えない様にする事も出来るのだ。
一度持ち主の魔力を覚えた刀は、その魔力を上回る者で上書きしなければ持ち主を代える事が出来ない。
アレス曰く、「国幽斎様の魔力を超える者はこの世には居ないため、もし奪われたとしても扱う事は出来ないでしょう」との事。
本来自動操作の能力は、付近にいる者を無差別に攻撃対象にする。だがこれから取るダブルの能力と組み合わせる事で、敵だけを見極めて攻撃させる事も可能。
その能力と合わせる事で、睡眠中の見張りの役割もこなせる万能能力と化すのだ。
そしてそのダブルの能力は、任意に攻撃する対象を選ぶ事が出来る"取捨選択''だ。
本来は違う用途に使う能力だが、先の自動操作の能力と合わせる事で真価を発揮する。
これだけ強力な刀なだと、味方を巻き込んで攻撃してしまう可能性がある。だがこの能力を付ける事で刀の成長を補う事が出来るのだ。
不必要な物は避けて、目的の的だけを攻撃する。
特に僕の剣術は素人だ、味方を攻撃してしまっては目も当てられない。間違って味方を攻撃してしまわない様にこの能力は必須だろう。
それにこの能力を付与する事によって自動操作の欠点を補う事も出来る。ダブルには他にも有用な能力はあるが、この刀の方向性的にこの能力で決まりだ。
残りのレアには"剣術向上.中''と''防御力上昇.中''、"回復能力中"を付与しておいた。
能力向上系は小で0.8倍、中で1.5倍、大で2.5倍、特大で5.0倍の向上効果が有る。他の魔道具とシナジーが合えば更なる能力の向上も図れる。
攻撃特化の能力で固めたこの刀なら、僕の拙い剣術を補ってくれるだろう。
そして僕が付与作業を終了させると刀がピカリと瞬く。付与した能力が定着した事の証しだ。
それと共にこの刀がインテリジェンスウェポンに進化したとの情報が入ってきた。インテリジェンスウェポンに成った事で意思を持ち、刀に命が宿ったのだ。
選んだ能力が刀の進化の手助けになった。
刀と意思の疎通が出来れば戦略の幅も格段に広がるだろう。まだ生まれたての子供の様な刀だが、会話が出来る様になるのが楽しみだ。
ついでに柄には白い大蛇の皮に深い紺の柄巻きを巻き、頭と目貫、鍔、その他の金具にはアレスに作ってもらっておいたオリハルコン製の物(細工が凄い!)を使用した。
鞘はこれまたアレスに作ってもらった物で、光沢のある紺に金色の龍が描かれている。なんてセンスが良いのか、アレスの万能さには頭が下がる思いだ。
この刀は能力を付与する前から剣気が刀身から溢れていた。並の鞘ではその力を抑える事が出来ず壊れてしまう。
抜き身の刀身でアイテムボックスに入れておけば済む話しだが、それだと見栄えが悪い。
これだけの名刀なのだ、鞘もそれに適した物にしたい。
そのため鞘にダブルの"空間隔離''の付与を施して刀の力が外に出ない様にした。それと共にアレスが施したオリハルコン製の黄金の龍の飾りに人工の魂を付与する事にした。
人工魂とは謂わば自己学習能力を有した高性能のAIの様なものだ。育てば人間を超える知能を持つ様になり、魔法やスキルに似た力も使える様になる。
今はまだ生まれたての子鹿の様に心許ないが、後には召喚獣の様な役割をさせるつもりだ。
それらの結果、魔力を込めれば込めただけ切れ味も射程距離も上がる無双の刀が完成した。正直言って僕には過ぎた品物だが、この異世界の地で生き抜く為にきっと役立ってくれるだろう。
もう一振りの刀にはトリプル2つ、シングル2つのレアリティが付いていた。
こちらの刀には高速再生、クリエイティブ関連に大きな付与が付く"気韻生動''、センス上昇中、錬金術の能力を付与した。
言わずもがな、この刀はアレスに褒美として与えるつもりだ。アレスは争い事よりクリエイティブ関連の方が彼本来の性質で向いていると思う。
だからクリエイティブ関連の能力が上がる付与を施したのだ。それでももちろん武器としても一級品である。
復活を待つ4人の再生にもこの刀の力は役立つだろう。彼女達は半ば魂が壊れて消滅する一歩手前の状態だった。その魂達を魔導書の力で修正して彼の側に添えた。
今では神に匹敵する力を有するアレス。そんな彼でも壊れた魂の再生は難しい。そちらの方でも彼の手助けとなってくれるはずだ。
アレスの刀は黒一色で統一した。赤い鳳凰の様な飾りにも人工魂を付与した。これでアレスも喜んでくれるだろうか?
それと、残った素材を使って悪意感知の魔導具"ジャッジ''を作った。お祖父ちゃんの作り置きは国分さんに渡してしまったためない。
明後日の評議会に向けてこの魔導具は必ず必要になる。作っておいて損は無いだろう。
一先ずは魔道書を閉じて完成した刀のお披露目と行こう。
ーーーーー
魔道書からの光が晴れ刀を手に立つ僕の元にアレスがやって来る。
「お疲れ様です国幽斎様。茶を用意しております、喉を潤し下さい」
「ああ頂くよ、ありがとう」
本当に気が利く男だ。僕はアレスが淹れてくれたお茶で喉を潤しながら皆を見る。
アレスはもちろん、ニャトランとタマさんがまた何かやっていたニャンとばかりに訝しげに僕を見て来る。
エスメラルダも驚愕とも恐怖とも取れる面持ちで、こちらを見ながら佇んでいる。
魔導書の力は他者には人智を超越した力だ。それを恐れ驚愕することは無理もない事だろう。
(魔導書の能力を使った事で、ちょっと怖がらせちゃったかもしれないね……)
実は彼女達に渡そうとある物を一緒に作っていたのだ。それは"セーフティ.ロー''という一度だけ悪意から保持者の身を守ってくれる魔道具だ。
別に深い意味はない。ただしばらくの間は共に行動するのだ、お守りみたいな物だと思ってくれれば幸いだ。
今は一先ずアレスに刀の完成お披露目をすることが先決。アレスとの共同作成の刀だからね、彼の顔にも早く見せて欲しいとの色が伺える。
僕は少しだけ焦らす様にアイテムボックスから刀を取り出すとアレスに手渡した。
アレスは何故か少し躊躇した様子で鞘に収まった刀を見ている。
「どうしたの? 早く抜いて見て見なよ」
「はっ。では……」
僕に急かされて鞘から刀を抜くとアレスは、眼前にその刀を翳した。
刀を鞘から抜いた途端に溢れ出す濃厚な剣気、まるで喉元に真剣を突き付けられている様な感覚だ。
「これが完成した刀だ。いい出来栄えでしょ?」
「……おお、これは素晴らしい!……」
刀の出来栄えにいつもは冷静なアレスも興奮気味に見入っている。そんな彼に僕は刀に付与した能力とその使い道を説明する。
「なるほど、誰が持っても無双の刀とかす。実戦経験の少ない国幽斎様の補助にはピッタリな刀でございますね」
これからアレスには剣術の先生になってもらう。だから少しトゲがあるが気にしない。
「それで刀の銘はいかがなさいますか?」
刀の銘は決めてある。
「刀の銘は『渡世丸』(ウツヨマル)。世界を渡り現世を切り裂く、この刀の銘に最適だと思うんだ」
最後の丸は先人の受け売りから、昔の刀鍛冶は器物に人智を超えた力を与えたいと願う気持ちから、「丸」という童名を付けたという。
なんか八百万の神を信じる日本人だしい発想だね。
「『渡世丸』……」
アレスには僕が渡界人だとは話してないが、薄薄勘付いている様子。
「正にこの刀を現した素晴らしい銘だと思います」
『渡世丸』の出来栄えに心から満足そうなアレス。この刀の制作の半分は彼の功労だ。それ無くしてこの刀は存在しなかった。
だから彼が気に入ってくれて本当に良かった。
「それと…… これはアレスへの褒美なんだけど、受け取ってくれるかい?」
完成した『渡世丸』に満足そうなアレス。そんな彼に、彼の為に仕上げたもう一振りの刀を手渡す。
「わ、私に?」
「この刀の制作はアレスとの共同作業だ。そして君の成果に報いる為にこの対の刀を受け取って欲しい。刀の銘は『共鳴』だ」
しばしの間手渡された刀に見入っていたアレスが、鞘から刀を抜き何もない空目掛けて振るった。
刀はピシンという乾いた音と共に空を切り裂いた。その一振りの余韻に浸っていたアレスが僕に真っ直ぐな視線を向ける。
「…… この刀、謹んで受け賜ります……」
「うん。この刀には君の生成を手助けする為の能力が付与してある。彼女達の復活にも活かせると思うよ」
僕がサムズアップをすると、何とも気持ちの良い笑顔でそれに応えるアレス。そして何よりも大切そうに刀を闇の中に仕舞った。
アレスの笑顔で刀作りの苦労も報われた思いだ。
それでも魔道書を開く事で、ごっそり魔力を持って行かれる様で体の疲れが酷い……
魔道書の生贄の事も有るし、今日はもう寝る事にしてエスメラルダ達へのプレゼントは明日にしよう。
うん、そうしよう。
ありがとうございます。




