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死霊組成  作者: ボナンザ
63/81

63話 ブラック.レオパルド

よろしくお願いします




我は影、影に潜み命を狩る闇の権化。


闇と共に現れて、闇と共に去り行く死の化身。


我を姿を見た者は例外なく死体となる。


そう我は死を運び命を刈り取る死神。



そう空に呟きながら漆黒の馬車を見張る者がいた。"黒き隣人''、''ブラック.レオパルド"の2つの異名(黒き隣人は自分で考えた名前)を持つ、王国1の暗殺者グリズムだ。



「……フフフン、今日も月夜が我を祝福している……」


王国1の殺し屋で有り、重度の中2病でもあるグリズム。彼は月光の下で自分の時間に浸るこの瞬間が好きなのだ。



因みに語頭と語尾がくぐもるのはわざとだ。そして彼は今''猫連れの魔道士''を追跡している。


猫連れの魔道士は神出鬼没でなかなか行方が掴めなかったが、やっと街道沿いの宿場で猫連れの魔道士に追い付いたのだ。


恐ろしく早い漆黒の馬車で移動していたため、見失いかけたが何とか追い付く事が出来た。



「…… ここに来るまでにも猫連れの魔道士に関する情報は仕入れてある。2日間の間、夜を昼に変えたとか、死霊で溢れかえっていたバットス草原の邪悪なネクロマンサーを払ったとか、眉唾物の話しばかりだが……」


それでも彼が邪魔者のデボンを始末する為に、グランの町を攻めさせようと、育てていたゴブリンのコロニーが滅んでいた。


先代と先先代には、有用な領主だったため公爵家も兵や資金を貸し出すなどして協力していただしいが、今の領主はダメだ。


それを駆逐する為に彼はゴブリンキングを育てていたのだが計画が台無しだ。それにバットス草原に死霊の類が出現しなくなったりと、不可解な事が立て続けに起きている。


先先代領主の負の遺産、あの時も公爵家の助けが無ければネクロマンサーに滅ぼされていただろう。



「…… あのゴミを始末するためわざわざグランの町に寄り道をしたが、まあ欲しい情報を仕入れる事が出来たので上々としておこう……」


それより問題は一連の出来事だ。



(ゴブリンキングを討伐出来るのはAランクの冒険者パーティレベルの力が必要だ。方やバットス草原は聖女でも封印する事だけで限界だった場所。30年の長きに渡って放置されてきた呪われた場所だ……)


バットス草原はネクロマンサーの死の呪いの影響か、聖女でも死霊共を草原に閉じ込めるために、封印するのがやっとだった。


その場の死霊を滅ぼし除霊をするとなると、最低でもSランクの冒険者か、大賢者、勇者レベルの逸材が必要だろう。


可能性は低いがマスターメナスが関与している可能性も捨て切れない。魔導書の欲するままに森羅万象を操り全てを無に返す者達。


彼はかつて見た帝国のマスターメナスの悍ましい姿を思い出す。相手方の戦力を身測る為の隠密偵察だったが、その悍ましさに逃げ帰るだけで精一杯だった。


彼が13歳の時の話し……。



「…… 」


もしかの者達が動いたとなれば、それは国家間の争いに等しい脅威。



「……この2つの事柄が偶然だとはとても思えない(それらの出来事には間違いなく猫連れの魔道士が関わっている……)


彼の予想では猫連れの魔道士は、最低でもA〜Sランクの冒険者並の強さを有していると見ている。そんな英雄級の活躍をする強者が何人も居ると考える方がおかしい。



因みにグリズムは通常の状態でAランク、ダブルのスキルと先祖遺伝の忍術を使ってSランクの冒険者相当の強さを有している。


覚醒遺伝か忍者の技をスキルの形で2つ授かっているダブルスキル持ちだ。


影も音も無く近付く彼に対応出来るのは、人類の最高峰のSランク冒険者か、女神のスキルを持つ逸脱者や強力なスキルを持つと云われる渡界人くらいだろう。


そんな彼自身も渡界人の子孫で有り、その能力の一分をある形で受け継いでいる。



「……先ずは猫連れの魔道士の力量を調べる事が先決か……」


そう言うと彼は自身の右腕に巻かれた包帯を見る。少し雑目に巻かれた色褪せた包帯。



「……どうやらこの我の腕に封じられし、禁忌の力を解き放つ時が来た様だ……」


彼の腕には先祖から受け継いだ忍術の一分、"影縛り"という能力が入れ墨の形で施されている。


この''血統血彫り''は彼の一族に代々伝わる秘術で、本来はスキル所有者しか使えない忍術を、秘伝の技を使って施す刺青という形で使える様になれるのだ。


この秘術は渡界人の血を受け継ぐ彼等一族しか使えない。彼はこの秘術を3歳の頃に施されている。


彼は生まれながらのダブルに加えて、この刺青による付与で、この世界でも非常に稀なトリプルスキラーなのだ。


すでに彼の生まれ里は帝国に滅ぼされており、忍術を扱えるのはこの世界で自分だけだと彼は思っている。


妹的な存在もいたがあまり覚えていない。



因みにこの"影縛り''の能力は、次元の狭間に有る影の世界に、捉えた生物を封印し任意で解放出来る能力だ。


一度に封印出来るのは一体のみで、自身より強い生物や知能の高い人間などの生物は封印出来ない。


今の彼の腕にはサイクロップスが封印されている。サイクロップスはBランクの冒険者がパーティで討伐出来るレベルの魔物。


彼は猫連れの魔道士の強さを確かめる試金石として、わざわざ山岳地帯にまで赴いて捕まえて来たのだ。


正直そんなに大した魔物では無い。このスキルも使用後に少し眩暈がする程度、彼の腕の疼きも気分次第、彼の病気はそれだけ重病という事だ。



「……こいつで魔道士の力を見極める……」


グリズムは猫連れの魔道士が眠る馬車が見下せる崖の上から、自身の腕に封じられているサイクロップスを解き放った。


崖の上から解き放たれたサイクロップスが、ドス〜ン!という爆音と共に獲物を探して走り出す。


サイクロップスには1週間の間なにも食べ物を与えていない。そのため彼の腕から解き放たれたサイクロップスは、商団の馬車を薙ぎ倒しながら1番魔力の高い者が居る馬車目掛けて走り出したのだ。


魔物には魔力の高い生き物を狙う性質がある。これは弱肉強食の世界で、より強い者を取り込んで上位の種族に進化する為の魔物の本能なのだ。



「……さあ見せてみろ魔道士、お前の力を……」


馬車までの距離はおよそ500メートル。解き放たれたサイクロップスは漆黒の馬車目掛けて激走して行く。


だがサイクロップスが馬車まであと20メートルと迫った時だった、突然にサイクロップスが全身から血を吹き出して倒れたのだ。



「!?」


何が起きたのか他の者には見えなかったと思われるが、生まれながらに影を扱え闇に近い彼には見えた。


幾本もの漆黒の巨大な針が、一瞬の間にサイクロップスの全身を貫き絶命させた光景を。



「…… な、何だアレは…… 」


瞬時に夜の闇を取り込み武器に変える。その現象を見る事は出来た、だがそれを理解する事は出来なかった。


彼も影縛りの忍術を使えるため、闇の力への精通はある。だがこの現象は全くもって異質だ。



「……… 人の成せる技では無い………」



倒れたサイクロップスの上空にはいつの間にか、一見優男に見えるメガネの男が浮いており、彼の存在に気付いているのか此方を伺っている。


彼は今インビジブルとサイレントのスキルで空間に身を隠している状態。彼の正確な場所は特定出来ない様だが、何者が居る事には気付いている様子。


圧倒的な殺気が彼の居る周辺を包み込む。彼は生まれて初めて、いや2度目の蛇に睨まれた蛙の心境を感じていた。



(………ダ、ダメだ、もしヤツに見つかったならば我は………)



彼の背中に冷や汗が滴る。暗殺者として長年生きて来たがこんな事は初めてだ。あの者は帝国で見たマスターメナス以上の脅威だ。


彼の本能が警告を発している。狩る者が狩られる逆の立場になる。見つかれば間違いなく彼は殺されだろう。


そんな絶対的な緊張感の中なぜか突然と、メガネの男が姿を消した。まるで闇に溶け込んだかの様にいつの間にか姿を消していたのだ。


一時たりとも目を離さなかった彼だったが、いつメガネの男が消えたのか分からない、理解出来なかった。



「…… この俺が気付かぬ間に逃げ…… いや、立ち去ったのか…… 」


グリズムが潜んでいるのは死招草を間に挟む事もなく、アレスから500メートル程離れた場所。それは今現在でアレスが探知出来るギリギリ限界の距離。


もし彼があと1メートル前方に居たならば、アレスの探知に引っ掛かり闇槍に貫かれ絶命していただろう。



魔導師が召喚した(ゲボク)か、はたまたま元から居た部下なのか、その正体は分からない。だがあの者の存在だけで彼の中で猫連れの魔導師の警戒度が数段階跳ね上がった。


紙一重の所で命拾いをしたグリズム。彼が助かったのはただの偶然で次ぎはない。


だが彼はここで逃げ去る訳にはいかない。逃げる事は出来ない。



「……ブルナン様に魔道士を調べろと仰せつかっている。ここで逃げる訳にはいかない!」



ブルナンの指示は魔道士の力を見極めて、有益有害だったなら殺せだ。


自分を基準にして自分より弱い場合と、王国に脅威有りと認めた場合は強制排除。自分と同等かそれ以上ならば、為人を見極めて勧誘する。


ブルナンの命は絶対だ。例えその先に死が待って居ようとも彼はそれを遂行するだけだ。



ブルナンは幼少の頃に一族を、家族を殺された彼を引き取り、暗殺者として育ててくれた恩人。


ブルナンからはこの世界で生き残る為の術と、人の殺し方を教わった。とても厳しく辛い日々だったが、彼はブルナン様の期待に応えるために一級の暗殺者となった。


たとえそれが、彼のスキルや忍術などの能力を利用する為の行動だったとしても気にしない。何故なら自分が、ブルナンに助けられ育てられた事は紛れの無い事実なのだから。



「……」



彼は思い浮かべる。


厳しく辛い毎日だったが、課せられた試練を乗り越えた時に、ブルナンに褒められて頭を撫でてもらえた幼き頃自分の記憶を。


記憶には無い父親の姿をブルナンに重ねて見たあの幼き頃の記憶。



「…… 我は影。影に潜み獲物を狩る闇の使者。我に命は要らぬ、ただ死を届けるそれだけ……」



そして彼は与えられた任務を遂行する為に再び実体を空に消した。


ありがとうございます。

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