59話 ローレン.フィクションの秘宝
よろしくお願いします
「…… し、喋ったぞ」
「こ、こいつは驚きだな…… 」
私が思わず声を出してしまった事で場の空気がほぐれ、一気に明るくなる。そして何年(150年)振りかは忘れたけれど、私の声が出た事にも驚きだ。
それより何より私、なんて格好をして居るの……
水晶花で見た私は、肩と腰回りは植物と一体化しているけど、頭と胸と足は外に出ている。
そしてその体は、かつての私が知るものとは全く別物だった。人の18〜20歳位の歳に見えるその姿は美しいの一言に全てが凝縮されていた。
(えっ! これが私…… というより何なのあの大きな胸は…… それに顔だってまるで違う、まるで昔本で見た女神様の様に綺麗…… 。 私、植物に取り込まれた後も成長してたんだ…… )
ダークエルフは特殊な生態をしており、魔力が高ければ高い程に若く美しい見た目を維持する。
平気寿命が2000〜歳と云う超長寿の種族。魔力が高い者の中には1800歳を超えても、美しい見た目が変わらない者も居たと云う。
私の場合は膨大な魔力が長年の寄生樹の支配を超えて、逆に寄生樹の養分を吸収していたのだ。植物魔法の一部を使える様になったのもこのためだ。
そんな私が1人考えを巡らせていると、ナスターシャが私に近づいて来る。
「喋れるって事は会話をする知能は有るて事だな? 早速で悪いが、この場所と現状について聞かせてくれないか?」
ナスターシャに戦意は無い、私が話せると分かって会話をするため近くに来た様だ。もし私が敵対したとしても彼女なら対応出来る。それも彼女の行動の要因の一つだ。
「…… わ、私はエスメラルダ。何年前かは覚えていないけど、ここに幽閉された者です…… 」
「幽閉? 何ともきな臭い話しだね…… 」
私が現状に至る経緯を話すと、ナスターシャの顔が険しくなる。
「…… それと、宜しければ今の年を教えてくれませんか?」
「今は856年の卯月だ」
「は、856年!」
ダークエルフの暦と人の暦は少しのズレはあるがほぼ同じだ。エスメラルダは自分が幽閉されてから、150年以上の月日が過ぎていた事に驚きを隠せない。
「…… 嬢ちゃん、あんたがここに閉じ込められたのはいつ頃の話だい?」
そんな私の態度が気になったのか、ナスターシャが聞いてくる。
「エルフ暦の704年です…… 」
「!」
150年の月日は普通の人ならば既に死に絶え、次の輪廻に入る、そんな月日だ。
「それはまた途方もない話しだな……
つかぬ事を聞くが、この場に居た植物人間は?」
「はい。きっと私と同種族の者達です」
「やはりか…… 」
感の良いナスターシャは自分達が倒したものが私と同じ種族の者達だと勘付いた様子。それと共にこの場所が処刑場で有ることにも気付いた様だ。
人間にとっては途方も無い月日、その間ずっとここに閉じ込められて居た私に、哀れみの視線を向けるナスターシャ。
「気にしないで下さい。彼等もあのまま……
寄生樹に寄生されたままの自由の無い現状よりは、貴方達に倒されて解放されて良かったと思います。それに私だって…… 」
今の私は喋る事は出来ても動く事は出来ない。後どれ位の間ここでこうして過ごすのか、それを考えただけでも身震いが起きる……
いっそう私も、彼等の様に殺された方が楽になれるんじゃないかと思ってしまう。
「…… 」
そんな私をマジマジと見るナスターシャ。
「お嬢ちゃんの考えは分かる。だが、やめておきな」
そう言うとナスターシャは仲間のジル.ド.レレに視線を向ける。
「ジル! お前なら何とか出来るんじゃないか?」
まるで先程までの会話が彼にも聞こえていたかの様に、パーティメンバーのジルに話を振るナスターシャ。
「…… まったく、私を何だと思っているんだ」
彼女に呼ばれたジルがブツブツと文句を言いながら近付いてくる。そして私の側まで来ると、顎を扱きながらじっくりと私を観察する。
「う〜む…… ダークエルフの失われた魔法の一つに、植物を自在に操れる魔法が有ると聞くが……
いや、コレは''グレゴイルの戯れ''の現象にも似ている。とすれば……」
「…… 」
何やらブツブツと1人で思考の迷路に迷い込んでしまった様子のジル。当分の間は戻って来なさそうだ。
「すまんな、コイツは考え出すと他が見えなくなるんだ」
「そ、そうなんですね……」
冒険者パーティとしてお互いに信頼し合っているのだろう。彼等を見てフッと過去の勉強友達の事をエスメラルダは思い出していた。
決して仲は良く無かったけど、彼女にとっては掛け替えのない兄妹との大切な時間だった。彼等は今でも元気にしているだろうか……
「……」
「案ずるな、ジルならば其方を助け出す事が出来るだろう」
「あっ、は、はい……」
どうやら私が助け出されるかどうか心配していると取られた様だ。私が昔の事を思い出していたなんて、言ってもしょうがない事だしね。
「…… とならば、彼女の尋常ならざる莫大な魔力を流転させて、寄生植物自体を枯らすか」
考えがまとまったのかジルが私に視線を向けて来る。
「いい案でも思いついた様だなジル」
「ああ、私の魔法を使えば彼女を助け出す事は出来る。だが、その代償に彼女は魔力を失う事になるだろう 」
魔力はエルフに連なる種族にとってなくてはならないものだ。
彼等の身体は人間とは違い特殊で、その魔力が有るから他の種族より長生きをし、その美しさを保つ事が出来る。
それが無くなると云う事は彼女は"エルフ''で無くなると云う事。
「どうするね? それで良ければエスメラルダも晴れて自由の身だ」
私に選択肢何て無い、はなから答えは決まっている。
「お願いします。私をここから出して……」
彼等からの申し出は願ってもない事。例えエルフではなくなったとしても、私は再び外の世界へ出たいのだ。
「わかった。では始めるとしよう」
そう言うとジルはこの世界で彼しか使えないと云う時空魔法を使い、"ストップ"と云う魔法で私の魔力の流れを止めて、"ファスト.フォワード''という魔法で私に寄生している寄生樹の時間だけを早送りで進めた。
この2つの魔法を同時に、そして精密に操作していく彼のスキル"ダブル詠唱''と"精密制御''。エルフ1の魔法の天才と謳われるその実力は伊達ではない。
魔力の供給を絶たれた寄生樹は徐々にその色を緑から茶色へと変えて行く。そして今度は枯れかけた寄生樹に、それまで止めて居た私の莫大な魔力を一気に流し込む。
『キキュルルルゥゥゥ〜…… 』
長年の私との綱引きで弱っていた処に、ジルの時空魔法を使っての荒治療を受けて、一気に枯れて行く私に寄生していた寄生樹。
そして巨木が朽ちて砕け散ると同時に、私の体が宙に投げ出される。そんな私をナスターシャが用意していた毛布で包みつつ、お姫様抱っこの型で受け止めた。
その一連の状況下で意識を失ってしまった私は、初めて会った彼等にその後の私の全てを託したのだ。
「今はお眠り眠り姫。今後の事は私達に任せな」
「ナターシャらしい男気だな」
冗談めいた感じにジルが言う。
「こう見えて夜はお淑やかなんだぜ」
「ああ、受け合うよ」
私に寄生していた最大級の寄生樹が朽ちた事で、上方を覆っていた植物も無くなり、この地に何百、何千年振りに太陽の光が降り注ぐ。
「結局、ここには彼女以外に何も無かったな……」
探検隊の護衛が今回の任務だが、初の遺跡探索でお宝を求めるのは、冒険者としての本能だろう。
ナスターシャが少し残念そうに溢す。
「お宝なら有ったじゃないか、彼女がドーレン.フェクションの秘宝だよ」
ナスターシャに抱かれたままの私を見てジルが言う。
「…… 確かにな」
ありがとうございます。




