51話 異世界に音楽を求めて
よろしくお願いします
という事で音楽を求めてそこそこ大きな町に行こうとなった僕達は街道をひたすら進み、3日程してアジレスコというそこそこ大きな町に辿り着いた。
アレスもこの国に来たのが50年前、それに彼はバットス草原でその殆どを過ごしていた。そのためこの国の地理には疎い。
それでもこの大陸で1番大きな国だ、街道を走っていれば自ずと大きな町にたどり着く。
町の外に居ても町の中の喧騒が聞こえて来る。
「何ともにぎやかそうな町だね。この町によって見ようか」
「はい、かしこまりました」
だが僕はこの町に寄った事を酷く後悔する事になる。それはこの町のもう一つの呼び名が要因なのだが……
僕等は町の手前で馬車を降りて、町へは歩きで向かうつもりだ。どんな町だろうと思い少しワクワクする。
「何だろう、えらく堅固な守りだな…… 」
だが町に近づく毎にその守りの厳重さが分かってくる。要塞とまでは云わないが、かなりのものだ。
「この町には私も来た事がありませんが、確かに頑強な守りですね」
町の前には僕等の他にも2、3組の商団がいるが、頑強な馬車なため荷物は見えない。町に入るのには軽い荷物検査と、2、3問の質問のみで通してくれた。
入る時は容易に入れるが、出る時は荷物などの厳しい審査が有るこの町。
最初に外から見た時は分からなかったが、僕達は町の中に入ってしばらくしてこの町の実態に気付いた。
「! こ、ここは……」
表通りの脇に並べられ立たされている様々な種族の人々。その者達には例外なく黒い首輪が付けられている。
異世界物では必ずと言っていい程に出てくる不運な人々、人に売られ人に買われる奴隷と呼ばれる人達だ。
そう"奴隷が集まる町''それがこの町のもう一つの呼び名だ。
町は高さ5メートルの塀で囲われており、塀の外側を町の兵が巡回している。街道沿いの比較的開けた場所にあり、敵国とも接していない。それなのに度が過ぎる程の徹底した警備。
そう、外敵から町を守るためではなく、内側から奴隷を逃がさない様にするための警備なのだ。
町のゲートを潜って直ぐに並ばされ立たされている奴隷達。比較的に値段の低い奴隷だろうか、皆が見窄らしい服装に正気のない目をしている。
彼等は試し斬りや貴族の道楽拷問用の一文にもならない奴隷達で、買われたが最後どくな死に方は出来ない人々だ。
それ以外にも獣人族と思われる奴隷が馬車馬の様に働かされている光景が目に入ってくる。
「…… 」
「奴隷の町…… アーリアナ王国の何処かに有ると聞いていましたが、まさかこの様な街道沿いの比較的人通りが多い場所に有るとは……」
ここアーリアナ王国では、奴隷は立派な商売の商品として扱われている。そうこの国では、奴隷商が合法的に存在するのだ。
そのため比較的交通量が多く、目立つ街道沿いに奴隷の交易場が建てられている。
普通の人間に始まり、獣人、エルフ、ドワーフ、珍しい所ではアルラウネなる植物人間まで売られており、町の至る所でその品評会が行われているのだ。
どこでどんな流れで奴隷になったのか分からない者達。鞭で打たれ、乱暴に蹴られ、家畜以下の扱いを受けて居ても歯向かう事はしない。
逆らえば今以上に酷い目に合わされる。それにひょっとしたら、優しい良い主人に買ってもらえるかも知れない。そんな有りもしない可能性に自らの明日を託しているのだ。
価値の高い綺麗所やスキル持ちなどは、町の奥のオークション会場などで取引される。魔物などの取引もされている様だが、いろいろと闇が深そうな町だ。
「…… 」
公然と奴隷を売り買いするこの世界の人々。現代日本で生まれ育った僕には全く理解出来ない感性。
「…… あまり良い気分のものではありませんね…… 」
不機嫌そうにそう溢すアレス。根の優しい彼には看過出来ない事なのだろう。
以前の彼なら酷い扱いを受ける奴隷をほってはおけなかっただろう。彼等を助け出すだけの力も今のアレスにはある。
だが今の彼は僕の従者だ、僕の意にそぐわない行動は決してしない。
ここの奴隷を解放するとなると僕を巻き込む事になる。そうなれば幾人かの人を殺さなければ成らなくなるだろう。
魔導書を持つ様になって、生き物の生死に感情を揺さぶられる事は少なくなった。それでも人を殺すという事に対する躊躇はまだ残っている。その一線だけは簡単には超えられ無い。
それにもし奴隷達を助けたとしても、その後の衣食住の世話も僕達がしなければならない。そんな責任は今の僕に負う覚悟は無い。
いつもは能天気そうなニャトランも、この町の状況には思う所が有るのか、真剣な面持ちで通りを見ている。
種族は違えど自分と同じ獣人達が酷い扱いを受けているのだ、さしものニャトランも思う所がある様だ。
僕達には酷い扱いを受ける人々をただ見ている事しか出来ない。それが現実という事だ。
「…… こんな胸糞の悪い町はとっとと去ろう」
「はっ、仰せのままに」
ならばこんな場所に用は無い。とっとと立ち去るのみ。
それと、ここにニャトラン達を連れて来たのは失敗だったかもしれない。町の連中がジロジロと獲物を見る目で此方を伺って来るのだ。
変な輩に目を付けられる前に立ち去る事にしよう。
そんな僕達が長居は無用と、町を出るため踵を返し歩き出した時、背後から此方に声を掛ける者が現れた。
「おい小僧! いい獣人を連れて居るじゃないか。ワシが買ってやろう、幾らだ?」
(チッ……)
こうゆう時に限ってテンプレというヤツはやって来る。僕に声を掛けたのはギラギラとした目が印象的な、中年の太ったおっさんだった。
着ている服と体型から見てかなりの金持ちなのだろう、指にも悪趣味な指輪がギラギラとうざい。
太ったおっさんは信じられない位に綺麗なダークエルフと、幾人かの屈強そうな用心棒を連れており、明らかにカタギでは無い事が伺える。
彼が口を開いた途端、蜘蛛の子が逃げる様に人が辺りから居なくなった事がそれを語っている。
「早くしろ、幾らだ?」
明らかに上から目線の一方的な要求、此方の事情などまったく聞く耳は無さそうだ。この男は常に誰に対してもこうなのだろう。
だがそれでも、最初だけは下手で対応しようと思う。なるべくなら揉め事は避けたいからね。
「すみませんね、彼は僕達の仲間です。だから売るなんて事は有り得えません」
ニャトランは僕達の仲間だ、売るなんて事は絶対に有り得ない。これで引き下がってくれればいいが、まあそうはならないだろう。
「はん! バカめ、大人しく売っておけば小遣い稼ぎになったものを。この町1の奴隷商ニッチュ.ベイカーの申し出を断った事を後悔させてやる」
ベイカーが顎で用心棒達に合図を送る。その合図で僕らの前に、2メートルオーバーの大男が進み出る。
「グヘヘヘッ、悪く思うなよ。骨の1、2本で済ませるつもりだが、死んでも怨むなよ」
下卑た笑い声を上げながら大男が言う。骨の2、3本どころか殺す気満々の様だ。
ありがとうございます。




