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死霊組成  作者: ボナンザ
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49話 痛み





地球のとあるタワマンの一室、そこでは3人の女性が共同生活をしている。彼女達は若くしてマスター.メナスとなった者達で、グリモアという組織の一員だ。


このグリモアと云う組織の本部は、異空間の狭間に有るアナザーワールドと云うあるマスター.メナスが作り出した世界にある。


この地球の日本に有るタワマンの一室は、グリモアの異世界支部といった位置付けだ。彼女達のその行動に制限は無く、彼女達がやりたい事をし、自由な生活をしている。



「今日は新しい子がやって来るから、皆んな集まって」


その中のリーダー的存在の佐々木美鈴(ササキミスズ)18歳は、活発だが片目が無い、どこか影の有る短髪でボーイッシュな女性。


彼女は以前通っていた学校で酷いイジメを受けており、魔導書の力でその復讐を晴らしている。



彼女の持つ魔導書は、『ヒメノアール(小蜥蜴遊郭)』と云う餌を糧に小型のドラゴンを多数召喚するという変わったものだ。


この餌と云うのは曖昧な表現だが、彼女が指定した物が餌となり召喚のトリガーとなる。


呼び出したドラゴンは操る事が出来ず、召喚されたと同時に彼女も捕食対象になるため使い勝手はすこぶる悪い。


実を云うと彼女の失われた片目は、その呼び出したドラゴンに喰われている。死に掛けた彼女を治したのはダークエルフの魔導使い。


ダークエルフの力なら失われた片目も治せたのだが、何故か彼女がそれを拒否したのだ。



失われた片目はそれまでの自分との決別の証し。


それ以来魔導書の力は使っておらず、普段は組織からの加入援助金1億円で生計を立てている。この一億円は毎年支払われ、謂わば彼女達との契約金の様なものだ。



「新しい子?」


美鈴の呼び掛けに応えたのは全身黒尽くめの異様に細い女の子、宮川真凛(ミヤガワマリン)16歳。


そう彼女は『破滅の書』の所有者だ。


彼女は母親が浮気相手との間に作った子供で、酷い虐待を両親家族から受けていた。


魔導書の力で家族を化け物に変えると、母親の浮気相手だった自身の実父でもある男を彼等に食べさせている。


今マリンは、ナメクジの化け物に変えた自身の母親をソファーの様に改造して座り、趣味の洋服作りをしている。


作る服は全て同じ漆黒のワンピースだ。



「前から言ってあったでしょ。その子が今から来るの」


「ふ〜ん……」


マリンはミスズの説明にも上の空で、今度は携帯を弄り出した。



「その新しい子て、どんな子なの?」


そう聞き返したのは山内希(ヤマウチノゾミ)17歳。12歳の頃に借金の型に両親に売られた過去があり、髪の毛は丸刈りを真紅に染めて身体中にピアスや刺青がある。


『モデリングマイセルフ(自己改造)』と云う自身を、今現在で彼女自身が認識している科学や魔導、知識の水準で、自身の体を改造出来ると云う魔導書を持つ。


今はある人物の協力で魔導について勉強中だ。その勉強がひと段落ついた処で身体の改造をする予定だ。そして身体の改造が済み次第、自分を売った両親と買ったヤクザを皆殺しにする所存だ。



実は今でも、身体能力の強化で常人の数倍の力は出せる。その力を使えば復讐は容易いだろう。


だがそれでは面白くない。


生きたままに対象をいかに痛ぶれるか、その為の改造には魔導の力が必要なのだ。



「聞いた話しによると異世界人だしいわよ」


「異世界人!」


異世界人と云う言葉にそれまで興味が無さそうだったマリンが、身を乗り出して聞いてくる。


その時見計らった様に部屋のチャイムが鳴る。モニター越しに見えたのは銀髪のダークエルフと、車椅子担った薄汚い布の服を纏っただけのエルフと思わしき女の子。



『連れて来たわ、エントランスを開けてちょうだい』


ダークエルフのミレニアに連れられて来た子はアンナイルという13歳のエルフの女の子。彼女は足首から下が無く、常に車椅子に乗っている。


彼女は5歳の頃に奴隷狩りに両親を殺されおり、それから今まで奴隷として生きて来た。


最悪だった事は、彼女を買った奴隷商が残酷で有名な男だったという事。アンナイルは逃げられない様にと足を切断されたのだ。


その奴隷商の元から直接連れて来たのか、臭いと汚れが凄い。せっかくの金髪もゴワゴワで台無しだ……



「この子はアンナイル、アンと呼んであげて」


アンを連れて来たミレニアが彼女を皆に紹介する。自分達より境遇が最悪だったアン、そんな彼女の臭いや汚れを気にする様な者は居なかった。



「私はミスズ、よろしくねアン」


「マリン、よろしく……」


「私はノゾミ、よろしく」


「…… 」


皆から挨拶をされても死んだ魚の様な目で空を見つめているアン。そう、彼女の心はとうの昔に死んで居るのだ。


だがその事を悲観したり気にかける者は居ない。



「先ずはお風呂に入って綺麗にしましょう」


ミレニアとミスズがものを言わないアンをバスルームに連れて行く。



「…… また今回は凄い子が来たね」


自分の環境もかなり酷かったが、その上を行くアンに同情ではなく共感を覚えるノゾミ。



「……そお? 私も大概酷かったよ」


そう言うと懐から出したナイフをソファーに突き立てるマリン。声を出せない様に改造してあるので、ソファーはブルブルと震えるだけだ。



「…… それ凄い悪趣味…… だけどいいな〜、私も早くアイツらに復讐したい」


まるで好きなアイドルグループの話をしているかの様に軽いノリの2人。



「その時は私も誘ってね」


「うんいいよ。一緒に楽しもう」


長年の悲惨な生活で心が歪んでしまっている彼女達。それでも同じ様な境遇の子達と居るのは、シンパシー以外の何物でもない。



それから30分程経っただろうか、ミレニア達がバスルームから戻って来た。


全身をくまなく洗われたアンは見違える程の美少女になっていた。それでも死んだ魚の様な目はそのままだ。



「この世界のお風呂やトイレを知ってしまったら、向こうの世界には住めないわね」


異世界ではお風呂なぞある訳もなく、2日に1度身体を拭く程度だ。トイレもボットん式なら良い方で、最悪は道端がトイレに変わる醜悪さだ。



「さて綺麗になった処で、今度は此方の方を治しましょうか」


そう言うとミレニアはアンの斬り落とされた足に手を添える。その瞬間にピクリと反応するアン。



「その為にはこの固まった傷口を斬り落とす必要が有る…… 」


そう言うとミレニアはノゾミに合図を送る。



「うん、任せて」


ミレニアの合図でノゾミが異世界産の剣をアイテムボックスから取り出す。取り出した剣は普通のロングソードに切れ味アップの付与を施した物だ。


身体強化が使える彼女は剣の扱いもミレニアから教わっている。


アンの斬り落とされた足首の少し上の部分に失血帯を付けて、足の下に剣を受ける為のまな板を置く。



それまでなされるがままだったアン。そんな死んだ魚の様だったアンの瞳に恐怖の色が浮かぶ。



「大丈夫、私達を信じて」


暴れるアンを抑える3人。そしてノゾミの振るった剣が、アンの足の傷口から10センチ程上の辺りを斬り落とした。



「ギャアァ〜〜!!」


凄まじいアンの叫び声、すかさずそんな彼女の足をダークエルフが魔法で治す。


ダークエルフが使った魔法は四肢の欠損を治す事が出来る"ハイヒール''の魔法。この魔法を使える者は少なく、もし異世界で治療を頼む場合は金貨5000枚が必要だ


その為、高位貴族が術者を独占しているのが現状。


全ての魔導を扱う事が出来るダークエルフは、すかさず"睡眠"の魔法をかける事でアンを眠らせた。



「ごめんなさいね。相手に意識が有る時にしか、私の魔法は発動しないの……」


ダークエルフの力の制約か、申し訳なさそうに眠るアンの頬を撫でる。



「でも大丈夫、今は眠って、魔導書に選ばれし姫巫女。目が覚めたら貴女には新しい世界が待っているのだから」



計り知れない痛みを抱えた少女達が集まる組織グリモア。この組織が何の為に存在して、何を成そうとしているのか、それを知る者は極めて少ない。



ーーーーー



地球と平行して存在する世界ルームニアルワールド。この世界ではルームニア帝国が猛威を奮っており、幾多もの国が落とされ滅びた。


今では唯一の敵で脅威だったカンニバル.ローズが治める国、ハイペリア女王国と同盟を結んでその勢いはさらに増していた。


この両国に挟まれる形で残れる国は少なく、風前の灯といった状況が続いている。


その中で唯一帝国の軍を跳ね除けた国があった。

それはドワーフが治める他種族国家ゴンゴ.スラ共和国。


ゴンゴ.スラ共和国は鍛治が得意なドワーフなため山岳地帯にあり、攻め辛い天然の要塞と呼べる作りの国だ。


だが最もの要因は、このゴンゴ.スラ共和国が誇るマスター.メナスの存在だろう。



若くして魔導書『テタマキアン.ロード』の主人に選ばれたのは15歳のドワーフの女の子だ。


彼女の名はホナン.ストーンローズ。所謂ドワーフで、低身長だが種族特性でマッチョな身体。


髪の毛は剛毛の天然パーマをポニーテールの様に一括りにまとめている。顔は愛嬌があり可愛らしい。


プレートアーマに覆われた彼女の姿は、勇ましくもあり儚くもある。


彼女は鍛治関係のスキルが無く、両親に捨てられて身寄りの無い浮浪児だったが、魔導書に選ばれた事で今は勇者として崇められている。



「ホナン様、また帝国の奴等が攻めて来たズラ!」


「今回も頼むズラ」


「直ぐ行くさに待っててけろ!」



彼女の住む家に兵が駆けつける。その兵士達に元気よく返事を返すホナン。


城壁の真隣に有る彼女の家、勇者と呼ばれる者とは思えない場所に家が有るのには訳がある。それは彼女が連れている巨大な家族が原因だ。



彼女には右腕と左目が無い。それは巨人を召喚する為に自らの意思で斬り落としくり抜いたからだ。


彼女の持つ魔導書『テタマキアンロード』は所有者の身体の一部を対価に巨人を召喚する。


巨人の召喚には本人の本心からの承諾が必要で、第三者が彼女を操って強制的に巨人を作る事は出来ない。


彼女の側には彼女を護る様に2体の巨人が常に側に居る。彼女に絶対服従な巨人達だが、ホナンは決して2体の巨人を雑に扱う様な事はしない。



「さあ行くズラ! アロンダート、ドンプリオン」


『姫、オラに任せるだぁ〜!!』


『姫の為に戦果を〜!!』


彼女の右腕から生まれたアロンダートは、50メートルを越える鋼鉄の巨人で、地震を操る能力と山程の大きな岩を投げつける強靭なパワーが特徴だ。


彼女の左目から生まれたドンプリオンは、5メートル程と小さいが、重力を自在に操り5メートルとは思えない素早い動きをするミスリル製の巨人。


2体の巨人にアロンダートとドンプリオンという名を与えて、兄弟家族の様に接して来たホナン。1人と2体の絆は強い。


今回の帝国の兵は洗脳したトロールやオークの魔物混成軍、その数は15000程か。



「さあ、とっとと片付けるズラ!」


ホナンの合図に投石攻撃を始めるアロンダート。1メートル四方の石を雨霰と投げ付ける。


ドンプリオンは敵軍の中に重力場を作り出して敵の進行を遅らせる。それと共に投石攻撃を潜り抜けて来た魔物達を素早い槍捌きで突き殺していく。


2体の息の合ったコンビネーション。同じホナンの身体の一部から生まれたとあって相性は抜群だ。


瞬く間に数を減らして行く魔物混成軍。大将と思わしきオークキングが岩の直撃を受け憤死したと同時に、呪縛から解けたのか散り散りに逃げて行く魔物達。



「「うお〜! また勇者様が守ってくれたズラ!」」


「勇者様が居る限りは安心ズラ!」


国の人々や兵達がホナンを褒め称える。そんな彼等を守れる事が、役に立っている事が嬉しくて仕方ない。


鍛治の能力は無くとも人の役に立てる。散々に無能と罵られてきたのだ、片腕と片目を失った事に後悔は無い。それで皆の命が守れるのなら。



「鍛治の能力の無いオラでも皆の役に立てる。こんな嬉しい事無かったズラ。オラ頑張るズラよ!」


誰よりも強く優しい少女の孤高の戦いは続くのだ。









 



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