48話 テスの冒険、旧友
よろしくお願いします
馬車は進み午後の3時頃には宿場の村に辿り着いた。宿場の村には彼女達の他にも、大所帯の旅団がおり、何やら慌ただしく動いている。
「チッ……」
「?」
その中にはジーナの昔馴染みの傭兵団の団長の顔もあったが、向こうは気付いて居ない様なので今は流しておく事にした。何故なら色々と絡み辛い相手だからだ。
そしてジーナは馬車を預けるため馬車宿に行く。
「馬と馬車の預かりを頼みたい」
「ああ、一晩銀貨3枚だ」
馬車を預けると同時に村の騒がしい現状について聞いて見る。
「随分と騒がしいな、何があったんだ?」
「貴族様の大名巡りさ」
「チッ、貴族か…… 」
ジーナは冒険者時代に貴族関係で酷い目に遭っている。その時のゴタゴタで今の君主の女王と出会う事になるのだが、今はその話は省こう。
貴族にあまり良い印象は無いが、こちらには公爵家出のダハラも居るため大丈夫だと思いたい。
「まあ触らぬ神に祟りなしてこった」
「…… 善処しよう」
今日は早めに休んで朝の暗い内に出立しようと、食堂に向かう事にした3人。食堂には貴族に雇われて居ると思われる傭兵団がおり、ワイワイと騒いでいる。
なるべくなら荒場は避けたい所だが、食堂はここ以外には無い。
仕方なくハジの方の彼等から離れた開いて居る席に腰を下ろす3人。しばらくすると食堂で働く若い娘がやって来た。
「いらっしゃいませ。何にしますか?」
「この店のおすすめを3人分頼む」
「はいよ〜」
ダハラが何を勝手にと云う様な顔をして居るが気にはしない。
「ーーで、この後だが、状況如何によっては直ぐに立つ事になるかも知れないから、覚悟だけはしておいてくれ」
「? それはどういう…… 」
首を傾げるダハラに顎をしゃくる事で傭兵団の事だと教える。
ジーナが心配して居るのは店の中で酔っ払い騒ぐ傭兵団の事だ。彼等から離れた席に着いて居るが、お構いなしに絡んで来る輩が出るかも知れない。
いや、必ず出ると経験からジーナは確信していた。それが傭兵団というものだ。
「あんな下々の輩なぞほって置けばよいのでは?」
「世の中にはそれが通じぬ世界が有るという事だ」
ジーナの意味深な言葉だったが、ダハラも次の瞬間にはその意味が理解出来た。
「よお姉ちゃん達、俺達と一緒に飲まねえか?」
「グヘヘヘッ」
予想通り彼女達に絡んで来たのは傭兵団の3人組のむっさい男達。傭兵団の他の連中もニヤニヤしながらこちらを伺っている。
「フ〜、まったく予想通りの行動をするじゃあないか」
仕方なくジーナが対処するため立ち上がろうとした時、彼女より先にダハラが動いた。
「おのれ下賤者共め! 私が成敗してくれる!!」
何とダハラは問答無用に剣を抜くと、1人の男の腕を斬り飛ばしてしまったのだ。
「なっ! ば、バカ…… 」
先の峠での野盗襲撃の際に何も出来ずに、ただジーナの戦いを見ているだけだった彼女。その焦りが彼女の判断を鈍らせた。
ジーナも痛め付けて追い払おうとは思っていたが、まさかダハラが腕を斬り飛ばすとは思ってもいなかった。彼女は慌ててダハラを止めに入る。
「なぜ止める!? この様な無礼な輩なぞ斬り捨てればよいではないか」
峠での一件もあるが、ダハラは公爵家出で高位貴族のエリートだ。下々と見下す輩に絡まれた事が許せなかったのだろう。
貴族には無礼討ちが許されては居るが、それは国内での話し。重要な旅路の途中で、それも貴族絡みの一団に手を出したとなれば話は違う。
今まで国外に出た事の無いダハラ、彼等は盗賊や野党の様な犯罪者では無いのだ。残念な事に、彼女に其方の常識は無い。
「い、痛えぇョォ〜〜!!」
「ティム!」
「て、テメェ! よくも」
一緒に居た傭兵団の団員が一斉に剣を抜く。
店員の娘もアワアワといった様子でパニックに陥っている。
更に斬り付けようと前に出るダハラの腕を掴むとジーナはその動きを止める。
「なっ、何のまねだ!?」
「まあ待て、今回はコチラに非がある」
「な、何を……」
ダハラが振り払おうとしてもびくともしないジーナの力。
「店に迷惑がかかる、ここは抑えるのだダハラ殿。それに他国でのこれ以上の騒ぎは、国家間の問題になりかねんぞ」
「ぬぐっ…… 」
ただの傭兵ならまだ良かったのだが、この者達は貴族に雇われた者達だ。貴族の位にもよるが、他国で貴族に手を出したとあっては外交問題に成りかねない。
「ーーという事で、其方も剣を収めてはくれぬか」
「なっ!」
「コッチは仲間の腕を落とされて居るんだ、このまま退けるかよ!」
「「そうだ、そうだ!」」
やはりと云うか、それで「はい、そうですか」となる訳もなく彼等はやり合う気満々だ。
「ならば致し方ない……」
コチラにはテスも居る。口で言っても分からぬのなら武力制圧以外に道はない。傭兵相手にはそれが一番分かりやすい。
とはいえ剣を抜く事はしない。合気道に似た技で相手のかかって来る力を利用して放り投げる。
ジーナの技量とスピードが有れば彼等を鎮圧する事は容易い。店に迷惑をかけるわけにはいかないので、店の備品は壊さない様に立ち回る。
粗方片付き、ジーナに向かって来るものが居なくなった時、店の扉が開かれある男が姿を見せた。
「てめえ等、何してやがる!?」
「ボ、ボス……」
「「……」」
余程に怖い団長なのか、戦意を失って項垂れて居た団員の目に恐怖の色が宿る。
「こ、コレは…… 」
最初は食堂内に倒れる団員達に視線が行っていたが、その視線がジーナを捉えた時、男は納得した様にため息を吐いた。
団員の1人が彼の耳元で仲間の腕が斬り落とされた旨を話す。団長の視線がジーナと、その後のテス達に向けられる。
「そういう事か…… 久しぶりだなジーナ」
「…… ああモーゼス、あんたも元気そうで何よりだ」
簡単な挨拶に見える牽制、だが相手方はそれで終わらせるきは無さそうだ。
「で、何がどうなってこうなったのか、俺に聞かせてくれないか?」
モーゼスと呼ばれた男の眼光が鋭く瞬く。
自分の傭兵団の団員が全員倒れて居るのだ。その経緯を聞いてくるのは当たり前の事。そして相手方の返答如何によっては彼女達たやり合うつもりの様だ。
ジーナの過去を知っているという事はその強さを知っているという事。それでもなお強気に出れる強さをこの男は有している。
流石にジーナ程強くは無いが、彼は策を弄して戦う事が得意なタイプ。正直ジーナは、このタイプの方が苦手だ。
その彼に背後に居るテスの存在を知られてしまったのは痛い。何故なら彼ならその弱点を間違いなく突いて来るからだ。
「今回の責任は此方に有る。腕を飛ばされたその者には謝礼金を払おう」
ここは穏便に済ませる為に謝礼金の支払いを申し出るジーナ。
「ほう、幾らだ?」
このモーゼスという男はやり手の団長でも有る。争い事を避けたいジーナの内心を見透かした様に対応してくる。
「…… 金貨5枚でどうだ?」
「おい、おい、教会で腕を繋げるのにどれ程掛かるかお前も知っているだろ? 謝礼と合わせて金貨15枚だ」
ジーナの弱みにつけこみ値を釣り上げるモーゼス。
「…… 金貨8枚だ、これ以上は出せん」
「いや金貨12枚だ、お前もお国同士の揉め事にはしたく無いだろ?」
「…… 分かったそれで手を打とう( やり辛い相手だ……)
ジーナがテーブルの上に金貨12枚を置くと、すかさずモーゼスがその金貨を懐に仕舞う。
「フフン、いい商売になったぜ、ありがとうよ」
「チッ……」
多少手痛い出費になったが、これ以上に問題が広がらないので有れば、許容の範囲内だろう。ダハラが不服そうにしているが、自身に落ち度がある為黙っている。
「さあこれは俺の奢りだ! 迷惑をかけたお詫びに皆んなで飲んでくれ」
そう言うとモーゼスは、ジーナから巻き上げた金貨を一枚店のカウンターに置く。そしてこれ見よがしにジーナを見ると円満の笑みを見せた。
「…… 本当にやり辛い野郎だ……」
こうして彼女達の旅路2日目の夜は過ぎていった。
ありがとうございます。




