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死霊組成  作者: ボナンザ
44/81

44話 旅は道連れ世は情け〜

よろしくお願いします



「皆んな下がって!」


文章を完成させた国分さんが投稿ボタンを押した。


するとリザードマン達の10メートル程の頭上に、バレーボール大の火球が出現する。


気付かず砦を攻める者、何事かと上空を見上げる者、警戒して後退る者、突然の火球の出現に、リザードマン達の反応も様々だ。



一見何の威力も効果も無さそうに見えた火球だったが、次の瞬間には阿鼻叫喚の地獄がリザードマン達の間に広がった。


摂氏1200度の高温で1分間炙られたリザードマン達は、身体中に酷い火傷を負った。


百匹以上居たその殆どのリザードマンは火傷で動けなくなり、僅かに残った者達も散り散りに逃げて行ってしまう。



「…… なっ、なんだコレは……」


摂氏1000度は木や石が燃える温度だ、かなり距離を取ったはずだが、余波だけでギルバルトの頭髪と眉毛が縮れる。


今まで見てきた魔法とはまるで違う、その驚異的な力を目にして言葉を失うギルバルト。



(…… 化け物だ…… あの女と同じ、これがマスターメナスの力か……)


この力は国分さんのスキルによる物だが、マスターメナスを語るに相応しい力と言えるだろう。


ただの火や水などの題材では、今の彼女のランクが低いため、数体を行動不能にする程度で終わってしまう。


そこでたとえ紛い物でも、それ自体に驚異的な力を有する太陽を題材にする事で、威力の底上げを計ったのだ。


今は弱いスキルの力を最大発揮する為に、知恵を絞って窮地を乗り切った国分さん。



だがその代償は大きかった。


全ての魔力を一瞬で使い果たし、足りなかった魔力分の体力を失い、国分さんは気を失って崩れる様にその場に倒れ込んでしまったのだ。



「真江! 」


いつもは声が出ない三池さんが彼女の名前を叫ぶと共に、慌てて彼女の元に駆け寄る。



「真江…… 大……し……!」


気を失っているだけで命に別状は無さそうだが、気が気では無い。



「…… 魔力の使い過ぎだ。しばらくの間は目を覚さねえぞ」


「そ…… 」


魔力欠乏症。一気に魔力を消失した事に彼女の体が順応出来ず、意識を失ってしまったのだ。



「まあそのお嬢ちゃんのおかげで、俺達が助かった事は事実だ」


ギルバルトがマジマジと国分さんの顔を見る。

何故だろう、まるで似ては居ないが、死んだ自身の娘の面影を彼女に感じたのだ。


ギルバルトの娘スカーレットも自身の身を顧みず仲間の為に戦う、そんな娘だった。



「…… ( まるで似てやしないのにな…… ありがとうよ嬢ちゃん、今は休みな。そして……)


ギルバルトは砦の外を見る。暗闇の中にポツポツと灯りが見える。



(この騒ぎは帝国の連中にも知られたはずだ。明日の朝になれば間違いなくここに攻め込んでくるだろう)


ギルバルトは砦の背後に広がる山岳地帯を見る。

戦力が無い今、彼が逃れるとしたら山岳地帯を超えた先に有るガンザビ獣王国。ここ以外に選択肢は無い。



盗賊に落ちて早5年、この付近では暴れ過ぎた。帝国に与する近隣諸国の者も例外無く襲ってきた。その為この付近の国では、彼は立派な賞金首だ。


それでも帝国に対する為の新たに力を蓄える必要がある。傭兵団を使い捨てで雇う手もあるがそんな資金は無い。


その点、身体能力の高い獣人は最高の戦力となる。頭も弱く使い易さでは間違いなく筆頭だ。



だが獣王国は、獣人達は人間を嫌う。それはアーリアナ王国が行った人種隔離政策という名の奴隷狩りが原因だ。


山脈を超えても彼等に捕まれば良くて 監獄行きか、最悪はその場で処刑されるのがオチだろう。それでもコチラには切り札が有る。

  

ギルバルトはリザードマンの対応に疲れて力無く座り、身体中の糞尿を落としている第二皇子を見る。



「…… (コイツを交渉材料に使えば最悪、初見で殺される事は無いだろう)


腐ってもかの帝国の第二皇子だ。彼を取引材料にして獣人王国に取り入ろうというのだ。



(あとは山脈を越える為の道程か……)


正直、何の装備も無しに山脈を登って越えるのは自殺行為だ。山脈にはハーピーなどの凶悪な魔物も生息している。


何よりガルグイユがあの山脈に住んでいるのだ。今度は見逃してくれるか分からない。


更にこの時期でも山脈の頂上付近は0度を大きく下回る。装備の無い今のギルバルト達では死ににいく様なもの。



だがギルバルトは知っている。山脈を超えて向こう側に渡る方法が他にも有ると云う事を。


ここから20キロ程進んだ山道に古代の遺跡群が有る。



(…… 嘘か誠か、その遺跡には山脈の向こう側に繋がる転移装置が残されているて話だ)


転移魔法は実際に存在している。だがそれは短距離の物で、長距離転移の転移魔法は限られた者しか使う事が出来ない。


帝国がこの地に砦を作った要因の一つにその遺跡の存在がある。彼等がその遺跡内にある転移装置を狙っていた事は、間違いの無い事実だろう。


まあ、その調査団が派遣される前に砦がギルバルトに占領されてしまったのだが……



(…… どうせ後の無い身だ、それに賭けて見るのも悪くねえ)


問題はどう彼女達をその遺跡に誘導するかだ。


ギルバルトは彼女達を見る。国分さんはまだ目を覚ましておらず、三池さんがそんな彼女の額をハンカチで拭っている。


コレから利用しようとしている彼女達は、酷く小さくか弱く見える。そんな彼女達を復讐の為に利用するのだ。



「…… (迷いは無い。俺は必ず国と家族の敵を取ると決めた)


ギルバルトの思惑など知る由も無い少女達は、子羊の様に寄り添い合い騒乱の夜を過ごしていた。


そんな彼女達をギルバルトの他にも伺う者が居る。


自身の体についた糞尿を落としながら彼女達を見るのは、ラウム帝国第二皇子のカインだ。



「……ヨセフ、ボーホワイト、すまぬ我のせいで其方達を死なせてしまった…… (だが、だがまだ終わりじゃ無い。あの女の力が有れば我は……まだ終わりじゃない、まだ、まだ………)



ーーーーー



ラウム神聖帝国第二皇子カイン.アベル.ラー.イス.リムラウム。


彼は帝国の第二皇子という立場にある人物だが、皇宮では無能と呼ばれ蔑まれて来た。


父親である現皇帝バルログには、国の運営と軍の運営に多大なるバフが付くという、国家運営には最強の『覇王』のスキルがある。


兄ピサロスには父親のスキルよりランクは下がるが、『富国強兵』という強力なスキルを持っている。


それ以外にもダブルスキルで、槍王のスキルを持つピサロスには天才的な槍の才能があり。帝国の3神器の一つ『グングニル』の携行を許されている。


この『グングニル』は持ち主の闘気を纏わせて投げる事で、その動きを自在に操る事が出来、一度投じられたなら音の速さを超えて、衝撃波と共に対象を滅する伝説級の無双の槍なのだ。



とにかく優秀な兄は現皇帝からの信頼も厚く、次期皇帝は争う間も必要もなく彼が継ぐ事になるだろう。


それに比べて第二皇子のカインは何をしても凡才な結果しか残せず、兄を真似て始めた槍も並止に毛が生えた程度の出来損ないだ。


並の貴族なら普通でも問題は無い。だが皇子となると話が違ってくる、皇族に生まれたからには普通ではダメなのだ。


歴代の皇族が優秀だった分、普通は出来損ないと変わりがない。皇族とはそうゆうものなのだ。


因みに彼のスキルは槍術師という槍を扱う事に長けたスキルだ。だが正直に言って槍術師のスキル持ちは、エリートの集まりの帝国騎士団には掃いて捨てるほどいる。


能力も並、スキルも並、それがカインという第二皇子の皇宮での評価だ。


ーーー


「なんだ貴様は、世が居る間は姿を見せるなと言っておいたはずだが……」


「貴様は離宮に引っ込んでおれ!」


これは彼の妹でもある第一皇女子イングリットの14度目の誕生日の席での一幕だ。



「…… で、ですが……」


「私もカインお兄様が居ると不愉快ですわ」


「…… 」


ーーー


小さい頃はお兄様、お兄様とカインの後を付いて回っていた妹だったが、今では父や兄の様に彼を毛嫌いしている。


因みにイングリットのスキルは『業炎』という、火炎魔法に威力と範囲拡大の多大なブーストが付く強力なスキルだ。


その火炎魔法で奴隷達を炙り、焼き殺す事が今の彼女の1番の楽しみだ。


この家族の中に彼の居場所は無かった……



生来のカインは明るく何にでも興味を持つ好奇心旺盛な子供だった。彼が学者や研究者などの方向に育っていれば大成出来たかも知れない。


だが皇子として生まれた彼にその道は許されなかった。


父や兄に認められ様と、血を吐く程の訓練をした事も有る。帝国の為にと、様々な書物を読み漁り、その知識を欲した事もある。


だがそんな彼に彼等は見向きもしなかった。


現状の彼の存在意義は、他の国に婿入りし内側から国を操る為の傀儡、それだけだ。


それでも認めて欲しかった彼は、決して槍の訓練を怠る事はしなかった。


それ以外にも平民出の兵士や、他の騎士団からは見向きもされない下位貴族の御曹子の中から、使える者だけを集めて自身の騎士団に編入させるなど、人選、人心掌握術に長けた一面もみせる。


まだ幼さが見えるが、このまま指揮官として育てたならば、大成していたかもしれない。



父親でもある皇帝陛下から砦の奪還を仰せ使った時には喜びと勇みに震えた。


やっとこれで自身の存在を認めてもらえる。


実際は砦の奪還に戦力を分ける事を嫌ったため、そのお鉢が回って来ただけに過ぎないのだが、彼はそれを知ってもなおヤル気を見せた。


寄せ集めに見えるが訓練も怠らなかった彼の騎士団は、並の戦場なら大活躍していただろう。



惜しむらくは、彼が育つ前にギルバルトという智将に出会ってしまった事だろうか。彼が苦心の末に集めた優秀な部下も兵も、自身の拙さとギルバルトの智略で彼以外は全滅してしまった……



自身の幼さが招いた敗北に打ちひしがれるカイン。もはや彼の皇族としての命運は尽き果てた。


そう思っていたカインだった。


だがその後に起きた奇想天外な出来事は、彼の打ちひしがれた心にも衝撃を残した。



(伝説のドラゴンガルグイユの急襲に、マスター.メナスと名乗る謎の女の出現……)


マスター.メナスは100年に1人の人材だと昔兄から聞いた事が有る。帝国にも幼少期から兵器として飼い慣らしているマスター.メナスが居るという。



「まだだ、まだ終わりじゃない…… (あの力を帝国に持ち帰れば父上に認めてもらえる。まだ、まだ我は終わりではないのだ!)


消えかけたカインの心に新たな炎が灯る。様々な思惑に翻弄される彼女達の旅路が今始じまろうとしていた。




ありがとうございます。

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