43話 国分真江3 、新しい力
「其奴は無策にこの砦を攻めて来たんだ。まあ俺達に無様に負けてこのザマだがな」
「グッ、おのれ畜生者めぇ! 必ず貴様の首を切り落としてくれる!!」
「まったく威勢だけはいい犬っころだ」
「己れ!」
ギルバルトと第二皇子が言い争う中、少し離れた場所に避難した彼女達。互いに顔を見合いどうしようか悩む。
「…… どうする真実?」
「彼…… 金………」
「確かに、報奨金は出るかもね。だけど……」
第二皇子を帝都まで送り届ければ報奨金が貰えるかも知れない。だけど、この匂いは現代日本で暮らして来た彼女達には耐えられないものだ。
「このままだと盗賊のおっさんも着いて来そうだし……」
正直に言って彼女たちはギルバルトの扱いに迷っていた。この場で殺す事は現代子の彼女達にはあり得ない。
かと言って案内役にするにしても信用が出来ない。正直、彼女達にとってこのおっさんの存在は迷惑以外の何者でも無いのだ。
一刻も早くセイジと合流しなければならない今の現状で、おっさんの相手をしている間は無い。
「グワっ! よ、よせ貴様、やめろぉ!」
檻の方からした声に彼女達が振り向いて見ると、ギルバルトが第二皇子にしょんべんを掛けているのが見えた。
「うわっ…… あのおっさん、第二皇子にしょんべん掛けてる…… 」
「最…… 」
もう一層このまま、此処から走って逃げるのも有りかも知れない。
そんな時、国分さんが持っているジャッジの魔導具に反応が現れる。複数の敵意を持った何がこの砦に近付いている様だ。
「真実!」
「……!」
彼女達が居る砦を囲う様に姿を現したのは数百体のリザードマン。ガルグイユに襲われた砦の漁夫の利を獲るためにやって来た様だ。
最悪な事に砦はガルグイユの襲撃によって半ば崩れ掛けの状態、このままリザードマンに攻められれば、自ずと崩壊する事は必至。
「チッ、こんな時に……」
死んだ部下の剣を拾い上げると、彼女達の元に来るギルバルト。
「ね、ねえ、あのトカゲさん達と話し合いとかは無理なの?」
押し寄せるリザードマンの群れに、何とかならないかと国分さんが聞く。
「したきゃして見ろ、八つ裂きにされて喰われるのがオチだぞ」
「ヒッ、ヒイィ……」
リザードマンとこの砦には因縁が有る。元々は彼等の土地だった場所を人間が占領して砦を建てたのだ。
そのため奪還に来ては蹴散らされを彼等は何度も繰り返していた。知能が低い彼等では愚直に攻める事しか出来ず土地を取り返す事が出来なかった。
その分恨みも一塩だ。
だが思いもよらないガルグイユの襲撃によって、最大のチャンスが訪れたのだ。自分達の土地を取り戻そうと松明を手に、意気揚々と攻めて来るリザードマン達。
「チッ、仕方ねえ……」
ギルバルトは檻に入れられていた第二皇子を外に出すと、死んだ部下の槍を投げ渡す。
「なっ! なんのつもりだ……」
「今は戦力が必要だ、気は進まねえがテメェも戦え!」
既にリザードマン達は崩れ掛けた砦の隙間から内部に入り込んで来ている。砦が破壊されるのも時間の問題だろう。
「クッ…… 」
三池さんが刀を手にして戸惑いの顔をする。リザードマンとは云うが、顔こそはトカゲだが全体を見れば二足歩行の人に近い種族だ。
三池さんは実力はあるが実戦経験に乏しい。今回のリザードマンに対しても殺し合うのは抵抗がある様だ。
ギルバルトも正直、彼女を数には入れていない。
「お、おい! 嬢ちゃんはマスター.メナスなんだろ?! 何か使える魔法とかスキルはねえのか?! 」
そこでギルバルトが頼ったのがマスター.メナスと嘘を付いている国分さんだ。
「…… ス、スキル…… 」
あの時ガルグイユの前でマスターメナスだと言ったのは嘘だ。あの場を凌げればそれでいいとの考えからの判断だった。
だが今こうしてスキルの事を聞かれて初めて気付いた。自分の奥深くに脈打つ今までに無い感覚。
「えっ…… こ、これは…… 」
彼女はこれまで様々な本を読んで来た。主はライトノベルや異世界物が殆どだが、それ以外にも植物図鑑や様々な料理本、金属の本や兵器の本、とにかく興味を惹かれた本は片っ端から読んで来た。
祖母の家にそれらの本があった事も影響しているが、彼女が生来の本好きだった事もある。
そんな彼女が自分の中に新たな力がある事に気付いた。
異世界に渡った者は20%の確率でスキルを得る可能性が有る。確率が低い分、覚えるスキルは強力な物が多い。
国分真江、彼女が運良く授かったスキルは『ブックメイカー』。その時々の能力にもよるが、 本を作り出す事でその内容が現実になるというブッ壊れのスキルだ。
スキルにはニャトランの『good luck on your end』の様に常時発動型のパッシブと、この『ブックメイカー』の様に任意発動のアクティブとが有る。
この『ブックメイカー』は、ランクの低い初期の段階では選べるストーリー、登場人物、規模などの選択肢が極めて少ない。
物語の中に元素を組み込めば魔法の真似事も出来るが、初期ではその威力も規模も低く狭いのだ。
だがスキルを使い続け、ランクを上げて行くと扱える物語の幅が増えていく。
初期ならば1分程度の物しか作れず、文字数も100文字以内に抑えなければならない。
しかし出来上がった本は同じ魔力で、何度でも読み返せる。
スキルのリキャストタイムも初期では1日と使い辛く、育てるのに時間がかかるスキルでもある。
だが自分より力量の高い相手を直に死に至らしめる様な話を書く事は出来ない。間接的に攻撃するのがせいぜいだろう。
最終的には魔導書も作成可能だが、その代償は大きくスキル所有者の命が必要だ。その分、作成された魔導書は強力な物になる。
現に過去に現れたブックメイカーのスキル持ちが残したとされる魔導書が存在する。
かなり強力なスキルだが、覚醒して認識してから大して経っていない現状では、大した力は出せない。
だがこのスキルの裏技を使えば、今の彼女でもこの窮地を脱するには問題は無い。
「真実、おっさん、5分だけ時間を稼いで!……」
国分さんが三池さんとギルバルトに時間稼ぎを頼む。因みに第二皇子は臭いのと、態度がムカつくので頭数に入って居ない。
「了…… 」
「お、おっさんて俺の事か…… ま、まあいい。何をする気か分からんが、5分でいいんだな」
時間稼ぎを頼まれた2人がリザードマン足止めに向かう。ギルバルトが隙間から入ろうとする者を斬り殺していく。
三池さんは腕の筋や足の筋を切って無効化させる作戦だ。彼女の技術が有れば問題は無いだろう。
「クッ、な、なぜ我がこの様な事を……」
ハブられた第二皇子も糞尿を拭く間も無く、リザードマンの対象に追われている。
そして国分さんは覚醒認識した自身のスキルを使う。
彼女の目の前には小説投稿のサイトの様な画面が現れており、不思議にも空間に現れたキーパッドで文字を書き込める様だ。
国分さんはその画面に物語を描き込んでいく。スキルとは不思議な物で、今まで無かった力なのにその使い方が当たり前の様に分かる。
そして物語の題名は太陽だ。そう、これが彼女のスキルの裏技。
元から強力な力を持つ太陽を題材にすれば現段階で能力の低い彼女でも、火力と範囲が得られると見越しての選択だ。
時間は無い素早く文章をキーパッドで打ち込んでいく。
『赤く燃える太陽、大地を焦がし大気を焼き尽くす灼熱の太陽。
突如としてリザードマン達の頭上に現れたその太陽は、リザードマン達を焼き尽くすと、僅かな焼痕を残して消えてなくなった』
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