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死霊組成  作者: ボナンザ
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42話 国分真江3、 第二皇太子

よろしくお願いします






火炎竜ガルグイユが去って行った風切りの砦、魔導具のおかげで運良く無事だった国分真江と三池真実の2人。


互いに抱き合って喜び合う彼女達の傍で、かろうじて生き残ったおっさんが安堵の溜息を吐いていた。


そのおっさんとは、元軍人で現盗賊頭のギルバルトだ。そんなギルバルトが抱き合って喜ぶ2人をジロリと見る。



「…… ( し、信じられん、山脈に暮らし、滅多に姿を見せないガルグイユがこんな所に…… そしてあの2人も……)



盗賊達は女に飢えていた。とにかく何でもいいから自分達の欲望を果たせる相手が欲しかったのだ。盗賊達は我慢の限界だった。


あの時はギルバルトが止めたとしても、彼等は彼に反してでもその欲望に従っていただろう。



ギルバルトは運が良かった。もし彼が部下達の様に彼女達に対して良からぬ考えを持っていたら、彼もガルグイユに殺されていた。


彼も男だ、そういう欲求もある。だが、死んだ自分の娘と同じ年頃の彼女達に、その欲求が向く事は無かった。



セイジが渡した魔導具カウンター.マリスはしっかりとその仕事を果たしていたのだ。まあ助かった彼には、そんな事実を知る由は無いのだが。



そんな事より彼の頭の中には、ガルグイユが立ち去り側に残した言葉"マスター.メナス"が強く残っていた。


ガルグイユが言っていたマスター.メナスという言葉の意味を彼は知っている。かつて彼の住み暮らす国サイス王国を滅ぼした張本人が、帝国のマスター.メナスだったからだ。



そのマスター.メナスは魔導書『マンイーター(悪食瘤賦)という、食べた人間の力を取り込む能力の持ち主だった。


マンイーターの所有者は、帝国の魔導研究所で生まれた。そこでの様々な実験と解剖の結果、様々な能力を有した意志を持たない化け物と化した。


かつての帝国とサイス王国での争いの際にギルバルトは、空舞(ウィンドダンス)という自由自在に空を駆けるスキルを持っていた1人娘を、そのマスター.メナスに食い殺されている。


本土防衛隊のエースだった自慢の娘だ。彼はその時敵陣のど真ん中で軍の指揮を執っていた。だが帝国の両面作成にまんまと嵌められて、護るべき本土を先に落とされてしまったのだ。


彼等が戻った時には既に国は無くなり彼の家族も、守るべき国民も皆殺しにされ、彼は帝国への復讐を誓ったのだ。



その時に見たマスター.メナスは一見普通の痩せた女に見えた。だがその存在感は、今まで見てきた全ての敵を圧倒していた。


禍々しいオーラを纏った悪鬼、目につく者全てを平らげる悍ましい化け物だ。


あの女の通った跡には血と食べカスしか残らない。その禍々しいまでの戦いっぷりは、今でも彼の脳裏に焼き付いている。



ギルバルトは当時は騎士団の隊長だった。勝てる見込みの無い相手に兵を無駄死にさせる訳にはいかない。

彼に出来たのは兵を連れて逃げ延びる、それだけだったのだ。


そしてその敗走戦で生き延びた部下と盗賊に堕ちたギルバルト。



「…… (あの時、あの女が使った能力は、俺の娘スカーレットのものだった。 間違い無い、俺の娘の能力をあの女は使っていた……)


歯が軋み、握る拳から爪が食い込み血が滴り落ちる。あの時、部下が居なかったらたとえ死んでいたとしても、間違いなく彼は特攻していただろう。


魔導書の所有者マスター.メナスには同じマスター.メナスか、優秀や賢者などの超越者をぶつける以外に勝ち目は無い。あの禍々しい戦いぶりを見た者なら尚更そう思うだろう。



(あの女と同じマスター.メナス…… )



頭の回る彼はこの状況だからこそ考えた、あの娘を対帝国の切り札として利用しようと。


せっかく育てた盗賊の部下達はガルグイユによって全滅した。ならば新たな戦力が必要だ。


そう、家族の仇を討つ為の……


その為に先ずは彼女と仲間になる必要が有る。それにはもう1人の娘の存在が邪魔になるのは必定。


あの小さな体で信じられないが、本気のギルバルトを凌駕する剣の実力の持ち主だ。あの時の様に切り札を出されたら今度は同じ結果にはならないだろう。


ならばその力も一緒くたに利用すれば良い。その為に先ずは彼女達の信頼を得なくてはならない。


ギルバルトはその為の行動に出る事にした。



「おっ! なんだアンタらも生きて居たのか……」


「つ!」


あたかも今目覚めたばかりかの様に、彼女達を心配するそぶりで、彼女達に声を掛けるギルバルト。そんな彼に剣豪の方の少女が、刀を居合の形に構えて警戒体制に入る。



「ま、まあ待ちな、俺はもうアンタらと争い合うつもりは無い」


両手を上に上げて戦意の無い事をアピールするギルバルト。だが小さい少女から発せられている闘気が治る気配はない。



「…… (う〜む、やっぱりやり難い嬢ちゃんだ……)


ギルバルトの悪巧みを看破しているかの様な少女の視線。



「…… あ、アンタらこの国の者じゃ無いだろ? ここらの情勢に詳しい者が必要だろう。そうだ、これも何かの縁だ。俺が道案内をしてやるよ」


それでもめげずに彼女達に入り込むチャンスを伺う。盗賊の仲間を無くした彼には、もうそれ以外に復讐の道は無いのだ。



「貴…… 信……」


「え? (こ、このお嬢ちゃん今何て言ったんだ?  わ、分からねぇ…… )



「た、確かにこのおっさんは信用出来ない。だけど、私達だけで知らない場所に行くのも気が引けるのよね……」



「あ、ああ、俺ならいい道案内になるぜ! (やはり説得するなら単純なコッチの嬢ちゃんか)


「…… 」


そんなギルバルトの考えを見透かしたのか、三池さんからの刺す様な視線が強まる。



「…… (チッ、コチラを狙うのは逆効果か……)


何故か知らないが、この2人はかなりの絆で結ばれている。まるで付け入るスキが伺えない……。



「お、お前達! 余を助けに来たのであろう?! 褒美をやるから早く我をここから出してくれ!」


ギルバルトが彼女達と駆け引きをしていると、都合良く突然の横槍が入る。


その声を辿ると、糞尿塗れの立派な鎧を着た男が檻の中に居るのが見える。どうやら帝国の第二皇子も、ガルグイユに殺されずにいたようだ。


何事かと彼女達がその男が囚われている檻に近付いて見れば、鼻を劈く様な悪臭に襲われる。



「臭っ!」


「!…… 」


砦自体も臭かったが、この糞尿塗れの男は更に臭かった。



「其方達は我を助けに来たのであろう?! ささあ早く我を此処から出すのだ! 頼むから出してくれ!」


糞尿塗れの臭い男はとにかく上から目線で、檻から出せ出せとうるさい。だが余りの臭さと汚なさに、檻に近付きたくないし触れたくもない。



「其奴は帝国の第二皇子だ」


「えっ、第二皇子! そんな人が何でこんな所に……」


糞尿塗れのこの男が帝国の第二皇子だとは、言われなければ分からない。


糞尿塗れだが、中世の王族がする様なマッシュルームカットの頭に、皇族のその面影を見る程度だ。顔はまあまあの部類だが、糞尿がその全てを台無しにしている。

ありがとうございます。

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