39話 新アレス
よろしくお願いします
「…… それでどうなの、彼等は僕達でも勝てる戦力なのかな?」
「はい。ゴミでございます」
「…… ゴミ?」
今アレスからゴミと聞こえたけど、気のせいかな。
「はい、ゴミでございます。国幽斎様が出向かずともあの程度の集団、私1人で充分でございます」
「…… えっ、そ、そうなんだ…… ( えっ、アレスてこんな奴だったの? な、なんか怖いんだけど……)
ゴミと聞こえたのは気のせいではなかった様だ……
本来の彼は実直な好青年なのだが、生まれ変わった事で存在の格が上がり、闇の属性が強まった事で、人格がそっち寄りに傾いてしまったのだ。
「それで、かの者達の処理はいかがなされますか?」
「…… そ、そうだね、一応話し合ってみようかな」
「かしこまりました」
彼等が何の目的でここに迫っているのか大体の想像は付く。夜間での行動から偵察だとは思うが、話を聞くだけは聞いてみよう。
アレスに任せたら悲惨な結果になりそうだしね。まあどうせあの2日間絡みの案件だろうとは思うが、僕達は彼等を待つ事にした。
だがただ待つのも何なので僕達は、アレスの闇で作った例の小屋でお茶を飲みながら彼等を待つ事にした。
しかしどうゆう原理なのか、闇で何でも作れると羨ましい限りだ。
「以前の私の能力の流用ですが、予想以上に上手く行きました」
ついでに夕飯を食べたニャトランとタマさんは、居間で仲良く寝入っている。
2日間も寝ずに僕達を待っていたのだ、疲れが溜まっていてもおかしくはない。今は休めるだけ休んでくれ。
僕はダイニングテーブルに腰掛け、アレスの淹れてくれたお茶をいただいている。
今回はアレスは僕の対面に座る事なく、横に立ちお茶の番をしてくれている。こうゆう事は慣れないため止めて欲しいが、アレスはうんとは言わないだろう。
「うん、やっぱりアレスの淹れてくれたお茶は美味いな……」
「おお! 何と嬉しいお言葉か……
このアレハンドロ、更なる忠誠義を国幽斎様に捧げます!!」
本心から喜んで居る様子のアレス。
「は、ははは……」
死霊組成で生まれ変わった者は絶対的な忠誠を誓うと魔導書にも載っていたが、まさかこれ程とは予想だにしなかった。
(忠誠を誓うといっても、もっと対等な関係を期待してたんだけどな……)
確か組成者と術者は魔導具で対等な関係になれる筈だ。その魔導具の素材がエンシェントドラゴンの目玉というのがネックだが、チャンスが有ったら狙ってみよう。
そんなこんなしていると冒険者と思われる一団が小屋の前までやって来た。
彼等は極力気配を消して、こちらにバレずに近づけたと思っている様だが、僕の魔導具とアレスの死招草の探知でバレバレだ。
「…… サーフィス、なんだあの小屋は?」
「私に聞かれたって知らないわよ」
「いつもはこの草原は骸骨で溢れていて、こんな中央までは来れないからな……」
冒険者と思われる一団は小屋から距離をとり、小声でなんだかんだと此方を伺っている。
そして冒険者の中のAランクと思われる男がポケットから石ころを取り出すと、古屋に向けて投げて来た。
投げられた石ころは、コンとばかりに屋根に当たるとコロコロと下に転げ落ちる。
「…… どうやら幻覚などでは無く、実在に存在する本物の建物の様だな…… 」
慎重に状況を確認するAランクの男。
まあ草原のど真ん中に不自然にある小屋だ、警戒するなという方が無理というもの。
「どうする? 魔法でも撃ってみる?」
「待て、早まった判断はダメだ。ここは慎重に行くべきだ」
Aランクと思われる男が無茶な提言に待ったをする。
「何を生温い事を、中に何が居ようとそいつごと叩き潰しちまえば済む話しよ」
業を煮やした大男が小屋ごとぶち壊すと言い出した。彼の背中にはそれを可能としそうな、巨大なハンマーらしき武器が背負われている。
アレスの闇で作られた小屋だ、攻撃されたとしても傷一つ付ける事は不可能だろう。だがニャトラン達も眠って居る事だし、ここは姿を見せて彼等と話し合う事にしよう。
「やあ皆さん今晩は。今宵は綺麗な月夜ですね」
突然に扉を開けて現れた僕に、始めポカンとしていた冒険者達だったが、Aランカーと思わしき男が戦闘体制に入った事で他の者がそれに続く。
「ああ、こちら側に皆さんと争い合うつもりはありません。宜しければお話をしませんか?」
とにかく丁寧に冒険者と思わしき一団に話し合いを持ちかける。
「…… ジーンさん、どうする?」
ジーンと呼ばれたAランカーと思わしき男は、警戒を解く事なく僕とその背後にいるアレスを見続けている。
その目には明らかに恐怖と焦りの色が伺える。
「…… ジ、ジーンさん、い、一体どうしたってんだよ?」
彼等の中で最高戦力の彼の変調に、冒険者達の間に動揺が広がって行く。
ーーーーー
ジーン.マカリスター、彼は百眼のジーンと呼ばれる元Aランカーの冒険者だった男だ。
彼は"百眼''という鑑定魔法の上位のスキルを有しており、このスキルは生物をはじめ、武器や防具、魔導具の高度鑑定が姿を見るだけで出来るという優れものだ。
彼自身もAランカーに恥じない剣の使い手で、百眼のスキルに裏打ちされた慎重さと、天性の剣術でAランカーまで登り詰め男だ。
今までに彼のスキルで能力を見れなかった者は、魔物を含めて1人もいなかった。このスキルには絶対的な自身があり彼の全てだ。
だがそんな彼も年には勝てない、一度は冒険者を引退している。
今はこれまでの経験を買われて、冒険者組合専属の調査員となり、若手に指導をしながら調査依頼を受けているのが現状だ。
今までは自慢の鑑定で事前に危険を察知して来た。修羅場もそれなりに潜り抜けている。今回の調査依頼も難なく終わる予定だった。
骸骨が溢れ出るバットス草原の調査。その草原から謎の光が放たれ、それが丸2日間続いたとの事。今回はその事の調査だ。
依頼主は何処ぞの貴族の関係者と冒険者組合からは聞いている。
本当は安全な昼間に調査をする予定だったのだが、一度は夜の草原を見ておこうと、結界がある川の近くまで来たのだ。
だが草原に来て見れば骸骨の軍団の姿は見られなかった。この草原を地獄に変えたネクロマンサーの気配も邪悪な気配も感じられない。
ならば好都合と今回連れて来たBランカーのボトムスが暴走し、彼の反対に反して草原に踏み入ってしまったのが今回の彼等の経緯だ。
元とはいえAランカーは伊達ではない。だがそんな彼が、目の前に居るたった2人の存在に恐れを抱いている。
今まで出会ったどんな相手よりもこの2人の男に脅威をかんじているのだ。
「…… ( な、なんだコイツ等は…… し、信じられん…… 黒髪のガキと思わしき男の魔力値が、俺の高度鑑定でも測れない。それにあの魔導具はなんだ、全部オーバーユニークじゃないか…… それにジョブが文字化けしていて鑑定不能だと、こんな事は初めてだ……)
今まで彼の百眼の鑑定で能力が分からない相手は居なかった。ジーンは少年をまじまじ見た後、今度はその背後にいる男を見る。
一見ひ弱そうに見える男。彼を見た途端に冷や汗が背中を伝う。
「ゴクッ…… (…… こ、こいつはヤバい、俺の高度鑑定が全て弾かれた…… Sランカーを連れて来たとしても勝ち目は無い。ダメだ、コイツを敵に回しては絶対にダメだ…… )
彼は元とはいえAランカーだ。普通の火竜ならパーティを組めば討伐するだけの能力はある。
それに『奈落』と呼ばれる高難度のダンジョンに潜った事もある。そこから財宝を探し当て、生きて戻って来れた事は今でも彼の誇りだ。
だがそのダンジョンの強敵だった魔物達が、ただのゴミ屑程度に思えてしまうこの優男の存在感。それが圧倒的な威圧感となって彼にのしかかる。
「……ハッ…… ハッ…… (……に、逃げなくては…… いや、それ以前に奴等から逃げられるのか? ……ど、どうすればいいのだ…… )
半ばパニック気味なジーン、彼の激しくなって行く呼吸音に他の冒険者達も混乱必死だ。
「…… お、おいジーンさん」
「如何しちまったてんだよ…… 」
「ど、どうしよう…… 」
冒険者達をまとめるジーンの異常な状態に、如何したら良いのか分からない若手の冒険者達。
「チッ! だらしねえなぁ、本当にAランカーだったのかよ」
そんな中で業を煮やしたのか、Bランカーのボトムスという大男が背中の巨大ハンマーを手にし前に出る。
「こんな黒髪のクソガキと優男にビビりやがって、俺がコイツ等をまとめて仕留めてやるぜ!」
ボトムスのその言葉に隣に立って居た相棒の魔法使いのジェムが、補助魔法の詠唱を始める。
巨大ハンマーのボトムスと無口の魔法使いジェムの2人は、今が全盛期の冒険者で、Bランカーから上に上がれず燻っていた。
粗暴な2人には他に仲間が出来ず素行の悪さも有て、冒険者組合から注意勧告が出ており、後がない状況だった2人。
今回も調査依頼という事と、元Aランカーとはいえ人の下に付く現状に、内心苛立っていたのだ。
だがここに来て鬱憤を晴らす機会が巡って来た。
目の上のたんこぶだった元Aランカーのジーンが、あの2人にえらく怯えている様だが、そんな事は知った事ではない。
ただ暴れる、それだけだ。
「俺はそんな軟弱野郎とは違う、ギッタギッタにしてやるぜ!」
ありがとうございます。




