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死霊組成  作者: ボナンザ
32/80

32話 ネクロマンサー3

よろしくお願いします

それから故郷に帰る間にもう2人の蘇生を試みた。私が蘇生させたのはレイラという獣人の娘に、イルザというハーフエルフの娘だ。


レイラは奴隷狩りに故郷を焼かれ、命からがら逃げ延びた地で騙され、貴族に捕まり、生きたままに皮を剥がされて無惨に死んだ獣人族の娘。


イルザはエルフの奴隷の子供で、幼い頃より動物以下の生き方を強いられ、仕舞いには闇の娼館で拷問の末に殺された哀れな娘だ。


双方共に輪廻の輪に戻る事も出来ず、暗闇を彷徨っていた。


それを哀れに感じた私は、エゴかも知れないが彼女達を蘇らせた。どうしてもほって置けなかった。


魂には波長の様なものがあり、その波長が私と合った事も彼女達を蘇らせた一因だ。



「マスターはウチの大切な家族にゃん!」


「永遠の忠誠をマスターに誓います……」


無論、彼女達には蘇らせる前に了承を取ってある。蘇生には彼女達の意思も尊重したいからだ。



都合の良い事なのか、死んでから間が経っていた彼女達は生前の記憶を無くしており、生前の性格だけが残っていた。


名前は私が付けたものだが、彼女達も気に入ってくれた様だ。せめて辛い記憶に苛まれる事が無いのなら良かったと思いたい。



私との強い繋がりが出来た3人の娘は実の姉妹の様に仲良く、生前の不幸なぞ無かったかの様に明るく楽しく過ごしていた。


故郷迄の道程も彼女達と共なら苦にはならない、久しぶりに笑顔に満ちた毎日だった。



彼女達は戦闘能力も高く、アルカポに行く前に雇った傭兵達全員より彼女達3人の方が強い。そのため帰路は比較的安全に短時間で戻れたのだ。


だが正直、彼女達にはもう争い事に関わってほしくは無い。私の故郷に戻った暁月には、彼女達と共に争い事から離れた生活をしたいと思う。


蘇生を受けた彼女達に次は無い。もし何らかの事情で彼女達が死んだとしても、2度と蘇がえらせる事は出来ない。


2度目の死は魂の消失を意味する。魂が壊れてしまい私では感知出来なくなってしまうのだ。


そして輪廻の輪に戻る事も出来ない。その事も彼女達には話してある。


それでも彼女達は蘇生を了承し、私に付いて来てくれた。今度こそは守ってみせると私は密かに誓った。



そんな私達の視界に記憶に残る景色が見えて来る。


今は無きパール王国の残存。帝国に踏み躙られてかつての輝きは無いが、懐かしい景色は忘れない。


故郷に戻るのに1年の歳月が過ぎ、スーザンを蘇らせると誓ってから合わせて12年の歳月が過ぎていた。




私の生まれ育ったゼフラの町……


今は所々に家屋の瓦礫があり、当時の面影を残すだけの廃棄と化している。



「……」


町の廃棄には、病で行き場の無い者達が見捨てられた犬猫の様に体を寄せあい、静かに暮らしていた。


ただただ、死を待つだけの人々……



変わってしまった。あの頃とは全く違う、全てが変わってしまった私の故郷。



「…… 大丈夫だよ、私達はいつでも側に居るからね」


「マスターにはウチらが付いてるニャン!」


「いつでもお呼び下さい。マスターの為ならどんな事でも!」


故郷の有様に落ち込んでいた私を彼女達が励ましてくれる。


彼女達にはスーザンの事は話してある。彼女が私にとってどれ程に大切か、どれ程に彼女に会いたいのか、その私の心情を話してある。


それでも彼女達は私の側に居てくれると言う。そんな彼女達の新たな家族を蘇らせるため、私はあの場所に向かうのだ。



私は記憶を頼りに、スーザンが吊るされていた家屋の瓦礫の前に立っている。


幾つかの魂が彷徨う中に彼女のそれは有った。


12年の歳月は彼女から人間の知性を奪い、ただ世に恨みを募らせるだけの想念体へと変わらせていた。


それでも私にはその魂が彼女の物だという事が分かった。決して忘れる事のない彼女の面影を感じ取ったのだ。



私は時空の棺から彼女の遺体を取り出すと、死者の蘇生と肉体の再生を試みた。


死んで腐りかけていた肉体が再生されて行き、透き通る絹の様な肌へと変わって行く。



胸が高鳴る。期待で息が詰まりそうだ。


彼女に記憶は残っているだろうか?


私の事を覚えていてくれただろうか?


昔の様にアレフとまた呼んでくれるだろうか?


様々な思いが交錯する中、遂に私は再び彼女と出会う事が出来た。



だがそんな私の期待とは裏腹に、蘇ったスーザンに記憶は残っていなかったのだ……



「…… おかえりスーザン……」


「……?……」


「とても…… とても君に会いたかったんだ…… 」


「…… あ… う…… あうう? 」


まるで生まれたての雛鳥の様に無垢な彼女。

私の事も形式上の主人としか認識していない様子。



「…… スー…… 」


彼女からは個性も感情も、自我ですら感じられない。彼女が死んでからの年月が経ち過ぎた結果、完全に自我を喪失してしまった様だ。



魂はとてもデリケートだ。マーロやレイラ、イルザは死んでから5年以内での復活だった。


そのためレイラとイルザに至っては、生前の記憶は無くとも自我や個性などの性格は残っていた。


だがスーザンの魂には自我も個性も残っておらず、ただの想念体と化していたのだ。


あのままあの場所に留まっていたならば、他の魂達と融合してレギオン化(多重憑魂)していただろう。


因みにレギオンとは複数体の魂が一つになり、怨みや怒りなどの想念に支配され、生者を狂い死なす叫びを上げながら飛び回る死霊の一種だ。 


大虐殺などがあった廃墟や、冒険者がよく死ぬ迷宮などで生まれ易い。


こうなってしまうと分離は不可能で、誰かに討伐されるか、更に強力な魔物の餌として取り込まれるかの運命しかない。



きっと魂のメモリーの限界は、肉体などの器が無ければ5年程で潰えてしまうのだろう……


アルカポの死霊共もそうだった、古く死んでから時間が経った者ほど自我を無くし、強く厄介な魔物と化していた。


それとも、私にまだそれだけの力が無いだけなのか……



「…… 」


私の頭の中で走馬灯の様に、彼女と過ごした日々の記憶が流れて行く。


もう彼女の中には私は居ないという現実が、ここまで張り詰めて来た私の心をうち砕くだいた。



「…… 遅かった…… 遅過ぎたのだ…… 」


キョトンとした目で私を見つめるスーザンの姿が、尚更に私の心を締め付ける。


もう2度と以前の彼女には会えないという事実。もはや絶望感だけが頭の中を支配していた。


だがそんな打ちしがれていた私を救ってくれたのは彼女達、新しく出来た家族だった。



「泣かないでマスター、私達は何処にも行かないよ」


「マスターにはウチ等が付いてるニャン!」


「マスターを支えて見せます、私達の全てで……」


強く繋がっているからこそ分かる、嘘偽り無い彼女達の気持ち。



「…… お、お前達……」


3人が私に抱き付いて来た。体温は無いが彼女達の心の暖かい温もりが伝わって来る、彼女達の優しさが伝わって来る。


そしてマーロがスーザンの手を取り私達の輪に導き入れる。



「記憶が無いなら私達で作ってあげればいい」


「ニャヒヒヒヒッ、そうニャン。スーザンはもうウチ等の家族ニャン!」


「私達4人でマスターを支えるのです!」


記憶が無いなら作ればいいと彼女達は言う。


確かにその通りかも知れない、記憶が無いのなら私達で作って行けば良いのだ。楽しく、暖かな家族としての記憶を。



「…… そうだね私達で作って行こう、楽しく暖かな思い出を」


「うん、任せて!」


「はいニャン!」


「はい、頑張りましょう!」


私は1人輪の中でキョトンとしているスーザンに手を伸ばす。



「おいでスーザン、君と私達4人で一つの家族だ。私達5人で家族としての思い出を作っていこう」


「…… あ……うう……」


スーザンの意思の無い虚無な瞳に、一瞬だが光が戻った様な気がするのは気のせいだろうか。


そして何が起きているのか理解出来ていない彼女を加えての、私達の新天地を目指した旅が始まったのだ。


ありがとうございます。

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