31話 ネクロマンサー2
よろしくお願いします
それから私は、死者の蘇生と肉体の再生の力を極めるための修行を始める事にした。
死者の蘇生には対象の魂と肉体が必要だ。スーザンの肉体は時空の棺に納めてあるため問題はない。
だが魂は違う。この世に未練を残した者ほど輪廻の輪に戻らない傾向があり、そしてその魂は自身が死んだ場所に止まる。
それに彼女が死んだ場所では他にも多くの人々が死んでいる。
問題は彼女の魂を見極める力がまだ弱い事、今の私では彼女の魂と他の者の魂との見極めが出来ないのだ。
魂自体は見えるがそれが誰の物なのか区別が付かない。間違えて彼女の体に他人の魂を入れようものなら自我が保てず暴走してしまう。
そうなれば肉体とのバランスが保てず崩壊してしまうかも知れない……
駆け出しのネクロマンサーでは、魂の見極めは極めて難しい事なのだ。
死者の蘇生を行う場合、死んでから時間が経ち過ぎていると蘇生者の自我が形成されない場合がある。
そのためなるべく時間を掛けずにスキルの力を使い熟せる様に成らなくてはならない。
「能力のレベル上げにはこんな所ではダメだ!」
短期での上達、その為には死者が巣食うと云われる禁断の場所での修行が1番の効率。
場所の目星は付いている。ここより500キロ離れた場所にそれは有る。
そこはかつて数百万人が暮らしていたと云う滅びの都『アルカポ』。今では人を呪い狂わす死霊共の棲家と化している禁断の地だ。
その禁断の地に行けば、死者の肉体の再生に必要な伝説の秘薬エリクサーを、入手出来る可能性もある。
それにアルカポでなら短時間でのレベルアップも可能だろう。
気を抜けば死霊共に精神を乗っ取られ狂い死ぬ事必死な魔鏡での修行だ。
覚悟は出来ている。彼女を蘇らせるために、私は必ずこの困難を乗り越えて見せる。
だがこのレベルの禁所には赴くだけでもそれなりの準備が必要だ。私は使い捨てにするために、傭兵を雇いその地を目指す事にした。
私が雇った傭兵は『暁月の剣』という50名からなるかなり大きめの傭兵団。帝国出の傭兵団で、帝国とパール王国の戦にも参加していたという。
リーダーのラセールとエルザは夫婦で、2人揃っての人格者で。傭兵団の団員達も気の良い戦士達だ。
彼等を雇う為に故郷の屋敷の地下に隠しておいた資産を全て注ぎ込んだ。
「俺達の子が生きてりゃお前と同じくらいだったか……」
「私達ゃ、困っている奴は見過ごせないタチでね」
こんな形で無ければ彼等とは良い関係を築けたかも知れない……
だが私に迷いは無かった。彼等がパール王国を攻めた者達と分かった時点で、使い捨てると決めていた。
野盗や魔物などの脅威はアルカポに近づく程に高くなって行く。
アルカポに到着した際、雇っていた傭兵団はその数のおよそ4割を失っていた。それは厳しい旅路だったが、私の決意を遮るに至る障害は無かった。
「こんな依頼受けるべきじゃ無かった…… 」
「約束は果たしたよ。悪いが後はお前1人でやっとくれ…… 」
彼等との契約は滅びの都アルカポの入り口までの警護だ。彼等は契約通り護衛を果たした。
だがそれでは私の戦力が激減してしまう。
それを防止する為に、彼等から考える意思を奪い操り人形へと変える必要があった。
私はネクロマンサーの秘術"死奴隷"の力を使い、生き残りの傭兵達を意思を持たず、どの様な命令でも聞く死奴隷へと変えると、滅びの都アルカポの探索に取り掛かったのだ。
死奴隷とは、生きた人間の意思を奪い、リミッターを外した狂兵に変える狂気の力。
謂わば人工的にゾンビを作る禁断の秘術。
私は決めたのだ、スーザンを蘇らせる為ならどんな非道な行いでもすると。決して振り向きはしないと、そう決めたのだ。
アルカポに入って数日、そこでの修行は過酷と凄惨を極めた。
私を取り殺そうと数多の魍魎が迫る中、死奴隷とネクロマンサーの知識を総動員して、私は生存を続けている。
そんな私の心の支えは、腐りかけの保存されたスーザンの死体。私は半分狂っていたのかも知れない、それでも私はここで生き残っている。
そしてこのアルカポに来て8年、私は遂に"反魂分別"の能力を手にする事が出来たのだ。
この反魂分別の能力は、魂一つ一つの特性を掴み、理解して生前の情報を伺い知る事が出来る能力。
これでスーザンを蘇らせる事が出来る。
アルカポでは他にも、肉体の再生に必要なエリクサーを4本も手に入れる事が出来た。
滅多にこの世に出回らない秘薬だ。
何百、何千年の間、侵入者を退けて来たこの地だからこその成果といえよう。
私は故郷への帰り道、死者の蘇生と肉体の再生を試す為に、野盗に襲われて滅びた村に立ち寄った。
そしてそこで私は、ある娘の死体に目を引かれた。スーザンの様に乱暴された後に焼かれ殺された無惨な娘の死体。
彼女の魂もその場に留まったまま、この世の不条理への憎しみに満ち溢れていた。
私は彼女に決めた。
彼女の死がスーザンの最後と似ていた事もあったが、この世への強い未練、怨みを彼女の魂から感じ取ったのだ。
この世への未練や怨みが強い程に、蘇生後の肉体強度や強さが増して行く。兵隊を作るつもりは無いが、蘇生させて直ぐに死なれては余りにも可愛そうだ。
私は、蘇らせるからには責任を持ちたいのだ。
「…… 今から君を蘇らせる。だから君の名前を聞かせてくれないか?」
『……マーロ…… 』
魂の持ち主の名はマーロ、生前の彼女は明るく誰からも好かれた天真爛漫な娘だった。
結果、彼女の蘇生と肉体の蘇生は上手くいった。
アルカポの死霊で死者の蘇生は何度も実験を繰り返したから失敗はあり得ない。
死者の蘇生には魂と死体が必要だが、骨格の一部分でも有れば可能だ。
まあ彼処では肉体を再生する訳には行かないので骸骨だけの歪な物だったが……
「…… 私の新しい家族…… マスター、よろしくね」
蘇生されたマーロに生前の記憶が残っているのかは分からない。だが彼女は何とも言えない優しい笑顔を私に見せてくれた。
ありがとうございます。




