27話 ある修道女のお話
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多種多様な種族が暮らすこの世界では、それぞれの種族が崇める神や宗教が存在する。
だがこの世界では女神アリアナを筆頭にした、6人の女神を祀る真女神教が最大宗教だ。
真女神教の教に私利私欲に駆られての争いを禁忌とする教えがあり、そのため表立って争い合う事が出来ない国々は、こじつけの大義名分を翳して醜く争いを繰り返していた。
そして乱立する国々の一つにライスムール聖王国という中堅国家があった。そのライスムール聖王国は真女神教の総本山でもあり、代々女神と同じ女性が女王を務める国だ。
真女神教徒にとって聖地でもあるこの国は、唯一争い事から無縁の土地とされ、その地位を確立している。
この国では女神から神託を授かる巫女が、国の命運を左右すると言っても過言ではない重要な存在。
そのため巫女は教団のトップか女王以外入る事を許されて居ない、神殿の奥にある言霊の塔の、言霊の部屋に半ば幽閉される形で暮らしていた。
そんな彼女が齎す神託は女神アリアナの言葉と受け取られ、彼女の言葉は国にとって最も重要な案件として扱われている。
それは女神の加護を持つ巫女は嘘を付く事が出来ないと云われているからだ。
現在の巫女は、テスという元農民だった16歳の女性、
女神の生まれ変わりと賛美される程に美しい見た目とは裏腹に、まるで人形の様に表情が無い彼女。
3歳の頃に親元から連れ去られ、言霊の部屋に入ってから13年。その間は一度として外に出た事が無い。
塔の最上階から見下ろす町の景色が彼女には全て。そんな長年の軟禁生活の中でテスは心を閉ざしてしまっていた。
そして今日もいつもと変わらぬ彼女の1日が始まる。
テスの1日は塔最上階の言霊の部屋に差し込む朝日と共に始まる。そして女神へ1時間の祈りを捧げた後、パンと野菜スープの軽い質素な朝食で腹を満たす。
食事を終えた後は水浴びをして身を清め、いつ来るか分からない女神の神託を待つのだ。
神からの神託は半年に一度あるか無いかの頻度。いつ降りて来るか分からないため、その間テスに自由は無い。
暇な時間は町を眺めて過ごすか、何度読み返したか分からない聖書を読み返すそれだけだ。
普通なら頭がおかしくなる処だが、彼女には女神の加護があるためそれもない。いっそおかしくなってしまった方がどんなに楽か、自由のない彼女の1日がまた始まる。
今日も1人意味もなく日々の生活を繰り返し、ただ町を見下ろす彼女。何の魚だろう、テスは市場に並ぶ様々な物を無関心に見ていく……
そのおかげで目だけは人並み以上の視力だ。
「…… 」
しばらく死んだ魚の様な目で町を眺めていたテス。それを止めると今度は、椅子に座り意味もなく壁をジッと見つめる。
どれ程の間そうしていただろう、それにも飽きると今度は、ベッドに横になり瞳を閉じたり開いたりを繰り返す。
寝ようとしている訳ではなく、かと言って何かをする訳でもない。天井にある女神達の姿を描いた天井画、それを見ながら物思いに耽る。それが彼女なりの時間の潰し方なのだ。
そんな彼女に新たな神の神託が降りた。
唐突な事だったが神からの神託は、いつ何の前触れなく突然に訪れる。後はテス自身が蓄音器となり女神からのメッセージを伝えるだけ、それで終わりである。
だが今回のお告げだけは今までとはまるで違う、彼女自身に関する物だったのだ。今までとは違う女神からのメッセージに、不思議と胸が高鳴る。こんな事は今までに無かった事だ。
「女神様からの神託がおりました」
神からのメッセージを聞き終わると彼女は、言霊の部屋の外にいつも控えて居る教団の者を呼ぶ。
その者はテスからの言葉を受け取ると、彼女専属の神殿騎士の元に向かう。
テス専属の神殿騎士は無表情のままに彼女の元を訪れると、流れ作業の様に決められた文言を話す。
「……神託が降りたのですね。では、その内容を話しなさい」
彼女の部屋の前に控えて居る者のは、リサノサ.ノッサンバー.ダハラという堅物の狂信者の神殿騎士の女。
いつも無愛想に彼女の警護をし、彼女から神のメッセージを聞き、それを教団の上層部に伝える役割の者だ。
彼女の堅物さと異常なまでの狂信ぶりは嘘偽りが無いため、テスを介して齎される神のメッセージの伝達者としては適任。
彼女は神殿騎士の上位ランクに属する騎士でもある。テスの護衛兼監視役という役割も担っているのだ。
しかしダハラは公爵家出身の元貴族だ。そのため選民意識が高く、農民上がりのテスの事を正直好いて居ない。
それ以前に同じ場所に縛り付けられている現状に心底ウンザリしていた。
そのためテスに対しては辛辣になるダハラ。彼女のそんな態度もテスが心を閉じてしまった要因の一つだろう。
いつもならダハラにメッセージの内容を話して終わりなのだが、今回は何故か違った。
「いいえ、私から直接伝えよとの女神様からのお告げです。国の主だった方々を集めて下さい」
いつもと違うパターンに驚愕の表情を見せるダハラ。そしてテスの言葉の意味を理解すると共にその場から足早に去っていった。
「…… ( 教団と国のトップを集めろだなんて、い、いったい何が……)
女神に選ばれた巫女は嘘をつく事が出来ない。そのためテスの言っている事は間違いなく本当の事なのだ。
国の一大事か、まさか世界に何らかの危機が迫っているのか、早足で歩きながらも頭の中では様々な憶察が巡る。
「こうしては居られない、急がなくては……」
巫女の言葉は瞬く間に国と教団のトップに伝わり、それらの者が一堂に会する事となった。
そしてその場に呼ばれたテスは、13年振りに部屋の外に出る事が出来たのだ。
13年振りに部屋の外に出た彼女だったが、その間は運動も何もしてはいなかった。散歩ですら禁止されていたのだ。
長年の軟禁生活で歩く事すら困難と思われたテスだったが、女神の加護の影響か、まるで衰えた様子は見られない。
そんな彼女が案内されてやって来たのは、真女神教が誇る大聖堂の一室。
そこにはこの国の女王をはじめ、宰相に各大臣大臣、教会トップの大司教に枢機卿、司教など国のトップが一堂に会していた。
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