26話 国分真江2 マスターメナス
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「お前等、何している!」
だが突然の背後からの声に動きを止めて振り向く盗賊達。するとそこには盗賊達の頭のギルバルトの姿があったのだ。
「並々ならねえ気配に来て見れば……
まったく、相手との力量の差も見抜けねえなんて、俺が止めなかったらお前達は八つ裂きにされていたぞ」
そう言うと刀を構えたままの三池さんを見る。
「あんた等が何者かは知らねえが、ここは俺たちの縄張りだ」
そして背中にある大剣に手を掛けるギルバルト。
「ご、ごめんなさい。私達は間違えてここに飛ばされて来てしまっただけなの。だ、だから…… 」
「悪いなお嬢ちゃん、このまま見逃したら盗賊の頭としての面目が立たねえからな……」
三池さんもギルバルトの強さに顔の表情を強張らせる。彼女のそんな顔は見た事が無い国分さんも危機感を覚える。
どうあっても争い事を回避する事は出来ない様だ。
「捕まえたとて、お嬢ちゃん達に手は出させねぇから安心しろ」
そう言うと一気に三池さんとの距離を詰めて来るギルバルト。
「! 」
だが信じられない事にギルバルトの大剣を刀で受けずにいなして行く三池さん。
「チッ、小娘! その様な得物で俺の大剣をいなすとは、かなりの使い手だな。だがこれならどうだ!」
ギルバルトが足元の土を蹴り上げて目潰しを狙う。三池さんも紙一重で交わすが、ギルバルトの攻撃が死角を狙っての攻撃に変わる。
「クッ!……」
人を斬った事が無い三池さんの躊躇、それを見切ったギルバルトの攻めに防戦一方となる三池さん。
「やはりな。いくら優れた剣技を持っていても、人を切った事が無いお嬢ちゃんには俺の相手は無理だ」
一度でも迷いが出れば実戦では命取りとなる。重く早いギルバルトの攻撃に三池さんの防御が弾かれる。
「グッ……」
「勝負ありだな」
だがギルバルトに追い詰められた三池さんの瞳が金色に輝き、その存在感が一瞬で膨れ上がったのだ。
それと共にギルバルトが、自身が持つ大剣が一瞬でバラバラに斬り裂かれた事に驚愕する。
「な、何いィ!! 」
三池さんの存在感に気圧されたギルバルトは瞬く間に状況を見切り、近くに居た国分さんの背後に素早く回り込むとその首にナイフを当てた。
「真江!」
「…… 武器を捨てろ。まさか奥の手まで持って居るとはな」
瞬時に状況を判断し、最適な手段をとる。勝負ではなく、ただ勝つためだけに行動を取るギルバルト。
百戦錬磨の彼の判断力と行動力は伊達ではない。
「「「グヘヘヘッ!」」」
そしてここぞとばかりに詰め寄って来る盗賊達。
「お友達の命が惜しかったら大人しく捕まりな」
「クッ……」
絶対絶命な現状に、三池さんが刀をその手から手放そうとした次の瞬間、突如として砦が黒い影に覆われた。
何事かと皆が上空を見上げれば、其処にはドラゴンの姿があったのだ。
何の舞ぶれもなく、爆音と共に砦を覆い尽くす程の巨大な赤竜ドラゴンが、上空から飛来して砦の中程に降り立ったのだ。
「…… バ、バカな、 何でガルグイユが……」
そしてガルグイユは国分さん達を一瞥した後、逃げ惑う盗賊達を掃除でもするかの様に、ハジから襲い出したのだ。
「う、うわ〜〜!!」
「助け……」
「し、死にたくないィィ!」
ガルグイユの爪に裂かれ、ブレスに焼かれて次々と盗賊達が殺されて行く。
そして最後に残ったのは、国分さんと三池さんの2人に、ギルバルトを混ぜた3人だけだった。
粗方襲う相手が居なくなると、3人の元にガルグイユがやって来る。
ズシンズシンと一歩毎に、大地を震わせながらこちらに近づいて来るガルグイユ。だがどうやらコチラを襲う気は無さそうだ。
『…… 魔導書の気配に釣られて来て見れば、ただの魔導具だとは……』
魔導書を思わせる圧倒的な気配に釣られて来て見れば、ただの魔導具だった事に驚愕し、そして羞恥心を覚えるガルグイユ。
そしてその腹癒せに国分さんをジロリと睨み付けと、口のフシから炎の息を吹き出させる。
ガルグイユに睨み付けられた国分さんがガタガタと震え出す。その余りの怖さにチビリそうだ。
そんな彼女を護る様に三池さんが、刀を構えてガルグイユの前に立ち塞がる。そんな彼女から溢れ出る闘気が国分さんを暖かく包み込んでいく。
「マコト…… ( 何故だろう、マコトと共ならどんな困難も乗り越えられる気がする。勇気が湧いてくるのが分かる!)
三池さんの暖かい闘気に当てられ、震えが治まり心に余裕が出来た国分さんが、ガルグイユを真っ直ぐ見れる程に立ち直る。
『…… 其方が魔導書の主か?』
だがそんな事はどうでもいいとばかりにガルグイユが問いかけてきた。
「……い、いえ…… そ、そう。私が魔導書の主人よ」
最初は否定しようと思ったが、何故か自分が魔導書の持ち主だと認める事にした国分さん。
ここは嘘でも魔導書の所有者だと言っておいた方がいいと判断したのだ。
三池さんの勇気を分けてもらい立ち直った国分さんだが、それでも怖い物は怖い。そんな彼女の心情を読み取ったのか、ガルグイユが笑みを浮かべる。
『安心せよ、その魔導具を持つお前達に危害を加える気は無い。それに……』
今度は三池さんを興味深かそうに伺うガルグイユ。どうやら彼女の持つ何かに気付いた様子。
『ガッハハハハハッ! 何と楽しき出会いか。
マスター.メナスよ、魔導書と共に有るならばそれに呑み込まれぬ事だ。それと龍の姫よ、いずれまた会おうぞ!』
そしてガルグイユは捨て台詞だけを残して、けたたましい爆音と共に飛び上がると、山脈の方へ飛んで行ってしまった。
自分達以外に誰も居なくなった砦にしばしの静寂が訪れる。
国分さんと三池さんの2人は互いに顔を見合い、安堵からの笑顔を互いに見せる。
「……ハ、ハハハ…… い、行ったね…… わ、私は腰が抜けるかと思ったよ……」
「真江…… が……(真江は頑張ったよ)
「…… うん。マコトのおかげだよ」
2人は危機を乗り越えた安堵感から、お互いに抱き合い無事を喜び合う。こうして彼女達の異世界での冒険が始まったのだ。
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