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死霊組成  作者: ボナンザ
22/80

22話 と、ある出会い

よろしくお願いします




「えっ? な、なんで……」


先程までの夕暮れのオレンジ色から、一瞬で夜の闇に変わったのだ。人為的か自然的かは分からないが、人知を超えた力だという事は分かった。


そんな僕の叫びに応える様に今度は、僕達が居る川の対岸、草原の至る所から土砂を掻き分け赤黒い骸骨の兵が姿を現したのだ。


それまで綺麗に咲いていた花々もいつの間にか漆黒の花に変わっている。



僕は何故この草原に生き物が居なかったのかを悟った。呪いか何なのかは分からないが、この草原で夜を迎える者は例外なく、この骸骨軍団の仲間入りを果たすからだ。


骸骨軍団の数は数千体以上か、ざっと見渡して見てもあの草原を覆い尽くす程に居る。



「ば、化け物……」


「ニャ! にゃ! ニャ〜ン!! 」


ニャトランが左右を見渡し悲鳴を上げた。彼の水浴びで濡れた毛皮も恐怖で波打ち立っている。


そんな彼とは対照的にタマさんは前足を引く構えて骸骨軍団に威嚇の唸り声をあげている。



赤黒い骸骨兵達は錆びた剣か槍を装備しており、中には鎧を纏った兵や何かの動物か魔物の骸骨も見受けられる。


その骸骨軍団が川のこちら側にいた僕達を獲物と認識したのか、一斉に襲いかかって来たのだ。



「や、ヤバい! 逃げな…… 」


''スピリット.ウェイ''(精神安定)の魔導具を付けている僕でも、逃げるという選択肢しか思い付かない現状。


そんな僕の危機感を感じ取った"セプテム.アイ''が自動的に作動する。


火炎と凍結、そして重力、疾風の4つの煌玉が僕の意思とは関係なく、骸骨の軍団目掛けて飛んで行ったのだ。



そして始まった大虐殺ならぬ大駆除。



火炎の煌玉は爆炎を伴う火の玉と化し、骸骨軍団を吹き飛ばしながら焼き払っていく。


氷結の煌玉は文字通広範囲の骸骨軍団を一瞬で凍結させてその動きを封じていく。


重力の煌玉は超重力の波動を放ち、数百からの骸骨軍団を粉々に粉砕する。


そして疾風の煌玉は目に見えぬ風の刃と化して、接近する骸骨軍団をバラバラに切り刻んで行く。それぞれの煌玉の効果範囲は20〜50メートルとかなりの広範囲で敵を殲滅している。


僕の周りに残った3つの煌玉は接近する敵が皆無な中でも、僕を護る様に空に滞空し警戒する様に漂っている。



僅か数十秒の間に次々と駆逐されていく骸骨軍団に僕の開いた口が塞がらない。


僕等の眼前に迫っていた骸骨軍団の駆除をあらかた終えた4つの煌玉が腕輪に戻る。そしてその動きを止めると、3回程点滅して動かなくなってしまった。


他の3つの煌玉は僕を護る様にその周りに滞空したままだ。


どうやらこの魔導具には稼働限界時間がある様で、時間にしておよそ5分程。魔法にして上級魔法3発分。



「…… こ、これは…… (お祖父ちゃんが「地球では絶対に使うな」と言った理由が分かったね )



ほんの5分程の間に、僕等の周りにいた骸骨軍団はほぼ壊滅状態。


十分にして余りある威力に終始開いた口が塞がらない。そして未だに僕の周りを漂っている3つの煌玉が、頼もしくもあり恐ろしくもある。



そんな中、ケット.シーなのに魔法が使えないニャトランが、口元に指を添え羨ましそうにこちらを見ているが、僕に気にする余裕はない。


この魔導具は一度使うと再使用までに1時間程のチャージが必要だ。そのため無駄遣いは厳禁で、すでに4つの煌玉は1時間の間は使う事が出来ない。


今回は僕の危機感に感応した魔導具の自動攻撃だった。そのため今度からは僕が自分で制御コントロール出来る様に成らなくてはならないだろう。



「視界に入る骸骨軍団はあらかた駆除出来た。だから今のうちに川を渡ってしまおう」


「わ、分かりましたニャン! 」


こうなれば躊躇なぞしていられない。早く向こう岸に渡らなければならない。



ニャトランから尊敬の眼差しを感じるのは気のせいだろうか。仕方ないから今度ニャトランにも、ランクを落とした腕輪を作ってやろう。


そんなこんなで川を渡り始めた僕達。川を渡り終えると、先程怒鳴り声を上げていた武装集団が此方に走り寄って来る。



「い、今の大魔法はあんたの仕業かい?!」


骸骨軍団があっさりと倒された事に驚愕しているのか、警戒していた僕に興奮気味に聞いて来る兵士と思われる武装集団。



「…… そ、そうです。あの魔法は僕が使ったものです」


ここで否定して魔導具の存在を悟られるのは避けたい。僕の魔導具は普段使いには強力過ぎる。


もし奪われでもしたら洒落にならないレベルだ。

そのためここでは僕自身を魔道士と偽って自分が魔法を行使した事にした。



「おお! 魔道士とは、黒髪で顔は冴えないが凄い」


「通りで! 冴えない顔だが素晴らしいズラ」


「アレだけの大魔法を連発出来るわけだ! 黒髪だが大したものだ」


一つの系統魔法しか使えない魔法使いと違い、複数系統の魔法を使える魔道士は、この世界では稀なジョブだ。僕が魔道士だと聞いた兵士と思われる武装集団の興奮が治る様子は見られない。


黒髪? とか顔が冴えないなどの悪口? も聞こえるが、このまま彼等に付き合っていても仕方ない。なので色々と情報を聞いてみる事にした。


ーーー


彼等の話によると、彼等はここから10キロ程離れた場所にある、アーリアナ王国のグランという町の衛兵という事だ。


夕暮れ時を過ぎると川の対岸では骸骨が溢れ彷徨い出す。その骸骨が川のこちら側に来ない様に見張る事が彼等の仕事。


本来ならもう少し人員が欲しい所だが、諸事情により現在は4〜5人の少人数で見張っている。


聖女が川にかけた結界が強力なため、これまでは川を渡る骸骨はいなかった。その事実も見張りの人員が少ない理由の一つだ。



「…… バットス平原は太古から戦が行われてきた呪われし土地だ。今から30年前、この土地に王都から落ち延びて来たというネクロマンサーが住み着いた。その時、この土地に呪いが振り撒かれたんだ……」



ーーーーー



今から30年前、何の意図も無く草原にやって来たネクロマンサー。


彼はバットス平原に家を建て住み着いた戦いを好まない変わり者だった。


彼は畑を耕し、家畜を飼い、何か悪さをするでもなく仲間の"死人形''達とその地で静かに暮らしていた。



太古から戦場として忌み嫌われて来た土地も、彼と彼の作った死人形達には逆に住みやすい土地だった。


彼の家の周りには常に様々な花々が植えられており、色鮮やかで芳しい香りに満ち満ちていた。



だがそんな彼を良く思わなかったのが当時の領主だ。


死者を生き返らせ弄ぶと言われるネクロマンサーは、この国では忌み嫌われている。例え悪さを働いて居なくとも当時の領主には疎ましい存在。


ネクロマンサーが住み着いてからバットス平原は荒野から草原へと姿を変えた。その姿は近隣に住む貴族にはとても魅力的に見えた。


草原と化した忌地、当時の領主にはバットス平原を一大農耕地とする壮大な計画があった。その為にも平原に住み着いた邪魔なネクロマンサーを処理する必要があったのだ。


そして領主は何の罪も犯していないネクロマンサーに、適当な大義名分を作り討伐隊を編成した。



「忌まわしき土地も我が手によって、一大農耕地として生まれ変わるのだ。その為に邪魔になる物は例外なく排除する!」


討伐隊にはグランを代表する当時のAランク冒険者や、寄り親のブルナン侯爵から借り受けた凄腕の魔道士も加わっており、その戦力は過剰にも思われた。


その千に及ぶ討伐隊を相手に、最初は話し合いの姿勢を見せていたネクロマンサー。


だが交渉に向かわせた"死人形''を殺された事で、討伐隊との全面交戦へと舵を切ったのだ。


楽に終わると思われていた争いは熾烈を極め、7日7晩にも及んだ。そしてその争いは、ネクロマンサーの配下の全滅をもって幕を閉じた。



唯一生き残ったネクロマンサーの瞳には仲間を失った事への後悔の念が色濃く現れていた。


その後の彼は争う事も逃げる事もせず、何故か素直に討伐隊に捕まったネクロマンサー。



ネクロマンサーとその仲間にその数を三分の一にまで減らされていた討伐隊は、その鬱憤を晴らすかの様に捕らえた彼へ過酷な拷問を行った。


連日連夜に及ぶ地獄の拷問の日々。死より辛い苦痛の中でも、常に彼の口元には不気味な笑みが有った。


そうなる事を分かっていたかの様なネクロマンサーの行動。


仲間を殺された彼の復讐はこの時から始まっていたのだ。死を超える苦痛を対価に呪いをばら撒くネクロマンサーの秘術。



「フハハハハハ、我が苦痛を対価にこの地に呪いをばら撒こう! そして永遠に明ける事の無い… 漆黒の闇で…… この地を…… 穢す…… 永遠に………」


最後の言葉と共にその命を終わらせたネクロマンサー。その魂と亡骸が闇となり上空へと舞い上がった。


そして漆黒の雨となるとバットス平原に降り注ぎ、草原を漆黒に染めていったのだ。



漆黒の雨は7日7晩の間バットス平原に降り続けた。


その雨に打たれた者を生きたままに腐らせ、屍人に変えながら雨は降り続けた。


漆黒の雨が上がると草原には漆黒の花々が咲き誇った。その花を見た者達は狂い、自ら喉を掻きむしって死んでいった。


その日から夜の帷と共に死者が彷徨い歩く死の地へと、バットス平原は変わったのだ。



後に呪いの広がりを危惧した領主は王都の聖女の力を借り、バットス平原を囲う様に流れていたレーヌ川に、死者を拒絶する結界を張り巡らせた。


神聖な聖女の力でもバットス平原の闇を晴らす事は出来なかった。彼女に出来たのは呪いが広まらない様に結界を張る事だけ。


そして豊かだったこの地は、ネクロマンサーの呪いと共に衰退の一途を辿っていったのだ。


ありがとうございます。

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