第1話「ワカと七人の侍」
初めまして、寿 丸と申します。なろうは不慣れではありますが、完結済みの小説を投稿してみました。
よかったら、お読み頂けると幸いです。
「火をくべろ!」
男たちの声に合わせ、
「火をくべろ!!」
爆ぜる〈星石〉が、
「火をくべろ!!!」
続々と運ばれていく。
膝と両手を土につけた、機械仕掛けの人形である〈からくり〉。その腰部に〈星石〉が放り込まれる度、内奥が窯のごとく燃え盛る。火花が舞っては宙に散り、呼応するように〈からくり〉の片目に光が灯る。
「ワカ、終わったぞ! 後は頼んだ!!」
指と歯の欠けた老人ムクロが、金づちを掲げて大声を張り上げる。
「わかった、ありがとう」
少年ワカは操縦席に乗り込み、木製の格子状の戸を閉める。
まず、操縦桿や取手、足元の木板をよどみなく点検。軋みや異音がないことを確かめ、木板を踏み込んで〈からくり〉を立ち上がらせた。
〈からくり〉の全高は十尺程度——大人二人ぶんほどで、ワカからすれば背丈の高い大人に肩車をしてもらっているようなものだ。
操縦席の前面——木の格子の隙間から雨風が容赦なく吹きつけてくる。ちょっと寒いなと感じたぐらいで、この先の戦への気負いはまるでなかった。
「ワカ!」
駆け込んできたのは、幼馴染のイヅだ。強風で髪が乱れ、顔の半分を占める火傷が見え隠れしている。それを隠す余裕もないのか、不安げにワカを見上げていた。
ワカは彼女を見下ろし——「大丈夫」
「シマダさんも、みんなもいるから」
「……無茶しちゃ、ダメだから」
「わかってる。危ないから、離れてて」
〈からくり〉を歩かせ、鉄火場から出る。
村の真ん中——広場を取り囲むように、一人の人影と六つの機影がある。雨に加えて暗雲も立ち込めていたが、ワカにはどれが誰なのか、はっきりとわかった。
「準備はできたのか、ワカ」
腰にひと振り、己の背丈ほどの刀を差したシマダが声を発する。
長身の女性で、髪を肩の高さでざっくりと切っている。装飾品の類いは一切着けていない。この中で唯一〈からくり〉に乗らない身で、両の眼には厳しい光をたたえている。
「うん、待たせてごめんなさい」
「構わない。ここが正念場となるからな。後悔のないようにしておけ」
「おいおい、シマダ! 冗談をぬかしてんじゃねぇや! まるでこれから死ぬつもりみてぇじゃねえか!」
罵声ともつかぬ声を発したのは〈大刀〉に乗ったチヨだ。ざんばら髪で、胸にさらしを巻き、薄汚れた着物を着崩している。
そして〈大刀〉——ワカの〈からくり〉よりもひと回り大きく、名の通り分厚く長い刀を背負っている。しかし、傷や錆などのせいで見栄えが良いとは言いがたい。
勢い込んで操縦席から身を乗り出したことで、無駄に大きな乳房でさらしがはち切れそうになり、シマダが目をすがめる。
「やめんか、チヨ。はしたないだろうが」
「そうですよ。一応、仮にも性別的には女性なんですから」
「おめぇらも女だろうが! それに、一応ってなんだ、一応って! こら!!」
チヨががなり立てた先には最年長のゴロウと、ふっくらとした体つきのタイラ。それぞれ四本腕の〈巫山戯〉と、斧を担いだ〈不動〉に乗り込んでいる。二人とも呆れたように顔を見合わせ、苦笑を浮かべていた。
「決戦前だというのに、騒がしいことですわね」
愛機〈クリムゾン〉にて扇子を扇いでいるのはリタだ。悪天候の中、そして戦には不釣り合いとしか思えない異国の——赤地の異装を身にまとっている。
そして〈クリムゾン〉は左手に円形の盾を、背部には円錐状の槍を背負っている。ワカたちとは違い、操縦席の上部には屋根代わりの尖った装甲が設けられており、さらに硝子で周りを囲んでいるため、雨の侵入を見事に防いでいた。
チヨはそれが気に入らないらしく、ぎりぎりと歯を鳴らしていたが——リタはまるで気にも留めていない。
「まぁ、このぐらいの方がちょうどいい感じに緊張が解れるのかもしれませんわね。……そう思わない、キュウ?」
リタの背後——背中合わせに〈朧〉を立たせているのはキュウだ。男性と見紛うほどの短髪で、非常に細身、衣服も——帯すらも——すべて黒で統一している。
そして〈朧〉もまた、両の目以外は漆黒に彩られていた。頭部がなく、装甲も薄く、手足が細長い。腰には四本、そして背中にも二本の刀を差してある。
乗り手であるキュウは、口を開く気配もない。
リタは慣れているらしく、「相変わらず、つれないこと」とぼやいた。
「ああ、緊張といえば——オシロ、あなたはどうかしら?」
「え!? あ、そうですね……」
しどろもどろに応えたのは、ワカとそう変わらない年齢のオシロだ。まっすぐ伸ばした髪を頭頂部で束ね、きちっと上物の着物を羽織っている。
乗機の〈真〉の腰には多くの侍がそうしているように、刀と脇差とをひと振りずつ差してある。
「今度はいかがかしら?」
「せ、先生の名に恥じない戦いをしてみせますっ」
「だそうよ。シマダ様、どうかしら?」
「……先生はやめろというに」
シマダがぼやいた時——ぴく、と彼女の瞼が跳ねた。同時、ワカも操縦桿を握る手に力が入る。
「ワカ、聞こえたか」
「うん、もうすぐ来る」
間を置かずして——村とはまるで見当違いの方向——山の中腹で大砲の弾が炸裂した。瞬く間に炎上し、村の各所から悲鳴が上がる。
「おおっと! へへっ、おいでなすったか!」
「今のは、ただの揺さぶりでしょうね」
「某も同意見だの、タイラ。……シマダ殿、動くか?」
「待て、ゴロウ。敵はまだ見えていない。キュウに偵察を任せたいが……いいか、リタ?」
「構いませんことよ、キュウがいいのなら。……で、どうなの?」
キュウは何も言わず、〈朧〉を一歩前に出す。両手には、すでに刀が握られていた。
「キュウ、敵の数を知るだけで構わん。把握したら、すぐに戻ってきてくれ」
シマダの指示に、キュウはわずかにうなずいた。〈朧〉で木の柵をひょいと飛び越え、林道へと走らせる。
「では、こちらも迎撃に備えるとしようか」
シマダの一声に、それぞれの〈からくり〉の乗り手が手を振るなどして応える。その後ろには村人たちが——かろうじて戦える人々が——怯えをあらわにしつつも、竹槍をひしっと握り込んだ。
「全員、死ぬな。生き残れ。——各自、持ち場につけ!!」
それぞれの〈からくり〉が、村人を率いて別々の方向に走り出す。
そして——その場に留まったのは、ワカとシマダのみだった。
「ワカ、行けるか?」
「うん」
「うむ。……守るぞ、お主の村を」
「うん」
シマダは長刀を鞘から引き抜き、徐々に迫り来る〈虚狼団〉の鬨の声と、激しい足音と機械音に身構える。
ワカは白く濁った片目で、操縦席の真上の〈からくり〉——〈地走〉の頭部を見上げた。〈地走〉もまた片目が落ちくぼんでおり、そこを中心に顔の半分にひびが走っている。
もの言わぬ〈からくり〉に、ワカはただ一言発した。
「——行こう、〈地走〉」