第五話 帰宅
(05.)
「ただいま〜猫兄!」
「おかえり、我が愛しのマイブラザー瑠璃!」
よかった、へリナちゃんには気づいていない。
私が美少女になってぶっ倒れたぐらいだからこんなゴスロリ幼女には何をしでかすか分からん。
猫兄に気づかれないようにそのまま自らの部屋へと直行しようとしたときだった。
「ミーンミーン季節外れのセミの声ー、ミーンミーン季節外れのセミの声ー」
「ん? どうしたんだいその背中の変な生き物は?」
猫兄は私の背中に引っ付いて謎の言葉を発しているゴスロリ幼女ヘリナを指して言った。
思ったよりドライだった……。
「猫兄って、幼女耐性あるんだね」
「つまんないナー」
「いや自らバレに行くのはやめときなさい」
ヘリナに注意する。
「ん? 背中に引っ付いてるのよく見たら幼女じゃん……もしかして瑠璃の恋人かな?」
「ご無沙汰しております瑠璃ちゃんのお兄様、生憎にも私は恋人で……」
「否定しないのか……敵だな駆除させてもらっていいか」
「瑠璃ちゃん! こいつ話し通じないヨ!」
また暴走してるなー猫兄(本名は御猫)。
猫兄は昔からかなり過激なブラコンである。
あれは私が小学5年生の時のハロウィンだった。同じクラスの子が家に来て「トリック・オア・トリート!」と言ったのだが、そこへ猫兄が滑り込んできて「僕の宝にいたずらかい? いい度胸してるね君たち」と威嚇した。当然猫兄は学校に呼び出されていたが、「家族を守るためにはどんな手でも使ってやる」や、「悪いとか正しいとかうるせぇなぁ、見方を変えれば崩れるような立場で話してんじゃねぇよ甘ったれが」とか言って大人さえ言い負かしていた。
「ちょっと待って瑠璃ちゃん考えるよりも先にタスケテ! このままじゃ新しい物が見えてきてしまう!」
気づいたら猫兄の手によってへリナが縄で緊縛されていってた。
最後の善意として関節や肉体に負荷のかかりにくいように縄の位置を考えてくれてい……じゃなくて。
「猫兄、この子は私が殺されそうになったところを助けてくれたんだよ」
「何、殺されそうになったって!? 怪我はしてないのか?」
「うん、この子のおかげで」
「何だと……これは悪いことをした」
ちゃんと伝わってくれたようだ。一安心。
「終わった? 終わったなら縄をほどいてほしいヨ!」
「あぁ、それは……先に写真を取ってからでいいかい?」
「ダメに決まってーー」
「いいと思うよ猫兄!」
ヘリナちゃんほんっっっっっっっとうにごめん。猫兄の最高傑作なんだ。
猫兄がこんなに上手に人を縛れたことはない。本当に素晴らしいよヘリナちゃん。
「して……ころして……」
「だめだよ、こんなに素晴らしい作品ができたんだもの」
「くっ! 殺せ!」
「いや何パターンぐらいあるのそれ」
「ざっと数えて40パターンぐらいカナ?」
「余裕あるね、あと数十分は持ちそう」
「あああああああああ!!」
〜数十分後〜
「なるほど、その三人組が誘拐して、監禁されてたけどヘリカル超絶パワーで解決したと」
「そうそう、もうパンッってなってネ、爽快だったヨ〜」
あの二人、順応速度速いなぁ。
ヘリナと猫兄は、かなり喋るようになっていた。
「ありがとうな、僕のかわりに瑠璃を守ってくれて(カシャッ)」
「そりゃ当然のことをしたまでデスヨ〜」
ところでいつ縄外してあげるんだろう……。