第二話 ナンパ?
(02.)
「ここってどこだろう?」
そんなことをつぶやきながら高層ビルの立ち並ぶ通りを歩いていた。
私は今、家から歩いて1時間ほどのところにある街に来ている。
都会に行けばちょうどいい服が売られていると思ったけど、現実はただよくわからないビルが立ち並んでいるだけだった。
スマホを家に忘れてきたのでマップも使えないし、この場所の地図も持っていない。
そして一番問題なのが、家に帰ることができないところだ。
とりあえずどこかの建物に入ってそこで地図を書いてもらおうと思った瞬間、突然後ろから肩を掴まれた。
「もしかして迷子かぁ?」
と、おそらく私を掴んだであろうお兄さんが声をかけてくれる。
「俺たちが案内してあげようなりか〜?」
前から突然現れたコ◯助みたいな喋り方のお兄さんが私の迷子になった手をとる。
「ここの地形とかは把握してるぜ、任せやがれ」
と、三番目に現れた屈強な男が私の腰に手を回し、逃げられないようにホールドする。
……これ、優しそうにしてるけど絶対誘拐するやつだよね?
「あ……う……」
腕に力を入れて振りほどこうとしたが少しでも動けば強く絞められて声が出てしまう。
大人しく言いなりになるしかないのか……。
「……オ……オネガイシマス……」
私は、すべてを諦めた。
「ここの服はいつでも流行りに乗っていてなぁ、流行をおさえたておきたいならここだ」
「君にはワンピース系が似合いそうなり〜」
「値引き交渉なら任せやがれ」
あれから謎の三人組に連れられていろんな服屋をまわっていた。
どこでもどんな服でも似合うように着せてくれるため、私のテンションはマックスだった。
季節のファッション、流行の服、好きな服と、着られた私は満足している。
「よいしょっと……これくらいでいいかな〜」
服をたくさん買ってしまったせいで紙袋地獄になりつつあったので、彼らに感謝を伝えて去ろうと思った。
しかし、楽しいはそこまでだった。
「ごめんね〜」
そう声をかけられ口をハンカチで覆われる。
瞬間、意識がシャットダウンした。
真っ暗闇。感情も理性も全て麻痺している。
なにもないところに漂っている。
身体の感覚もなく私が私なのかわからない。
ふと、頭の上方から勢いを感じる。
下からも勢いが迫ってきている。
あ、と思ったときには潰されて私の意識は霧のように散ってしまった。
身体が勢いのままに離れていく。
薄れていく。溶けていく。
それが心地よかった。
そのまま身を任せ感覚を楽しんでいると遠くから声が聞こえる。
嫌いな声だ。私を否定する。
すべての空間が泥沼に沈んだ気がした。
それと同時に私の意識も固まっていってしまう。
身体が感情を取り戻していく。
悲壮、絶望、苛立ち、泣き気。
体の内側から凍っていく。
すべてが止まった。
何も考えたくもないのに嫌なことばかり考えてしまう。
嫌な記憶ばかりを思い出してしまう。
「僕がいるから大丈夫だよ」
ふと、懐かしい声が聞こえたような気がした。
あの日のことを思い出す。
私のことを全て肯定してくれた彼のことを思い出す。
生きる希望が湧いてくる。
また現実を過ごそうと思う。
身体が目覚める。
さきほどまでの出来事を脳が整理してくれる。
瞼の感覚を取り戻す。
目を、開く。
「ふぇっ!」
何か悪夢を見ていたのか、肩をビクッと震わせて起きる。
ここは……どこ?
壁が岩でできている部屋のような空間に私は倒れていた。
おかしい、さっきまで私は都会にいたはず。
そうだ、さっき怪しい三人組に睡眠薬を使われて眠らされていたんだ。
そう考えると誘拐が目的で私に至れり尽くせりしていたのかと思ってしまい、なんだか嫌な気持ちだ。
まぁでも、こういうことをする人は大抵自らの力だけでは解決できない問題に直面しているもので、おそらくこの状況は私を誘拐して身代金とかを親から搾り取ろうとしているパターンだろう。
しかしそうだとしたら先程までの行動に納得の行かない……なんというか腑に落ちない部分があるように感じてきた気がした。
しかし、こんなところでただ兄に身代金を払われるのを待っているわけにもいかないので、どこか逃げ出せる扉がないか探す。
あたりを見渡してみると、色がカモフラージュされていて地味に見えにくいが天井に排気口を見つけた。
しめた! この身体なら通れる!
そう思いながら排気口に手を伸ばす。
……届かなかった。
身体は横にも縮んでいてくれたが、縦にも縮んでしまっていた。
部屋の中に使えそうなものがないか探してみると、椅子と縄が見つかった。
おそらく人を縛りつけて拷問していたのだろう。
椅子には血が染み込んでいた。
その物騒な椅子に乗って縄を投げて排気口の隙間に通す。
通したのを引っ張って片方を地面に埋め、上から椅子を乗せる。
縄をよじ登って……
よし、やっと排気口につくことができた。
それからはもう、ひたすら外の匂いのする方へと進んでいった。
「全く……捕らえた者を逃してしまうとは、情が芽生えおったか……」
全身スーツで白髪のおそらく年齢は40を超えているであろう美形の男がモニターを見ながらそんなことを呟いた。
「やつらは処分する、見かけたら心臓をえぐって殺せ!」
男が何もない空間に向かって強い語句で命令する。
「了解しました、〈オーナー〉」
すると、空間から数人の人影が姿を表す。
それらは男へ言葉を返すと、胸に手を当てながら床へ吸い込まれていった。