Another‐瑠璃‐ (第一話)
(01.)
「ふぁ〜よく寝たぁ」
寝起きの身体にムチを入れつつベッドから降りようとしたそのとき、ふとした違和感を覚える。
ベッドについた手が何やら髪のようなものに触れたのだ。
それも、大量の。
「ひぇっ!」
思わずベッドから飛びのき、軽い放物線を描いて床に突っ込んでいった。
少し遅れて大量の髪の毛が私の身体にバサーっと降りかかる。
「きゃぁ!」
……恐怖からかめっちゃ高い声で叫んでしまった。
私の家族起こしたよこれ絶対。
案の定部屋のドアが勢いよく開く。
「大丈夫か! マイブラザーる…」
兄が駆けつけてくれた。
だがその肝心の兄は私を見た瞬間にフリーズしてしまう。
まさかメドゥーサでもいるというのか。
全身から血の気が引いていく。
「ヘルプミ猫兄!」
恐怖で思わず叫んでしまった。
驚きからか兄が身体を一瞬震わせ、心臓を掴む。
兄がゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「もしかして……瑠璃……なの……か?」
……うん?
「どうしたの猫兄?」
「ぐはぁっ」
兄が心臓を抑えて倒れた。
「うぅ……俺を尊死させるな」
何逝ってんのこいつ。
「瑠璃……一度鏡を見ろ……自らの身体を見ろ……」
兄の元へ這いずりよって顔を覗き込む。
「待て、それ以上は死人が出……ガクッ」
死んだー!?
死んだ兄は置いといて鏡を見てみる。
……なんでこんなところに美少女のポスターが張ってあるんだろう?
……私!?
特殊メイク! いやでも背も縮んでるし……。
ま……まさか猫兄……!?
「一服盛ったな!?」
……返事がない、ただの屍のようだ。
兄ではないとなると原因はわからないな。
そんなことを思いながらスマホを開く。
今日は土曜日で、今の時間は朝9時か……。
もしこれが夢でないのなら、私が今やるべきこととして3つがあげられる。
まず1つ目に服を買いに行くこと。
そして2つ目に学校に電話すること。
最後に生理用品を備えておくこと。
学校からなにか課題が出ていたような気もするけど……課題なんてちまちましたもん、私はパスだ。
先生の言葉を思い出してしまった。
「瑠璃! 物にはやりどきってものがあるのよ! そして何があっても投げ出さないこと-------単純よね? それゆえに、とても重要よ」
まぁ、明日がやりどきだろうし気にしなくていいよね。
そんなことを思いながら服を着替える。
男女兼用の黒パーカーに、ブルーのラインが入った黒の半ズボン。
知ってはいたが、半ズボンがパーカーに隠れてしまう。
まぁこれはこれで可愛いのでありとしよう。
必要な分のお金が入った財布をバックに入れて肩にかける。
鏡の前で可愛くポーズをとって玄関に向かう。
「いってきまーす!」
そんなこんなで私は家を出た。
「ふふふ……これは最高……至高の可愛さ」
そう言いながら私は空を飛ぶ。
私は「へもぐろりこぴんなとりうむ・れっどだいだい・でおきしりぼぬくれおちど……」とまぁ、あまりにも長すぎる名前なので略してへリナと呼んでほしいです。
私は今、訳あって彼……もとい彼女をストーキングしています。
彼女とは、私の力で美少女と化したかわいいかわいい瑠璃ちゃんのことである。
何かしら説明とか本人にしなきゃいけないんだけど仕草がかわいいから後回しにしちゃってます。
まぁでもあの子幸せそうだしまだ言わなくていいよねって。
「おいおいあの娘超絶可愛すぎるじゃねぇかぁ」
「本当なり〜ああいうのは攻めようとしたけど結局受けになっちゃうっていうのが最高なり〜」
「しかも経験少なそうだお……うぅー腕がなってきたお!」
なんだあの輩。
うちのかわいいかわいい瑠璃ちゃんになにをしようとしているんだぁ!?
絶対あいつら殺す。美少女に擬態してナンパされるふりして路地裏に連れ込んでぶっ殺す。
でも瑠璃ちゃんが色々されてる姿も見てみたいような……。
……一旦保留にしとくかぁ。