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薔薇の死神  作者: 族猫
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7.僅かな休息

 次の日の朝、俺が寝るベッドの横に立ってゼルが満面の笑みを浮かべていた。


「やあ、おはよう。今日もいい朝だね」

「あなたのその顔を見るまでは幸せな気分だったわ……で?人の寝顔を眺めていた理由が知りたいのだけど」


 正直、こいつがこんな不気味な笑顔でいるときは基本的にろくな事にはならない。


「今日は店の手伝いをしなくていいから、服と下着を買ってきなさい」

「はい?服も下着も困ってないわよ?ついこの間だって買ってきたもの」

「はぁ……そっちじゃなくて、女物のほうを買ってきなさいって言ってるんだよ。君、1年前からこっちの方の服とか下着とか買ってないでしょ?」

「いや、それこそ必要ないでしょ。この姿になることなんて滅多に無いんだし」


 俺がそう言うと、ゼルは心底呆れたような表情を浮かべる。


「あのねぇ……これから先、前回みたいな戦闘が無いとも限らないだろ?それともあれかい?そうなったときに服や下着が入らないからって裸で引きこもっているきかい?それこそ魔力どうこうの前に身体を壊しかねない。それに最近色々あって疲れてるだろ?だから買い物ついでに羽を伸ばせればいいと思ってね」

「まあ、それはそうだけど……」

「なら、つべこべ言わずに買いに行く!」


 駄目だ……こうなった以上ゼルは絶対に意見を曲げることはは無いだろう。


「分かった……買いにいってくる……」

「よろしい。それじゃあこれがお金とメモね」


 そう言ってゼルは五万円と何かのメモ用紙を渡してきた。


「なにこれ」

「ん?君の今のスリーサイズ、身長、足のサイズ。事前に分かっていれば楽でしょ?」

「ちょっとまって!なんで知ってんの!?」

「君が寝ている間に測ったに決まってるだろ?な~に簡単なことさ、魔法で寝ている君を無理矢理立ち上がらせて測ったんだよ」


 それを聞いた瞬間、俺は反射的に両手で身体を隠し、ゼルを睨みつける。


「あんた、ロクな死に方できないよ」

「大丈夫、死なないから。ほらさっさと、顔洗って朝ご飯を食べるんだ」


 そう言われて、俺はゼルが手渡したタオルを片手に洗面所に向かった。


「買うと言ってもな〜」


 服などを買う為ショッピングモールへ向かう中、俺はふとそう呟いた。


(買ってこいとは言うけど、私は女物の服なんてよくわからないしなぁ…まあ、いつも通りマネキンやらオススメとかから適当にセット買いすればいいか……ん?)


 そんなことを考えていた矢先の事だった。ガヤガヤという街の喧騒の中で微かに悲鳴が聞こえた気がして、その場で立ち止まって音に集中する。


『ダレカ……!』 

「気のせいじゃない……でも魔物の気配は……」


 魔物の気配を感じないため、俺は不思議に思いつつその声が聞こえた方へと走り出した。


「何なんですか!貴方達!」

「まあまあ、誰だっていいじゃん?」

「そうそう、俺達と遊ぼうぜ?君かわいいしさ〜絶対注目の的だって」 


 恐らく逃げている途中で行き止まりに当たってしまったのだろう。一人の少女が二人のチャラ男に迫られて逃げ場を失っていた。


(うっそでしょ……本当にあんなのいるのね……正直あんな風に誘われて、ホイホイついてく女は同じ女目線でみてもアホだわ……まあ、見てしまった以上は助けるか)


「け、警察呼びますよ!」

「アハハハ!君馬鹿でしょ。自分でどこに逃げ込んできたのかわかってないの?」

「ここは大通りからだいぶ離れた路地裏だぜ?そうそう警官なんて来ねぇよ」

(迂闊だった……逃げるのに必死で変なところに逃げ込んでしまった……いまから携帯で呼んだって遅いし、そもそも携帯を使わせてくれる余裕なんてないだろうし……誰か……助けて!)

『お巡りさん!こっちです!こっちで女の子がガラの悪い男達に囲まれてます!』

(え?)

「嘘だろ!?」

「なんでこんな時に限ってサツがいんだよ!?」


 突如聞こえた声に目の前の男たちは慌てその場から逃げていった。そして静かになった。


「あれ?」


 私は思わずそう呟いてしまった。なぜなら先程警察を呼んでいたであろう声の主が一向に現れないからだ。


「お礼……言わなきゃ……」


 私は駆け出した。声の主にお礼が言いたいのと、どんな人が助けてくれたのか興味があったからだった。


(あの声は私と同じくらいの女の子の声だと思う)


 必死で走って大通りまで出てきたが、結局その声の主を見つける事はできなかった。でも……


「声は…覚えた」


 もし、また出会える事があるなら必ずお礼をしようと決めた。


「焦った……」


 俺は例の少女を助けたあと、全力でその場を後にした。なぜならその少女が……


「まさか、相手が永瀬だったなんて……」


 そう、襲われていた少女は同じクラスの永瀬芽実ながせめぐみだったのだ。永瀬はうちのクラスの委員長を勤め、才色兼備、スポーツ万能と天は二物を与えずと言うことわざを真正面から全否定する存在で、なにを血迷ったか一時期「見た目だけなら張り合えるかもしれない」と考えたこともあったが、ある部分をみて突然虚しくなりやめた。


(あまりこの姿で知り合いに会いたくない……)


 俺がそう考えるのはバレるかどうかでは無く、単純に俺の精神的な問題だ。バレてないとはいえ誰も女装姿を見られたくは無いだろう。それと同じだ。俺はそのまま見つからないように急ぎ足で目的のショッピングモールへと向かった。


「すみませ〜ん。このマネキンの服の試着ってできますか?」

「はい、こちらですね?少々お待ちくださいませ」


 店員はそう言ってマネキンから服を一式外してくれる。


「おまたせしました」


 店員が綺麗にたたんで渡してくれた服を持って、俺は試着室へと向かい着替える。


(ん〜良くわかんないけど、悪くないのでは?)

「いかがですか?」


 外から先程の店員の声がしたため、取り敢えず試着室のカーテンを開いた。


「まあ!とても良くお似合いですよ!」

「そうですかね?あ、あとこの服に合う靴も買いたいんですが、どんなのが合いますかね?」

「そうですねぇ……少々お待ちくださいませ」


 俺がそう聞くと、店員は靴が売っているのコーナーに向かい二組の靴を手に戻ってきた。


「こちらは如何でしょうか?」

「どっちがいいですかね?」

「私のオススメはこちらですね」


 店員は右手に持っていた靴を俺に見せた。


「じゃあ、それください」

「ありがとうございます!ではこちらにどうぞ」


 俺はレジで会計を済ませて店を出ると、ショッピングモール内にあるゲームセンターが目に入った。なんとも不思議なもので、特に行こうと思っていなかったにもかかわらず、なぜかゲームセンターをみると遊んでいきたくなる。


「ゲーセンか…久しぶりに遊んでいくか」


 俺はそのまま引き込まれるかのようにゲームセンターへと向かった。

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