67.調理実習
「それでは皆さん。それぞれの班に別れて調理を開始してください」
先生の言葉で俺達はそれぞれの班に別れて調理実習を開始する。今回はそれぞれの班で何を作りたいかを事前に決めて自由に作る形となる。だが調理工程や料理の出来栄えなどを見て評価を付けられる為、気を抜く事はできない。
「事前に言っていた通り、復音君はサポートなどに回ってください」
「はい‥‥あ、先生俺は俺でサポートしながら単独で何か作ってもいいですか?他の人の邪魔はしないので」
「そうですね!ある意味復音君の料理と比べてみるのも、良い勉強になるかもしれませんね!」
先生の許可を貰い、皆の様子を見ながら俺も準備を始める。
(とは言ったものの、何を作ったもんか‥‥)
俺は用意されている材料を眺めつつ、何を作るかを考える。出来れば他の人と被りたくはない。
「お、良いのがあった!」
俺はそう呟いて、ひき肉のパックを手に取った。チラッとみんなの様子を見る限り、ひき肉は使っているものの俺が作ろうと考えたハンバーグは誰も作っていないようだ。
「卵と、パン粉と、玉ねぎと‥‥お、香辛料もそれなりに揃ってるなラッキー!ん?おいおい!こんなのも用意してくれてるのか!」
俺がハンバーグに使う具材を選んでいると、市販のデミグラスソースもあることに気づく。そのまま使ってもいいが、少しアレンジを加えるとレストランのデミグラスソースのような味にする事もできる。まさか用意されているとは思わず、俺は興奮してしまう。
「ふ〜んふふ〜ん♪人参とコーンもあるじゃ〜ん♪」
やばい楽しくなってきてしまった。こうなったら俺はもう止まれない。
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
「‥‥‥ん?」
俺は、不意に感じた周囲からの視線に周りを見回した。するとクラスメイト達が俺の方を見ていることに気づく。
「みんな‥‥どうかしたのか?」
俺がそう聞くと、幸樹が代表して口を開いた。
「いや‥‥お前がそんなに顔を緩めてるの珍しいなぁって‥‥」
「そ、そうか?」
「「「「うん」」」」
俺の言葉にクラスメイト達は全員頷き、鈴木さんがゆっくりと口を開く。
「復音君はいつもクールというか冷静というかあまり感情を表に出さないというか‥‥」
「なんか‥‥‥あまりテンション高いところ見ないよね‥‥たまに変な時はあるけど」
永瀬にもそんなことを言われてしまった。確かに俺は普段そこまで感情を人前では出さないかもしれない。だが春海の時はころころと表情が変わって面白いと前にゼルが言っていた。
「それに、ここ数日はお前が暗い感じがしてたから心配してたんだよ。でもまあ、今のお前を見る限り大丈夫そうだな!」
幸樹にそう言われ、俺は何とも気恥ずかしくなってきて「お、おう‥‥心配かけてごめんな」と返すのが精一杯だった。
「はい、それでは皆さんお待ちかねの試食タイムですよ〜」
「「「「おおおお!!!」」」」
先生の合図でクラスメイト達は一斉に声を上げる。そして各班がそれぞれ作った料理を先生の元へと運んできた。
「では、まずは永瀬さんの班が作ったオムライスから食べてみましょう!」
その先生の言葉で、俺達は一斉にオムライスを小皿にとって食べる。
「完全再現とまではいかなかったけど、思ったより上手くできた!」
響はそう言って自身の作ったオムライスを頬張った。そんな様子を見て、永瀬は笑いながら口を開く。
「やっぱりプロが作るのは違うよね〜話をしてたらマスターのオムライス食べたくなってきちゃったよ」
「僕も食べたい!春海に会いがてら一緒に食べに行こう!」
「うん!今度みんなで行ってみようか!」
永瀬と響がそんな会話をしていると、幸樹も何か思いついたかのように口を開いた。
「そうだな!そういえばこの前は秋司がいなかったからな!今度は春海ちゃんと秋司が揃って働いてるとこ見たいよな!」
まずい‥‥この流れはマズすぎる‥‥物理的に秋司と春海は同時に存在できない。どうにかしなければ‥‥‥
「言っておくが、春海はああ見えて忙しいからな。滅多に店には立てないし、春海が出る日は俺の貴重な休みだから基本出かけてて店にはいないぞ。ってか俺がいないから春海が代わりに出てるわけだしな」
「ちぇ〜まじか〜」
幸樹はそう言って口をとがらせる。悪いが、俺と春海は同時に存在できないので諦めてもらう他ない。それから各班の料理を順番に試食していき、最後に俺の料理の番になった。
「では、ある意味本命ともいえる復音君の料理をいただきましょう!」
その先生の言葉と共に周囲から「ゴクリ」という音が聞こえてきそうな熱い視線を浴びる。
「では、料理の説明をお願いしますね!」
「はい。俺が作ったのは見ての通りハンバーグです。デミグラスソースは既製品ですが、多少手を加えているのでそこまで気にならないと思います。あと人参のグラッセとコーンを添えています」
「「「「おおぉぉぉ‥‥‥」」」」
「復音君ありがとうございました!それでは食べてみましょう!」
先生が言い終わるやいなや、クラスメイト達はハンバーグを一斉に口に運んだ。すると全員固まったまま何も言わなくなった。
「「「「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」」」」
「何でみんな黙ってるんだ‥‥‥‥?まさか、不味かったのか!?いや、俺が味見したときはそれなりに‥‥‥」
俺はクラスメイト達の反応に困惑し、若干慌て始めていた。だが、そんな俺を他所に全員は一斉に口を開いた。
「「「「「「うまい!!!!」」」」」」
「‥‥‥‥‥え?」
突然の反応に、俺は変な声が出てしまった。俺がポカンとしていると、クラスメイト達は俺に詰め寄る勢いで口を開く。
「何だこれ!マジでうますぎる!一流レストランレベルじゃねぇの!?」
「これは凄いなんてレベルじゃない。今すぐ店を出すべき」
「中学時代からその腕は知っていたけど、さらにレベルが上がってるよね‥‥‥?」
「こりゃあ、女子たちは黙ってないだろうね‥‥芽実、これは危機感持たないとヤバイかもよ?」
「これはかなりの優良物件?今のうちに唾つけといたほうがいいかな?」
「おい!女子に渡すかよ!復音は俺が貰うぜ!」
「おいおい!いつからお前のものになったんだ?あぁん!?」
「復音‥‥‥お前よく見たら可愛い顔してるよな‥‥‥」
幸樹や響や永瀬に続いて口々に俺を褒めてくる面々に、俺は少し気恥ずかしさを感じ始める。ってか後半明らかにおかしいのも混ざってた気がするが、何も聞かなかったことする。
「流石は復音君ですね〜先生も話は聞いていましが、ここまでとは思いませんでした!これからも復音君はサポート役で頑張ってもらいましょう!」
どうやら俺は、今後も皆と調理実習は出来ないらしい。まあ、寂しい話ではあるものの先生の言いたいこともよく分かるため特に文句などはないが‥‥‥
「まあ、寂しいのは寂しいよなぁ‥‥まあ、いい気分転換にはなったからいいけど」
最近色々とあった為、いい気分転換にはなった気がする。だが、この楽しい雰囲気を軽く吹き飛ばすような大嵐が着実に迫っていた。




