66.悪夢
「いやぁぁぁ!!助けてぇぇぇ!!」
(なぜ‥‥‥!)
「急げぇぇ!!早く逃げろぉぉぉ!!巻き込まれるぞぉぉぉ!!」
(どうして‥‥‥!)
「あぁぁぁ!!!なんでぇぇぇ……どうしてぇぇぇ……」
(なんでこんな事に‥‥‥)
「さっきまでいた自衛隊は何処にいったんだぁぁぁ!?」
「さっさと撤退しちまったんだ!!俺達は国に見捨てられたんだよ!!」
(なんでこんな目に‥‥!)
「に……げて……」
「母さん!!!母さん!!!返事をしてよ母さん!!!」
どれほど声をかけようと既に息絶えている妹を抱えた母は、もはや動くことはなかった。
「なんで‥‥!なんで魔法少女が俺達を攻撃するんだぁぁぁぁぁ!!!」
俺は近くの建物の上に立ち、俺達を見下ろしている一人の魔法少女を睨み叫ぶ。しかし、悲鳴や怒号が響き渡る周囲に俺の叫びは儚く消えていった。
「許さない‥‥‥俺達を見捨てた国も‥‥家族を奪った魔法少女も‥‥‥原因を作った魔物も!!」
思考が憎しみに支配されそうになった時、頭の中に謎の声が響きわたった。
『汝、力を欲するか‥‥?』
「ハッ‥‥‥!?」
「やあ、ようやくお目覚めかい?何度声をかけても目を覚まさないから心配したよ」
「俺の‥‥部屋‥‥?」
俺が目を覚ますと、俺の顔をのぞき込んでいるゼルの顔がそこにあった。
「顔色が悪いけど大丈夫かい?」
「ああ‥‥‥何か‥‥悪い夢を見てたみたいだ‥‥‥」
俺がそう言うと、ゼルは少し険しい表情を浮かべたまま口を開く。
「察するに、4年前の夢かな?」
「ああ‥‥‥」
「そうか‥‥よく見るのかい?」
「いや‥‥‥ここ数年は見ていなかった‥‥なのになんで突然‥‥」
「まあいい‥‥取り敢えず、顔を洗っておいで」
「そうする‥‥」
俺はゼルからタオルを受け取り、洗面所に向かう。そして夢で見たあの光景を振り払うが如く一心不乱に顔を洗い、鏡を見てみるとなんとも酷い顔した俺が映っていた。
「なんで今になって夢に出てくんだよ‥‥」
俺が夢で見たあの光景は、俺が4年前に実際に経験した事である。4年前のワルプルギスの夜に、この港湾都市は魔物による大規模な侵攻が行われた。その際に俺と母と妹の家族三人は、自宅近くの当時避難場所として使われていた公共の体育館へと避難していた。その体育館は、非常時の際に建物の周囲を防護壁が展開する作りになっていた。しかし、上はガラ空きになっていた。というのも、その体育館がある場所はこの港湾都市の中でも内地の方であるため敵の航空戦力は内地に来るまでに迎撃される想定だったのだろう。だからこそ上よりも下からくる魔物の脅威を優先したと言える。だが、それが悲劇を生んだ。ある魔物を追いかけていた一人の魔法少女がその体育館の屋上に乗った魔物を攻撃してしまい、その攻撃で体育館は崩壊。中に避難していた市民たちの半数近くが亡くなった。俺の家族もその中に含まれる。そして絶望の縁にいた俺はゼルの誘いに乗って魔法少女になり、件の魔法少女を初めその周辺にいた魔物。そしてその魔法少女の援護に来た魔法少女や魔法少女を攻撃している俺を止めようとしてきた魔法少女。更には最前線にいる魔物の大群の全てを一人で蹴散らしたのだ。それから俺は『死神』と呼ばれるようになった。俺にとって、それは忌まわしき記憶なのだ。
(突然この夢を見たのは、何かの暗示なんだろうか‥‥‥‥?)
俺は妙な胸騒ぎを感じながら、朝食を食べに居間へと向かった。
「おはよう‥‥‥」
「「「おはよう!」」」
いつもどおりの朝。ただ一つ違うのは、俺の様子がおかしい事ぐらいだろうか。
「おいおい!秋司、おまえ酷い顔だぞ!」
「なんか寝れなくてな‥‥」
心配しそうに声をかけてきた幸樹に、俺はそう答える。そしてそのやり取りを見ていた他のクラスメイトたちも集まり始めた。
「復音君大丈夫?」
「嫌な夢でも見た?お祓いしよ?」
「あ、ああ‥‥なんとか大丈夫‥‥神成さん‥‥後でお祓いの予約を頼む‥‥」
「これは重症だね‥‥」
俺の反応に、神成さんは哀れみの表情を浮かべる。
「本当に大丈夫なの?」
永瀬は心配そうに俺の顔を見つめてくる。
「顔、近いぞ?」
「何か悩みがあるなら言って?ちゃんと聞くから」
「いや、まあ‥‥心配をかけてごめん‥‥?」
俺はなんとも言えない感じでそう言った。永瀬は「む〜」と言う感じの表情を浮かべていたが、すぐに担任がやって来て席に戻った。
「話は聞いたぞ!復音!悩みがあるならこの先生の胸に飛び込んでこい!」
「丁重にお断りさせていただきます」
「何でだよ!!」
担任とのいつものやり取りでクラスは笑いに包まれた。しかし、俺の心はまだ落ち着いてはいなかった。そして永瀬もまた俺の方を心配そうな表情で見つめていた。
(まあ、いつまでも気にしててもしょうがないわな‥‥今夜はアイツ等と話さないといけないしな‥‥)
そう、俺はいつまでもこんな事で悩んでいる場合ではない。今夜は例の四人と情報を共有する為に会うことになっている。まずは目の前の件を片付けるのが先なのだ。俺はそう自分に言い聞かせて授業を受けた。
「遅かったわね。先に三人には八咫烏との戦闘について話しておいたわ」
「そうなのね。それなら話が早くて助かるわ」
俺がいつものタワーに到着すると、既に四人は集合していた。どうやら俺が到着するまでの間に、フェアリーがある程度の説明をしていてくれたようだ。
「何とも厄介な能力にござるな‥‥これでは、正面からやり合ったとしても先に我等がガス欠になりまする」
「そう、だから私達は出来る限り奴の力を封じる必要があるわ」
「まさか‥‥今度は日本中の神社で祈祷するの?」
「いえ、流石にそれは無理よ‥‥だから違う方法を使うわ」
俺はそう言って一枚の木札を見せた。これはゼルがクレスから貰ってきたものだ。
「これは結界を貼る魔導書よ。これを使えば、一時的に神社と八咫烏のパスを断ち切れるらしいわ。これを全国の社に設置して同時に発動させる」
「して、効果時間は?」
「一時間弱」
「ふむ‥‥それで誰が起動を?」
「それについては私の方で考えておくわ。ザシエル辺りも何か案があるかもしれないし」
アサシンから連続で投げられる質問に、俺は淡々と答えを返していく。そして一瞬の静寂の後、再びアサシンが口を開いた。
「薔薇殿の協力者と言うのは烏殿であったか‥‥」
アサシンがそう言うと、リリーも納得がいったように頷いた。
「なるほど‥‥あのブナゼルと言う男の他にザシエルまでもが手を貸していたとは‥‥」
「まあ、そういう事よ」
まあ、あともう一人いるのだがわざわざ言う必要もないだろう。
「それじゃあ、決まり次第グールプにでも連絡してちょうだい。私の方でも神社を探してみるわ」
フェアリーはそう言って先にその場をあとにした。そして残る俺達もその場をあとにしようとした時、アサシンがから「そういえば‥‥」と言って俺を見た。
「薔薇殿、拙者の気のせいかもしれぬが‥‥歌い手殿の他にこの街にもう一人魔法少女が紛れているかもしれぬ。前には感じなかった魔力にござる」
「え、本当に?私は何も感じなかったけれど‥‥」
俺はそう言いながらタイタンやリリーにも目を向けるが、二人も静かに首を横に振る。
「知っての通り、拙者は魔力を察知するのが得意故に気づいたのかもしれぬ。つまり、そうでなければ気づけぬほど微弱と言う事なれば‥‥隠蔽か、それとも本当に微弱なのかは分からぬが‥‥気を付けられよ」
「魔力を放つという事は変身してるのよね?それなら一定以上の魔力があるはずよ?貴方が微かに感じる程度に微弱ってことはないんじゃない?」
「うむ‥‥そのはずなのでござるが、隠蔽にしてはあまりにも不安定すぎるような‥‥まるで器が壊れて漏れ出ているような感覚に近いのでござる‥‥」
「よく分からないけど、警戒はしておくわ」
そして俺達は解散した。だが、俺はとてつもなく嫌な予感を感じていた。




