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薔薇の死神  作者: 族猫
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63.導きの神

(さて‥‥どうしたものかしらね‥‥)


 俺は目の前の光景に思考を巡らせる。正直、この程度の数であれば俺一人でも問題ない。それはフェアリーも同じだ。だが、問題はそこではない。一番の問題は奴が一瞬にしてこの大群を呼び出した事だ。奴がこの大群をこれからも呼び続ければ、最初にガス欠を起こすのは間違いなく俺達だ。


「どうする?奴が一通り呼び出すの待ってから一気に叩く?」

「アナタ‥‥本気で言ってる?それまで大群の攻撃を避け続けろって馬鹿じゃないの?」

「とは言うけれど、魔力をある程度温存しておかないと私達が先にガス欠になるわ」

「でも、このままだと処理しきれないぐらいの魔物を呼ばれるわよ?処理しきれているうちにある程度減らしておかないと!」


 俺とフェアリーの二人は、襲い来る魔物の群れを蹴散らしながら今後のことを考える。


「ザシエルが来るまで耐えれば何とかなると思うわ!」

「その保険ってのに心当たりはあるんでしょうね?」

「まあ、私の予想通りなら『鳥』か『龍』か『虎』か『亀』のどれかでしょうね」

「あなた‥‥まさか『アレ』とも繋がってるの‥‥?」


 俺達がそんな会話をしていると、八咫烏の姿が消えた。そして無数の魔物の相手をしている俺達の真上に突如出現すると、その巨大な鉤爪を振り下ろした。少し離れていたフェアリーは無事だったが、魔物の相手をしていた俺は避けることが出来ず、何とか鎌で防ぐので精一杯だった。


「グッ‥‥‥!!!!」

「ローズ!!!」


 攻撃を防げはしたものの、相手は上で俺は下の体制の為かなり不利な状況だ。俺は八咫烏に押されるように物凄い速度で落下していく。流石に全体重を乗せた八咫烏の力では、フェアリーの魔法でも耐えられないらしい。


(このままだと海に落ちる!!!)


 いくら10000mを超える高さでも、この速度では直ぐに海に落ちることになるだろう。そうなれば俺はまともに戦うことができなくなる。それに、ここから陸まで何十キロも離れているため泳いで行こうにも途中で力尽きる。それにコイツが見逃してくれるわけもなく水棲の魔物を呼び出して一方的に殺されるだろう。そんな事を考えていると、突如落下が止まった。


「ちょっと!!無事!?」


 声のした方に目を向けると、何とフェアリーが脚の一本を受け止めていた。


「フェアリー!?」

「二人なら耐えられるわ!押し返すわよ!」

「え、ええ‥‥」


 フェアリーにそう言われ、俺は全身に力を込めて八咫烏の脚を弾き返し距離を取った。


「はぁ‥‥はぁ‥‥まさか、助けてくれるとは‥‥‥」

「はぁ‥‥あなたに死なれると、戦力的に困るから助けただけよ‥‥‥それに、借りも返せずに死なれて化けて出て来られたら困るもの」

「私をなんだと思ってるのよ‥‥‥」


 何はともあれ、奴の直接攻撃も二人で受ければ受けきれることが分かった。なら話は簡単だ。


「いい?奴が直接狙ってきたら、もう片方が援護に入る」

「そしてお互いの技を邪魔しないよう離れつつ直ぐに援護に入れるように離れすぎない」


 普通なら、こんな魔物の群れを相手にしてそんなことを気にしている余裕など無い。だが、俺とフェアリーならそれが出来る。なにせ、フェアリーは日本の魔法少女の司令塔。有事の際は魔法少女達を束ねて指揮を出す為、周囲の状況をよく見ていて判断が早い。そして俺は多くの戦場を単騎で駆け抜けてきた為、一人でほぼ全ての事をしなければならなかった。だからこそ、戦いながら敵味方の動きを把握するのは慣れている。


焼滅の薔薇(バーニング・ローズ)!!!』

嵐穿の飛槍(ストーム・ジャベリン)!!!』


 俺の炎とフェアリーの風の槍が大空に撒き散らされ、魔物たちを葬っていく。その光景は、第三者から見ればかなり美しく見えるだろう。だが魔物達からすれば、悪夢の光景だったに違いない。その証拠に、始め好戦的だった魔物達が俺達から距離を取って進んで襲おうとしてこなくなった。


「数はかなり減ったと思うけれど‥‥」

「ええ、でもまだ終わりそうにないわね」


 そう言ってフェアリーが八咫烏の方を指差すと、八咫烏はまたもや魔物を呼び出そうとしていた。


「チッ‥‥‥しつこいわねぇ‥‥また雑魚を‥‥ん‥‥?ねえ、フェアリー‥‥」

「ええ‥‥何かおかしいわね‥‥今までとは、様子が違うわ‥‥」


 俺達が様子のおかしい八咫烏の方を見ていると、突然全身の毛が逆立つような感覚に陥った。


「あれって‥‥ヤバいわよね‥‥?」

「相手も本気になったって事かしらね‥‥‥」


 今までの魔物と明らかに格が違う存在が、八咫烏のゲートを通って俺達の目の前に姿を表した。巨大な身体に巨大な翼、そして巨大な腕を持ったゲームなどでよく見る典型的な悪魔。それがなんと何体もいるのだ。


「この威圧感‥‥‥ワルプルギス並‥‥」

「嘘でしょ‥‥‥」


 ワルプルギスの夜は毎年4月30日から5月1日にかけての夜のことである。そしてこの夜は、この現世と魔界と呼ばれる世界が最も接近する日であるとされ毎年この夜に世界のどこかで巨大な扉が開き、魔物の大軍勢が押し寄せてくる。そしてその脅威に対抗するために国連主導による防衛作戦が行われ、それには世界中から魔法少女や軍隊が集められ総力戦となる。さらにその夜に現れる魔物は普段の魔物とは一線を画す強さを持っており、普通は一体の魔物を複数の魔法少女や軍隊が連携して撃破するのが基本だ。そんな複数の魔法少女や軍隊の支援ありで相手をすることになるはずの相手が今目の前に複数存在するうえに、八咫烏と言う大ボスやその他の下級の魔物もいるのだ。ハッキリ言って勝ち目はない。


「正直、ここにいる魔物を一掃するのは簡単だけど‥‥‥」

「そうね‥‥問題はその後にまた呼び出された場合、こちらが押し切られる」


 確かに強力な魔物だが、俺達二人の実力であれば今目の前にいる魔物を殲滅する事自体は容易だ。だが八咫烏を倒さない限り、このレベルが呼び出され続けるとなれば想像の半分程度しか持ちこたえられないだろう。


「とりあえず、戦うしかないでしょうね‥‥最悪、私を見捨てて逃げてくれてもいいわよ?あなた一人なら逃げ切れるでしょ?」

「舐めた事言ってんじゃないわよ!あなたにはこれからも働いてもらわないといけないんだから、さっさと死んで楽になろうなんて許さないわ!」


 何とも手厳しいことだ。まだ楽にはさせて貰えないらしい。


「ま、結局のところフェアリーの魔力が尽きればお互い終わりなのは間違いないわ。だから私が頑張んないと」

「心配しなくても、魔力調整くらいは出来るわよ」

「なら、結界張って一旦離れてて頂戴。そしていい感じのところで援護よろしく!さて、八咫烏と私達の根比べよ!」


 俺達が空にいる以上、フェアリーの魔力が切れればゲームオーバーだ。なのでフェアリーにはあまり魔力を消費させる訳にはいかない。だからこそ俺は魔力の消費なんて気にせず本気を出す必要がある。


『紅く気高き百花の女王。その身を糧にこの世の全てを焼き尽くせ!焔華の薔薇ローズ・オブ・ヴァーミリオン!!!!』


 その瞬間一帯を紅蓮の炎が支配し、周囲にいた魔物は消し飛んだ。


『『ギャァァァァァァァァァ!!!!』』


 強力な魔物も断末魔を上げて消滅していく。しかし、八咫烏だけは悠然とこちらを見つめまたも咆哮を上げる。


『キェェェェェェェェ!!!!』


 すると再び八咫烏の周囲にゲートが出現し、先程と同レベルの魔物が複数姿を表した。


(まあ、予想通り‥‥でも今回は強さを求めて雑魚は出さないか‥‥ただ強力な魔物は一度に出せる数が少ないみたいね‥‥‥それなら‥‥)


 俺は横目でフェアリーの方を見ると、既に技を発動させていた。流石はフェアリー状況をよく見ている。


『清く聖なる風よ。善なる者には安らぎを与え、悪しき者には裁きを与えよ!審判の暴風ディヴァイン・テンペスト!!!』


 聖なる暴風が断罪の刃となって、呼び出されたばかりでまだ動きが鈍い魔物たちを一掃した。


『キェェェェェェェェ!!!』


 しかし八咫烏はまたも魔物を呼び出し、俺達に襲いかかった。



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