61.空へ
「まったく‥‥お前って本当にツイてないよな」
月曜日、登校した俺は幸樹に半ば呆れられながらそう言われた。
「折角のライブだったのに残念だったね‥‥」
そして永瀬からは、哀れみの表情でそう言われる。
「ねえ、やっぱりお祓いしとこ?うちにおいで?」
前にも俺にお祓いを勧めた神成さんが、割と食い気味にそう言ってくる。
「そ、そうだな‥‥暇があったらお願いするわ‥‥」
「絶対にやっておいたほうがいいよ!いつでも待ってるからね!」
とりあえず、当たり障りない感じで断っておく。まあ、正直色々とありすぎてガチでお祓いしてもらったほうがいいかもとは思っているが‥‥
「そんなことより!復音!これを見てくれよ!」
今度はオタクが興奮気味にスマホの画面を見せてきた。そこにはかなり近くから撮影された恋歌の姿が写っていた。
「すごいだろ!前の方に陣取れたんだよ!」
「確かにすごいな‥‥‥前の方を取れたのも凄いが写真もよく撮れてる」
俺がその写真に感心していると、幸樹が不思議そうな顔をした。
「ん?ライブとかって撮影禁止じゃねぇの?」
「いや、写真のみ撮影可能なライブもある。恋歌のライブはまさにそれだな。歌と歌の間で恋歌とファンの掛け合いみたいなのがあるんだが、その時は撮影OKになってる」
「秋司‥‥お前詳しいな‥‥」
「公式サイトに書いてた」
「あ、なるほど‥‥」
過去に何度か恋歌のライブは見た事はあったが、大体遠目で見ていただけだった。その為、前にオタクに誘われて行った際に一応公式サイトなどで色々と調べていたのだ。
「そういえば、噂のお前のいとこに会ったぞ」
「春海もその話をしてたわ。Rainのグループにもみんなで撮った写真貼ってたしな」
「おう!楽しかったぜ!それにしても、改めてお前の顔をよく見ると割と似てるんだな春海ちゃんと」
「そりゃあいとこだから多少は似ててもおかしく無いだろ」
「いやまあ、そうなんだが‥‥‥お前、よくよくみると女っぽい顔してるよな?」
「は?」
その瞬間、クラス内の空気が凍った。そう、まるで時が止まったかのように静まり返る。そしてクラスメイト達の顔はみんな俺達の方を向いている。
「「「「「‥‥‥‥‥‥‥」」」」」
静まり返る中、俺はゆっくりと立ち上がって後ろに後ずさる。そして誰かのささやき声が聞こえ始める。
『顔がいいのに彼女がいないのってそういう事だったのか?』
『まじかよ‥‥それなら納得だわ‥‥』
『なるほどねぇ‥‥でも復音君を狙うか〜』
『捗る!』
「おいちょっと待て!俺にそんな趣味は無い!ただ一瞬女装させたら面白そうだなって思っただけだ!」
「俺自身は全く面白くないんだが!?」
俺がそう叫ぶと同時に後ろから俺の服を軽く引っ張られ、俺が振り向くと響が親指を立ててこっちを見ていた。
「似合うと思う!応援する!」
「あんたもそっち側かい!」
俺は今ものすごい表情をしているに違いない。
「おまたせ」
「私も今来たところよ」
学校が終わり、俺は大急ぎで自衛隊の基地へとやって来た。そう、輸送機が飛び立つ羽田空港ではなく自衛隊の基地だ。
「誰にも見つかってないわよね?」
「ええ、問題ないわ。ところで、なぜいきなり基地に?最初は輸送機に一緒に乗るはずだったでしょ?」
俺がそう聞くと、友里は大きく息を吐いた。
「はぁ‥‥‥いつもの思いつきよ。なんでも一機だけでは集中的に狙われるから、その狙いを逸らす為にもう一機必要という事になったの。最初は複数機で行くのは変な誤解を生むって話だったのだけど‥‥まあ、意見がコロコロ変わるのは、お偉い様の得意技ね。それで私達はその随伴機に乗る事になるのだけど、何も無ければその機体に乗ったままこの基地に帰投する。そして襲撃があれば予定通りよ」
「なるほどね‥‥‥それで、私はどうすれば?」
「あなたはこれに入ってもらうわ」
「え‥‥」
「ストーム・フェアリー殿、本日はよろしくお願い致します。私は、今回の作戦の指揮を任されている加山徹也と申します」
「はい、よろしくお願いします」
「それでは、今回の作戦の概要を改めてご説明させて頂きます」
加山はそう言って地図を広げた。
「輸送機が羽田を離陸すると同時に、当機もこの基地から離陸。その後輸送機と合流し、国境付近まで飛行します。そして輸送機が無事に国境を超えたことを確認した後に旋回し、この基地に帰投します。また、もしも戦闘となった際は当機が敵の注意を引いて大臣の乗る輸送機が離脱するまで時間を稼ぎます」
「分かりました。ですが、この機体に武装はありませんよね?」
「はい。国境ギリギリを飛ぶ以上武装は積めません。唯一了解を得られたのが魔法少女のみです」
「逆によく魔法少女は許されたものですね」
「あくまで私見ですが、こちらの魔法少女の実力を探りたいのかと。国境付近である以上、あちらも監視はしているでしょうから‥‥ところで、今回一緒に積まれたあの箱は一体‥‥」
「私の武器です。相手が相手なので、少し色々と準備してきたもので‥‥もし私が出撃することになった際は、あの箱も一緒に投下してください」
「了解しました。魔法少女の武器という事であれば、問題になることはないでしょう」
加山がそう答えた直後、コックピットから通信が入った。
『加山ニ尉、羽田空港より通信です。輸送機が間もなく離陸するとの事です。当機もこれより離陸体制に入ります』
『了解』
通信を終えた加山は、フェアリーの方を向いた。
「それでは、離陸に備えてシートベルトを装着してお待ちください。その姿の貴方には必要ないかもしれませんが念の為ですので」
「分かりました」
フェアリーは加山の指示に従い、シートベルトを締める。すると間もなくして飛行機が動き始めた。
あれからおよそ一時間ほど経った。私はすることも無く、一緒に積まれた鉄の箱を見つめていた。あの中にはローズが入っている。間違っても他の人にバレるわけには行かない。
「フェアリー殿、もう間もなくで日本の領空外となります。輸送機が領空を脱した事を確認後帰投します」
「このまま何事もなければよいのですが‥‥」
「ええ、最後まで油断はできません‥‥」
私と加山さんが会話をしていると、コクピットからの通信が入った。
『輸送機の日本領空脱出を確認。これより帰投します』
『了解、引き続き警戒を続けろ』
『了解、引き続き警戒を‥‥‥ん?レーダーに何か‥‥‥っ!?レーダーに未確認飛行機確認!高速でこちらに近づいています!』
『来たか!総員警戒体制!敵が来たぞ!』
その瞬間、機内は張り詰めるような緊張感に包まれた。
「出撃します!」
「お待ちください!敵はすでに目の前に来ています!今出られるのは危険です!一度距離を取ってから出撃したほうがよろしいかと!」
「分かりました!」
『高度を上げて少しでも引き離せ!』
『了解!』
機体がほぼ垂直に近い形で急上昇を始める。加山さんも必死で手すりなどに捕まっているのが見えた。私もいつでも出撃できるように覚悟を決めた。