5.共闘
「ふむ…これでも攻めきれんか」
リリーが自分の呼び出した兵士を使って攻撃を続けるが、敵はさらに手数を増やしリリーも先程から防戦一方となっている。
「多分私たちの動きを記憶してると思う。その証拠に最初は攻撃を与えられても、それ以降はこっちの動きにあわせて攻撃してきて完璧に防がれてる」
「ふむ……つまりこのままでは結局ジリ貧か……まて、と言うことは奴がまだ見たことのない動きをすれば、一撃与えられるのではないか?事実、我の攻撃も最初は当たっていた」
「何か策でもあるの?貴方も私も消耗してる中であれを倒せるだけの策が」
俺がそう吐き捨てるように言うと、リリーは俺の方を向き、真剣な表情で言った。
「そのまえに聞くが、魔力はどうだ?」
「多少なら回復できたわ。それより、あなたが思いついたっていう策を教えてちょうだい」
「うむ、だが策といっても簡単な話だ。我と貴公が協力するのだよ」
「は?『貴方達』と協力ですって?」
「違う、『我等』ではない『我』とだ。貴公が我等魔法少女に良い感情を持っていないのは、見ていればわかる。だがこの状況を打破するには今ここにいる我と貴公が協力せねばなるまい?それに、もうまもなくでフェアリー達もやって来る。貴公とて彼女等と鉢合わせるのは避けたいであろう?」
「………」
確かに彼女の言う事は間違っていない。だが、俺はまだこの『アビス・リリー』を信用するには彼女のことを知らなすぎた。
「そもそも貴公を攻撃するつもりなら、奴のレーザーを止めたりせず静観している」
「……分かったわ。今回だけは信用する」
「それで結構。では、あれを何とかする方法を考えるとしようか」
「なら、私が何とか近づくいてあの本体を斬るから援護をお願い。私ならあの本体を一撃で斬れる。ただ、知っての通り多少回復したとはいえ私の魔力はほとんどない。だからあいつの攻撃のほとんどをあなたに防いでもうことになるわ」
俺の言葉にリリーは得意げな表情で頷いた。
「誰に物を言っている。見ての通り火力はないが手数ならやつには負けん」
リリーはそう言って陰の兵を追加で呼び出し、それと同時に俺は駆けだした。
『親愛なる薔薇の呪縛!』
俺の呼び出した薔薇の蔓が地面から天空に向かって伸び始め、俺はその蔓を伝って魔物の本体へと近づいていく。当然魔物がそれを黙って見ている訳もなく、俺に向かって数多くの攻撃を仕掛けてきた。
「そうはさせん!」
リリーがそう叫びステッキで地面を突くと影の兵は次々と俺に迫る敵の攻撃を打ち落とす。そして俺はついに魔物の本体を目前にしたとき、突如本体から新たな腕のような物が出現し俺はその腕になぎ払われて屋上に墜落した。
「ク……ソ……これでも……駄目……なの」
あと数メートルだった。しかし届かなかった。自分が万全な状態なら、周囲の被害を考えずに戦えれば、あの程度の敵消し炭に出来きたはずだ。そんな言い訳ばかりが頭をよぎりそんな自分自身が情けなくなる。
「ローズ!無事か!?」
「ええ、何とかね……でもあと一撃が限界よ」
「我も正直厳しくなってきた。なにか相手の意表を突いて素早く近づくことが出来れば……」
リリーの言葉に、俺は思考を巡らせる。
(今の自分たちにそんな方法あるだろうか……フェアリーみたいに空を高速で移動できれば可能だろうけど……ん?)
俺は一瞬ある方法を思いついた。しかしはっきり言って現実的じゃない上、博打もいいところだ。だがもうこれしかないと判断した俺は、思いついた事を言ってみることにした。
「ねぇ、一つ案があるわ。貴方、パチンコって知ってる?」
「これか?」
そう言って右手で何かをひねるような仕草をするリリーに俺はゆっくりと首を振った。
「こっちの方よ」
俺はそう言いながら二本の指を立ててその間で何かを引くような仕草をしてみせる。するとリリーは納得したような声を上げた。
「あぁ……!それの事か」
「私が薔薇の蔓を出すから、貴方がさっきの鎧で引っ張るの。はっきり言って策としては下策もいいところよ」
「なに、成功させればいいだけのこと。成功すれば下策も自然と上策となろうよ」
そう言ったリリーは直ぐに盾持ちを召喚して俺達を隠す様に展開させ、先程俺を庇った黒い鎧を三体召喚する。
『親愛なる薔薇の呪縛!』
俺はすぐさま薔薇の蔓を呼び出し、二体の鎧の胴体に巻きつける。そして蔓の中央を残りの鎧が持つ形となった。
「よし、できた。『ローズ・カタパルト』と言ったところかしら」
「ふむ、魔法少女にしては随分と物理的な作戦だが、今の我等らしい泥臭い良い作戦だ。我は嫌いではないぞ」
「気に入ってもらえてなによりだわ。それじゃあ、頼むわね」
「うむ、任せておけ。貴公もしくじるなよ?」
「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ」
「フフフ……それもそうだな。貴公はたった一人で我等魔法少女相手に喧嘩をふっかけている、悪名高き『スカーレット・ローズ』だものな」
「悪名高いは余計よ。それに、好きで戦っている訳では無いし」
「ああ、分かっているさ。だから我は貴公を助けたのよ。まあいい、そろそろ始めようか」
リリーの言葉を合図に鎧が蔓を張り、弾である俺が用意を完了すると、リリーがカウントを取り始めた。
「カタパルト発射用意!5!」
その声とともに鎧はさらに限界まで蔓を引っ張ろうと力を入れる。俺はそれに合わせて鎌を持つ手に力を入れる。
「4!」
大きく息を吐き、焦る心をを落ち着かせる
「3!」
「2!」
「1!」
俺は鎌を握りしめ、空を睨む。そして体に力を込めて全魔法力を鎌に集中させる。
「放てぇぇぇぇ!!」
リリーの叫びと共に、俺達を隠していた盾持ち達は素早く左右に避け、鎧が手を放す。そして俺は限界まで張った蔓によって大空へと勢い良く放たれ、俺の身体は風を切り真っ直ぐに魔物に向かって飛んでいく。
「飛べぇぇぇぇぇぇ!!」
俺に気づいた敵は、俺に攻撃を向けるものの、リリーが魔法銃によって撃ち落としていく。そして……
「刈り取る!!」
俺が敵の本体とすれ違う瞬間、持っていた鎌に全魔法力を込めてその勢いのまま一刀両断した。
「やった!」
下からリリーの嬉しそうな声が聞こえ、崩れていく敵の残骸とともに俺も地上へと落下していく。そして完全に魔法力を失った俺は徐々に変身が解けていく。
(まずい!変身が!)
その瞬間、俺は何者かに抱きとめられた様な気がするが、そこで俺の意識は途切れた。