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薔薇の死神  作者: 族猫
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56.ライブ当日

「それで引き受けたわけか‥‥」


 夕食の後片付けをしていたゼルは、少し難しい表情を浮かべてそう言った。


「ああ、八咫烏を直接近くで見れる可能性もあるしフェアリーに恩を売れるのは大きいからな」

「確かにそうではあるが‥‥やはり心配だねぇ‥‥いくら魔法少女が頑丈で結界を貼る事で衝撃を抑えられるとはいえ、高高度から落ちればただでは済まない‥‥」

「フェアリーがいるから地面激突までは行かないと思うが、まあ‥‥残存魔力によっては海に落ちる可能性はあるな」


 俺がそう言うと、ゼルは大きくため息を吐いた。


「はぁ‥‥ザシエルいるんだろ?いざという時の為にこの子達に付いて行きたまえ。もしこの子を海にでも落としたときは焼き鳥にしてキャットフードと混ぜたあとネルビムの餌にするよ?」

「分かってるからその碌でもない想像を頭から消せ!!」


 いつの間にかいたザシエルはそう叫びながらテーブルの上に着地する。


「だが、万が一って事もあるから一応保険はかけておく。だから坊主は思いっきり戦え。まあ、遭遇しなければそれに越したことはないがな」

「ああ、いざという時は頼んだ」

「任せときな!それじゃあまたな!」


 ザシエルはそう言ってから窓から飛び立っていった。


「さて、詳しい日程はまだ分かっていないのかい?」

「いや、7月2日の16時50分に羽田から飛ぶらしい」

「三日後か‥‥何とも急な話だね。明日は例のライブがあるし、忙しい日々が続くものだ」


 ゼルの言う通り、何とも忙しい日々を過ごしている。今週の初めには龍神と戦い、そして週末である明日には恋歌のライブがある。そして月曜の夕方は空の上ときたものだ。だが、これも自分で選んだ事である為しかたがない。


「まあ、この件は置いといて‥‥明日の準備をしないとな。でも大丈夫か?ライブの出店ってなると普段の何倍ものお客を相手にするわけだろ?俺達だけで手は足りるのか?」

「ああ、それなら心配いらないよ。何でも明日は、ネルビムが手伝いに来てくれるらしくてねぇ‥‥一体何を企んでいるのか分からないが‥‥飲み物や簡単な料理を作るのを手伝ってさえくれれば、人手は問題ないからね。そこまで構える必要はないよ」

「お、おう‥‥分かった‥‥でも、流石に変装してくるよな?」

「ハハハ!そんなの当たり前じゃないか!いくらネルビムが豆粒程度の脳味噌を待っていたとしても流石に素を晒してくるほど愚かではないさ!」

「だよな!ハハハ!」


 当然と分かっているが、一応確認をしておいた。なんせこの国を代表するファッションブランド『AKINEL』の社長『復田音流』がなんの変装もせず出店の手伝いをしているなんて、大きな騒ぎになるに決まっている。


「取り敢えず明日は何事もない事を祈りつつ楽しもうじゃないか!」

「おう、それじゃあさっさと準備して寝るか!」


 ゼルがフラグ満載な事を言っているが、俺はそれをあえてスルーして準備を始めた。



「へぇ‥‥中々いい場所じゃない」

「ほんとだねぇ‥‥ステージの目の前ほど騒がしくなく、それでいながらステージもしっかりと見える‥‥アレも中々にいい場所を抑えたものだ‥‥」


 会場にやって来た俺とゼルは、自分の店のスペースを見て感心したように声を上げる。この場所はネルが自身のコネを使って抑えた場所なのだそうだ。ここなら騒がしくなり過ぎず、喫茶店の雰囲気も壊さずに済むだろう。


「これはかなり稼げそうな予感がするねぇ。さて、君も張り切って接客したまえ」

「え、ええ‥‥分かったわ‥‥それより、ネルはまだ来てないみたいね?」

「ああ、まだ姿を見せないねぇ‥‥店を手伝うとあれほど言っていたのだが‥‥やはり猫は気まぐれ‥‥いや、どうやら来たようだ‥‥」


 ゼルがそう言うのとほぼ同時に、こちらの方へと歩いてくる「そのままの姿」のネルが見えた。


「おまたせ〜さて、可愛い我が子の為に私も頑張って働くわよ!」

「「‥‥‥‥‥」」


 妙にやる気を出しているネルに、俺は唖然とする他なかった。隣ではゼルが額に手を添えて呆れたような表情を浮かべている。


「あれ?なんで二人ともそんなテンション低いの?ほらほら、折角のライブなんだから盛り上がっていきましょうよ!」

「あの‥‥ネル?一つ聞いてもいいかしら?」

「いいわよ!何でも聞いてちょうだい!」

「じゃあ聞くけれど、何故素顔を晒してるの?」

「え?何か問題でもあるの?」

「当たり前だ!君は今や時の人だろ!そんなのがここにいればどんな騒ぎになるかわかっているのか!!それに、軽率に『我が子』なんて言ったりすればこの子はマスコミに追われる日常を過ごすことになるんだぞ!」

「あ‥‥‥」


 ネルは口を手で覆い、しまったと言う表情を浮かべる。そして慌てて物陰に隠れて変装用の眼鏡や帽子をかぶって出てきた。


「こ、これで大丈夫かしら?」

「うん‥‥それにしても周囲にまだ人がいなくて助かったわね‥‥」

「全くだ‥‥馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで能無しとは‥‥同僚として恥ずかしい限りだね‥‥」


 俺とゼルは揃って大きな溜息を吐いた。そして三人で店の準備を進め、何とか開店準備を終わらせた。



 夕方になり、ライブを見に来た観客達で辺りが賑わい始めた頃、俺もネルお手製の魔改造メイド服を来て接客に勤しんでいた。正直、ものすごく恥ずかしい‥‥‥


「そういえば、春海の方でずっといるけど秋司は今日どういうふうにする?一応クラスメイト達がこの店に来る事になってるんだけど」

「ああ‥‥そう言えばそうだったね‥‥まあ、熱を出したとでも言っておこう。君には看板娘としてがっぽり稼いでもらわないといけないからね。ほら、そこのバイトももっとキビキビ働きたまえ」

「はいはい!分かってるわよ!ちぇっ‥‥私も春とおそろでメイド服来たかったのに‥‥‥」


 屋台の中で何やら文句を言いながら、飲み物や食べ物を用意しているネルを見て、俺はなんとも言えない表情を浮かべる。俺は秋司のスマホで今日来れないことをRainのクラスグループに送って店の中の鞄にしまった。


「あ、春海!」

「あら、響!いらっしゃい!」


 俺がスマホをしまって売り場に戻ると突如俺を呼ぶ声が聞こえて振り向く。すると響がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。


「早かったのね?」

「うん、遅くなればもっとお客が増えて歩くの大変になりそうだから早めに来た。でももうかなりの人がいる」

「みんな同じ考えなんでしょうね。おかげでまだ早いのにうちの店もかなりの売上が出てるから嬉しいんだけどね」

「おお!絶好調なのはいい事。あと、その服すごい可愛い!よく似合っている」

「そう?なんか照れるわね‥‥」

 

 その時、俺の中で悪魔が囁き始める。確か今回の衣装は多少デザインの違う物が何着かあったはずだ。


「ねえ、響‥‥良かったらあなたも着てみない?」


 そう‥‥俺は目の前の少女を巻き込む事で仲間を増やし、少しでもこの羞恥心を誤魔化そうと考えた。


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