54.魔導書
「よくも邪魔をしてくれた‥‥‥」
クラスのみんなが折角開いてくれた歓迎会を邪魔した目の前の存在を睨みながら僕は呟く。
『カカカカカカ!!』
その存在は数十メートルはあるであろう巨大な骸骨で、昔話などに出てくる妖怪『餓者髑髏』によく似ていた。
「さっさと終わらせたいけど、今の状況じゃ本気を出せない‥‥」
この大きさの敵には並の攻撃は効かない可能性がある為、出来れば僕も巨大化したいところだ。だが今ここで巨大化すれば、避難中の人々を巻き込むことになる。それに相手は骸骨である以上、自分の攻撃で砕けた骨が市民を襲う危険もある。
『カカカカカカ!!!』
『黒鉄の壁』
餓者髑髏の巨大な腕の攻撃を鉄の壁で防ぐ。いまだに下には多くの市民がいる以上、こちらからは無闇に攻められない。下手に動けば多くの犠牲者を出す事になる。何かを守りながら戦う事がこれほどキツイものとは思わなかった。
(ローズはいつもこんな戦いをしているのか‥‥やっぱりローズは凄い)
僕はそんな事を考えながら、餓者髑髏の攻撃をひたすら防ぎ続けた。
「何とか上手く抜け出してきたが、流石に今変身するわけにはいけないからな。今回はコイツの出番だ」
何とか人混みにまぎれてクラスの連中から抜け出してきた俺は、建物の物陰に隠れながら一冊のノートを取り出した。これが俺の魔導書である。変身せずに魔導書を使うだけならば、魔力の放出も一瞬なので探知される可能性も低いだろう。
『火炎障壁!!』
俺は魔法を唱えるとノートのページを一枚破り捨てる。するとそのページは燃えてなくなり、魔法が発動する。
(俺が守りに受け持てば、タイタンは攻めに出れる。変身していない状態ではかなりの制限があるため長くは保たせられないが、タイタンなら問題はないはずだ)
「これは‥‥ローズの魔法?」
眼下に広がる炎の壁を見て、僕は咄嗟に辺りを見渡す。だが、ローズの気配はどこにも無かった。恐らく変身せずに魔導書を使ったのだろう。
「流石は春海。欲しい時に欲しい物をくれる。これなら本気を出せる!」
『我、無双の身体をもって万物を滅する武神とならん。鋼鉄の騎士!』
「流石はタイタンだ。こっちの意図にすぐ気付いてくれたな」
すぐに行動に移したタイタンに安堵した俺は、タイタンによって鉄が失われた建物等が市民を襲わないように支えるためにもう一度魔法を唱えた。
『親愛なる薔薇の呪縛!!』
『オオ‥‥ローズガ街ヲ守ッテクレテイル以上、僕ハ目ノ前ノ敵ニ集中シヨウ』
『冷酷な鎖!!』
地面から伸びる鎖が餓者髑髏を拘束する。しかし、それでも鎖を引き千切らんと抵抗を見せた。だが、すかさずタイタンがその圧倒的なパワーで餓者髑髏を押さえつけてその頭を渾身の力で叩き潰した。すると頭を失った餓者髑髏の身体は、その動きを止めて光となって消え失せた。
「タイタンが攻めに出てしまえば、余程の事が無ければ速攻で終わるわな。それにしても‥‥今回の敵ってどう見ても餓者髑髏だよな?この間の鵺といい、どうなってるんだ?まあ、詳しくは後でゼルと話すとして‥‥さっさとみんなのとこに戻らないとな」
タイタンが敵を倒したのを見た俺は辺りを見渡して目撃者がいない事を確認した後、その場から離れてみんなのいるシェルターへと急いだ。
「秋司‥‥またかよ‥‥」
「いやぁ‥‥まさかあそこでコケるとはなぁ‥‥ハハ‥‥」
そんな幸樹の呆れたような声に、俺は笑って誤魔化す。そんな俺の態度に「はぁ‥‥」とため息を吐いてから、今度は響の方を向く。
「あと鋼沢さんもな‥‥」
「あんな人混みに揉まれたのは初めて‥‥気付いたら周りにみんないなかった‥‥」
「まあ、慣れてないと大変だよね〜まあ‥‥慣れてないほうが良いんだけどね‥‥」
永瀬の言葉でその場の空気は一瞬落ち込んだ雰囲気になってしまった。そこで幸樹がすぐにその場の空気を変えにかかる。
「鋼沢さんは仕方ないにしろ、秋司、お前は毎回はぐれるのどうなってんだ!!」
「そうだよ復音君!毎回みんな心配してるんだよ!!」
「そうだよ!」
「そうだぞ復音!」
「い、いやまあ‥‥俺って方向音痴なの知ってるだろ?な?」
クラスの仲間達に詰め寄られた俺は、必死に弁解をする。まあ、俺自身かなり適当に言ったため無理があると思うが‥‥‥
「あぁ‥‥たしかに‥‥」
「ハァ!?」
え、幸樹!?
「確かに‥‥中学校の時によく一緒に遊びに行ったけど、よく目的地と反対方向に行こうとしてたね‥‥」
「what!?」
永瀬さん!?
「そういえば、一緒にオンラインゲームやった時も変な方向に‥‥」
お前もかオタク‥‥自分で言ったことではあるが、こうも納得されてしまうと割と傷つくものだ‥‥‥一応それらには理由がちゃんとある。まず幸樹と永瀬に関しては、丁度魔物が出そうな気配を感じたから別の道を選んで歩いてただけだ。そしてオタクに関しては‥‥スマン‥‥ただ寝落ちして変な操作をしただけだ‥‥
「なんなら今度は私が手を繋いでおいてあげようか?」
「いや‥‥永瀬の気持ちはありがたいが、それだけはやめてくれ‥‥」
そんな事されてみろ!俺は羞恥心で死ぬ!
「まあ、歓迎会はまた改めてやろうぜ!とりあえず全員無事だったのを祝おうや!」
「「「おおぉぉぉ!!」」」
幸樹の言葉にクラスメイト達は一斉に声を上げる。相変わらず団結力のあるメンバーである。
「んじゃあ、これからどうする?このまま解散ってのも味気ないよな?」
「うん、じゃあ最近できたクレープ屋さんに‥‥あっ‥‥ごめん、ちょっと待ってね」
永瀬は話している途中で自身のスマホが鳴った為、少し離れて電話に出た。そして少し話したあとに戻ってくる。
「ごめんごめん!じゃあ、みんなで最近出来たクレープ屋さんに突撃しようか!」
そう言って先導する永瀬に近づいて、俺は声をかける。
「電話大丈夫だったのか?」
「うん、別に両親からとかじゃないの。他県に住んでる従姉妹がいるんだけど、この街に帰ってくるんだって」
「そうか‥‥でも最近この街は物騒だから少し心配だな」
「うん。だから従姉妹の両親は止めたらしいんだけど、何か意地でも帰ってくるって聞かないんだって」
「やっぱ多少危険でも家族の元に居たいんだろうな‥‥」
「そうだね!」
そう言って微笑む永瀬に、俺も笑みを返した。