52.見慣れた編入生
俺は今‥‥ものすごい表情をしているに違いない‥‥
「それじゃあ自己紹介をしてくれ」
担任にそう促され、見知った顔の小柄な少女は口を開く。
「鋼沢響。よろしく」
響がそう挨拶をして頭を下げると、クラスメイト達のヒソヒソ声がうっすらと聞こえてきた。
『おい、美少女だぞ!それもとびっきりの!』
『すごく可愛いよね!』
『でも、なんだってこんな妙な時期に編入を?』
『どうでもいいけどこのクラス、編入生含めて女子の顔面偏差値高すぎだろ‥‥それに比べて俺達男と来たら‥‥』
『おい‥‥それ以上言うな‥‥虚しくなるだろうが‥‥』
『いや、あんた達‥‥流石に卑下しすぎでしょ‥‥』
相変わらずのクラスメイト達の様子に俺は多少呆れつつも、俺は直ぐにゼルに連絡をする。
『ゼル!面倒なことになったぞ!』
『おや?変身時以外で君が念話を使うなんて珍しいじゃないか』
『んなことどうでもいいんだよ!それよりも、うちのクラスに響が編入してきたんだが!?』
『ほう‥‥政府もついに本腰を入れ始めたか‥‥』
『それってまさか‥‥』
『ああ、本格的にスカーレット・ローズの正体を暴こうとしているようだね。まあ、響君も春海の事しか知らないからあれだけど、もし何かヘマをして君自身の事がバレれば大変なとこになる。彼女には細心の注意を払う事だね』
(分かっちゃいるが、注意も何もどうすりゃあいいんだ?)
俺はゼルとの念話を終わらせてどうしたものかと考えていると、響の視線が若干だが俺の方を見ているように感じる。
(気のせいか?こっちを見ていたような‥‥‥)
「それじゃあ、窓際の一番後ろに席を用意したからそこに座ってくれ」
「はい」
担任にそう促されて響は自分の席に向かう。その際に当然ながら俺の席の横を通過するわけで、その通り過ぎる瞬間も明らかに俺を見ているように感じた。
「ねえ、鋼沢さん!どこかから引っ越してきたの?それとも元々この街に?」
「何でこの時期に編入を?」
朝のホームルームが終わり、授業が始まるまでの僅かな時間に生徒達は響の周りに集まって質問攻めにする。転校生や編入生が来ればどの学校でも見られる光景だ。そんな事態に響本人はかなり困惑しているようで先程から困った表情を浮かべていた。
「えっと僕は‥‥」
「ほらほらみんな!そんなに詰め寄っちゃ鋼沢さんが困っちゃうよ!」
その様子を見ていた我らが委員長がすかさず口を挟んだ。
「ごめんね鋼沢さん。転校や編入してくる生徒なんて滅多にいないからみんな気になっちゃうの。私はこのクラスの委員長をしてる永瀬芽実。よろしくね!」
「よろしく。こういう事には慣れていなかったから助かったありがとう」
永瀬の助けにより質問地獄から開放された響は礼を言い、クラメイト達もそれぞれ響に謝罪をして各々の席へと戻っていく。俺はその様子を横目で見て少しほっとしていたが、その直後に響は永瀬にある質問をした。
「あの、少し聞いてもいい?」
「いいよ〜」
「この学校に、復音っていう名字の人っている?」
「え‥‥復音って‥‥‥」
俺の背中に、永瀬の視線が刺さっている気がする‥‥いや、永瀬だけではない。クラメイト全員の視線が俺に向いている気がする‥‥
「この学校に復音ってお前しかいなくね?」
後ろから幸樹の声が聞こえる気がする‥‥
「いや、そもそも復音なんて珍しい名前は港湾都市中を探しても復音君の家以外にいる‥‥‥かな?」
斜め前の席に座る鈴木さんがそう呟くと、周りの生徒達も「確かに」といって一様に頷いた。
「おお‥‥ようやく思い出した‥‥!あなたは確かあの喫茶店の店員」
「おう、その節はどうも」
(あれ?こいつが俺の事をずっと見てたのは怪しんでたって訳じゃなく、「あれ?この人なんか見た事あるような?」的な感じで見ていただけか?)
もしそうなら、変に警戒していた俺は無駄に気張っていたという事になる。
「それで、何か俺に用があったのか?」
誰を探しているかなど分かりきっているのだが、俺はそう尋ねる。しかし、当然ながら響は首を横に振った。
「いや、僕が探していたのは女子」
「え?復音という名字で女の子って‥‥もしかして春海ちゃんの事?」
「春海を知ってるの!?」
永瀬の言葉に食い気味に反応した響に、永瀬は少し押され気味に口を開いた。
「う、うん‥‥友達なの‥‥でもまだ知り合って間もないから知らない事が多いんだけどね。もし、春海ちゃんについて聞きたいなら復音君に聞くといいよ。復音君は春海ちゃんと親戚で、今は復音君の家で暮らしてるんだよね?」
「まあな」
「おぉ‥‥なるほど」
永瀬の説明で、響は俺の方に興味深げな目を向けてきた。正直響とは出来るだけ関わらないつもりでいたのだが、こうなってしまった以上どうしようもない。
(さて‥‥どうしたもんかな‥‥)
興味深げに俺を見つめている響の姿を見て、俺はこれからの日常生活に不安を感じるのだった。
「春海ともどもよろしくな」
「うん、よろしく。またお店によらせてもらう」
「おう、いつでも来てくれ」
目の前の少年はそう言って自分の席に戻った。
(何だろう、初めて見たときから感じているこの変な感覚は?)
僕は政府の命令でこの高校へと編入生としてやって来た。初めは春海と一緒になれるかもしれないと思っていたがそれは叶わないらしい。というのも、先程の少年「復音秋司」の話によると、春海は家庭の事情などで学校には通っておらず通信教育を受けているのだそうだ。そのため楽しみの一つは無くなってしまったが、僕が新たに興味を惹かれる人物が現れた。それこそ春海の親戚だというこの復音秋司という少年だ。この少年は先日の空港での一件の際、明らかに僕を見ていた。並の人間や魔法少女は絶対に見つけられない気配を消した僕をだ。だがそれだけでは無い。この少年からはなんとも言えない妙な気配を感じる。
(あなたは何者なの?)
僕は席に座る件の少年を暫くの間見つめていた。