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薔薇の死神  作者: 族猫
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4.陰の軍隊

 あの後俺はオタクに魔法少女のあれこれを聞かされ、例のノートの写真を撮らせてもらった。そしてチャイムがなり担任が教室へとやって来た事でその場に集まっていた生徒達はそれぞれの席へと戻っていき授業が始まった。


「……で、あるからして……ここの問題はこの公式を……」


「この小説では、このようにかかれているので……よってこの作者は……ということを言いたいわけです」


 今日も変わらず、一日が過ぎていく。昨日の一件が何もなかったかのように。というよりも今を生きる人々がこの現状に慣れているのだろう。かくいう俺自身もその一人であることに変わりはない。実際昨日や一昨日の一件で何人が犠牲になっているかなど知る由もないし、政府からの発表で犠牲は無かったと言われれば、「ああ、そうなのか。魔法少女がいれば安心だな」と殆どの人間は危機感を感じることは無い。そして、それは魔法少女自身にも言えるだろう。魔法少女達も自分達の戦闘が原因で犠牲が出ているなどと微塵も感じていないはずだ。なぜなら政府がそう言っているのだから。そんな現実を知っているからこそ、俺はこの何でもない日常を愛おしく感じるとともに、何とも言えない違和感を感じるのだった。


「おい、復音!ちゃんと聞いているのか!」

「あ、すみません」


 俺は気づかないうちに窓の外を見ていたらしく、教師にお叱りを受けた。そして教師がまた授業の話を始め、俺も教科書へと目を向ける際にチラリと窓の外へと目を向けた。すると突如窓の外から周りが見えなくなるほどの光が差し込み、俺が今いる教室だけではなく学校中が静寂に包まれた。あまりにも突然過ぎると、訳が分からず何も言えなくなるというのは本当なのだろう。


「な、何が起きたんだ……?」


 生徒の一人がそう呟く。そして徐々に視力が回復し、うっすらと俺達と目に移り始めたのは今まで見たことがないような奇怪な形をした『何か』だった。


「ぜ、全員……全員地下シェルターに急げぇぇぇぇぇぇ!!」


 教師のその叫びと共に教室内にいた生徒達は一斉に教室を飛び出した。窓の外にいるのが何なのかは分からない。しかし、どう考えても友好的ではない事は分かる。生徒達が半狂乱でシェルターを目指す理由としてはそれだけで十分だった。


(まさか、こんな近くに来るまで気づかないなんて……!とりあえず、この混乱を利用して人気のない場所に行かないとな)


 俺は人の波に飲まれながら、人のいないであろう校舎の端の方へと走った。途中クラスの皆の俺を呼ぶ声が聞こえたが、俺は心の中で謝りながら聞こえないふりをした。


「何よこれ……」


 変身した俺は校舎の屋上からその『何か』を見ていた。校舎の高さは屋上を合わせて四階であるが、その屋上に立ってもなおその『何か』を見上げる形となった。


『聞こえるかい?』


 俺が呆然としていると、頭にゼルの声が聞こえてくる。


『ええ、聞こえるわ。いきなりで悪いけど、あれは何?』

『あれは、魔物の一種で間違いない。系統としてはゴーレム種に属する……と思う』

『なんでそんな曖昧なのよ!』

『すまない、私でもあれは見たことがない。私が知っているゴーレム種とも似ても似つかないからね』


 魔物にはそれぞれ種類に分けられている。さきほど言っていたゴーレム種は鉱物の体を持っていて兎に角身体が大きい事が特徴で、その殆どはガッチリとした体格をしている。しかし、今目の前にいる『何か』は確かに鉄のような物で覆われているものの、四本の細長い脚に小さな球体の身体と今まで見てきたゴーレム種とはかけ離れた姿をしていた。


『気をつけたまえ。何をしてくるかわからないからね。それに、まだ生徒の大半は避難できていない』

『了解、とりあえず校舎を守りつつ敵の出方を見る事にする』


 そう言って俺は、未だ沈黙を保つ目の前の『何か』の攻撃に備える事にした。


俺は鎌を構えて目の前の敵の攻撃に備えているものの、その敵は依然として沈黙を保っていた。


『ねぇ、なぜ動かないのかしら……』

『分からない……だが、何だか妙な胸騒ぎを感じ……っ!?来るぞ!!』

火炎障壁(フレイム・ウォール)!!』


 ゼルがそう叫ぶと同時に、俺は敵の胴体と思われる部分の中央にとてつもない魔力を感じ、瞬時に炎の壁を展開した。しかし、敵から発射された巨大なレーザーのような物のあまりの威力に、俺は後方へと吹き飛ばされそのまま下のグラウンドに激突した。


「ハァ……ハァ……」

『なんて威力だ……無事かい?』

「なん……とか……でも、流石に何発も耐えるのは無理……それに……」


 俺は先程まで自分が立っていた屋上を睨む。するとそこはまるでくり抜いたかのように抉れ、崩れ始めていた。


『こんな物が周囲に撒かれれば、街は消え去るだろうね』

『それだけじゃない……まだ避難が終わってない中、校舎をこれ以上崩されれば犠牲者が出るわ。だから下手に攻めに出れない……どうにかしてあの攻撃を防げればいいんだけど』 


 俺達が奴の攻撃をどうにか防ぎつつ奴を倒す方法を考えては見るものの、相手がそれを待ってくれるはずもなく、再びとてもない魔力の反応を感知し、俺は攻撃を防ぐ為に屋上へと飛んだ。


「ハァ…ハァ……グッ……!」


 一体何発の攻撃を耐えただろうか……。奴はレーザーを撃つたびに、次の発射までの時間が短くなっている。それどころか俺を避けて別の場所にも攻撃してくる。そのため俺はそれを防ぐために自分から離れた場所にバリアを張ったり、連続で広範囲で攻撃した際は学校全体を結界で覆うなんてことをしていたため殆ど息をつく暇は無くなっていた。そして、遂に俺の体力に限界が来てしまったようで、もはや炎すら出すことが出来ない。


『ローズ!聞こえるか!ローズ!生徒の避難は完了したようだ!それに、自衛隊も出動したらしいから、もう間もなくで彼女達もやってくるだろう!だから君は早くその場から逃げるんだ!』

「に……逃げろですって……?ゼルも見たでしょ……?あの……威力なら、近くのシェルターな……んて…紙同然……わ……たしが……守らない……と……ここで……逃げ…たら……あいつら……と同じに…なる……」

『そんなこと言っている場合か!もはや炎も出せないじゃないか!!変身が解ける前に逃げるんだ!!』


 俺は残された僅かな力を振り絞り、鎌を片手に立ちあがった。しかし、敵のレーザーはすぐ目の前に迫っており、もはや避けることもできないため俺はゆっくりと目を閉じた。


「弱き者の為、己が身を盾に良くぞ耐え抜いたものよな。我は貴公が気に入ったぞ。赤き薔薇よ」


 突如として聞こえたその声に、俺はゆっくりと目を開く。すると目の前に、敵のレーザーを受け止めている真っ黒な鎧が立っていた。そしてその鎧は敵のレーザーを真正面から受け止めると、レーザーが消えるのと同時に消滅する。暫くその光景に呆然としていると、後ろから声をかけられた。


「何を呆けておるのだ?」

「え……と貴方は……アビス・リリー?」


 俺がそう尋ねると、軍服の様な衣装を纏い美しい銀色の髪を持つ魔法少女、『アビス・リリー』は少し驚いたような表情を浮かべた。


「ほう?我の名を知っていたか……流石はスカーレット・ローズと言うべきか。まあいい……詳しい話は後だ。取り敢えずあのデカブツを片付けるとしようではないか」

『我が忠実なる精鋭よ。戦場を求めしつわものよ。本能のままに突き進み、この場を支配せよ!』


 リリーが手に持っていたステッキで地面をつくと、辺りの影からわらわらと人のようなものが出現する。そしてその人型の影は次第に軍人の様な姿になり、手に銃のような物を持つ者や大きな盾を持つ者がいた。


「さあ、開幕だ!」


 リリーはそう叫ぶと再びステッキをつく。そしてそれに合わせて軍人達は隊列を組み、魔法銃による攻撃を始め、盾を持つ者は校舎や俺達の周りに並び盾を構えて結界を張った。


(凄い……)


 影から現れた軍人達の一糸乱れぬ動きはまさに軍隊そのものであり、意思のない陰の軍隊を操る姿はまさに『孤独の指揮官』と言えるだろう。

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