48.帰還後の問題
「今回も生きて帰ってこれた‥‥」
自室に戻った俺は、戦闘中もずっと身に着けていた鈴を鍵のかかった机の引き出しにいれる。そして一枚の写真を引き出しから取り出して、それを眺める。
「母さん‥‥夏芽‥‥」
写真に写っている人物は俺の母親と妹だ。4年前の4月30日の夜、通称『ワルプルギスの夜』の大侵攻に巻き込まれて二人共命を落とした。そしてそれをキッカケに俺は魔法少女になったのだ。そしてこの鈴は母親が組紐を手作りして俺達兄妹に御守りとしてくれた物で、俺の鈴はあるが妹の鈴はどんなに探しても見つからなかった。
「秋司〜夕飯が出来たよ〜」
部屋の外からゼルに声をかけられ、俺は引き出しに写真を戻して鍵を閉めた。
「そういえば、今日一日学校休んだ理由ってどんな理由にしたんだ?明日話し合わせないと」
夕食を食べている最中に、俺は気になっていた事をゼルに聞いてみた。と言うのも、俺達は土日にかけて今回の作戦を成功させて月曜日に帰ってきた。つまり俺は今日学校を一日休んだ事になる。
「ああ、それなら君が階段から落ちて怪我をしたことになっているよ」
「割とやばい理由だな‥‥包帯でも巻いて行ったほうがいいのか?」
「まあ、大丈夫じゃないかな?気を失っているけど傷は大したことが無さそうとは言ってあるから」
「そ、そうか‥‥?」
俺は妙な不安感を感じながら夕食を食べ進める。そして食べながらテレビを付けた。
『今回の件の政府からの発表は何もありませんでしたが、SNSを中心に話題が広がっていますね』
番組のコメンテーターがそう言うと、テレビに巨大な戦艦であるタイタニスが多くの船に引っ張られて秋田港に入港している映像が映し出された。
『今ご覧頂いている映像は昨日撮影されたものになります。撮影したのは現地の住む方で‥‥』
俺はそこでテレビを消した。
「あんな映像が流れて、響は大丈夫なんだろうか‥‥」
「どうだろうねぇ‥‥だが、悪いようにはならないはずだよ?響ちゃんはこの国最強の魔法少女だ。そう簡単にどうこうはできないさ。それに、変につついて噛まれる様なことがあればそれこそ大変だからね」
「まあ、確かにそうか‥‥一応、後で連絡してみるわ」
俺は夕食をかきこんで部屋へと戻った。
『こっちは問題ない。政府なら今回の事を上手く利用すると思う』
「まあ、確かに上手く宣伝に利用したほうがお得よね〜」
部屋に戻ってから響に早速連絡を取ってみた。すると、予想通り響は何のお咎めも無いようで俺はホッとした。
『そんな事より、春海の方が危険。恋歌がスカーレット・ローズを探し回ってる』
「やっぱり放っておいてはくれないわよね‥‥」
『当然。だから暫くは変身を控えたほうがいいかも』
「分かったわ。教えてくれてありがとう」
『それじゃあ、何かあったら僕に連絡して』
「ええ、ありがとう」
そう言って俺は通話を切った。そして他のRainの通知がないのを確認して俺はベッドに横になった。
「お、秋司!階段から落ちたって?お前大丈夫か?」
「心配かけて悪かった。でもまあ、当たりどころが良かったみたいで大したことないってよ」
俺は頭を擦りながら幸樹にそう答えた。すると、他のクラスメイト連中も俺のそばに集まってきた。
「復音君、最近運悪すぎない?」
「ガチでお祓いしてもらったほういいんじゃねぇの?」
「何ならうちでお祓いしてあげようか?お友達って事でただでやるよ?」
クラスメイト達が様々な心配の言葉をかけてくれるのは、本当にありがたい事だ。
「お〜い皆席につけ〜」
教室の入り口から聞こえた声に、俺の周りにいたクラスメイト達が慌ててそれぞれの席に戻っていく。そして、全員が席についたのを確認した担任の丹波先生が話を続ける。
「突然で悪いが、この後9時から全校集会がある。だからそれに合わせて、体育館に集合してくれ。んじゃあ朝のホームルームを終わる」
先生が言い終わると、日直の合図で礼をしてホームルームが終了した。
「随分と突然だな〜」
先生が出ていったあと、幸樹がそんな事を呟いた。
「確かに、こんな突然やるなんて珍しいな。普通は一日前に連絡とかあるはずだし‥‥まあ、俺達も急ごうぜ?」
俺がそう声をかけると、幸樹は「そうだな」と一言答えて一緒に教室を出た。
「皆さんおはようございます。今日は突然体育館に集まってもらいました。全校生徒の皆さんはさぞや驚いている事でしょう」
壇上に立って校長がそう口を開く。
「我が校は、先日魔物の襲撃を受けました。幸いにも生徒達の中で犠牲者は一人も出ませんでしたが、あの恐ろしい体験は皆さんの心の中には大きな傷となっていることでしょう。しかしそれは、皆さんだけではありません。周辺に住む多くの人々にも大きな衝撃を与えました」
校長が話している途中、生徒たちの中には暗い表情や自身の体を抱きしめて座り込む人々が出始める。まあ、当然だろう。戦闘を間近で見せられたんだからトラウマになってもおかしくは無い。
「そこで、日本政府はそんな皆さんの心を癒やす為にこの国を代表するアイドルである逢田恋歌さんの応援ライブを我が校のグラウンドで開催されることになりました!!そして、我が校の生徒及び教職員は無料で招待して頂けるそうです!!」
「「「「エエエェェェェェ!?」」」」
いま校長は何と言った?逢田恋歌がこの学校に来るって言ったのか?って事はアイツがこの街に来るって事だよな!?
(面倒くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
俺は心の中で叫ぶ。そんな俺の肩に、愉快そうな幸樹と心底嬉しそうなオタクが手を置いた。
「なあ、秋司。凄い事になったな!これ、マジでラッキーじゃね?」
「なあ、復音!こんな短い間に逢田恋歌の生ライブを二回も見れるなんて奇跡だよ!」
「ああ‥‥‥そうだな‥‥最高だな‥‥」
俺はこれから起きるであろう問題にただ頭を抱える事しかできない。
「いや〜びっくりだね〜」
その日の昼休みに永瀬が俺達の元へとやって来てそういった。
「まさかあの逢田恋歌のライブを無料で見られるなんてね〜」
「そうだよな〜俺、実は生のライブ初めてだわ。お前達はこの間見に行ったんだよな?」
「うん!凄かったよ〜!ね?復音君!復音君‥‥?」
「ん?あ、ああ‥‥そうだな‥‥確かに凄かったな‥‥」
「どうした秋司?具合でも悪いのか?」
「いや、少し考え事してただけだ。大丈夫」
「そう?ならいいんだけど‥‥無理しちゃだめだよ?」
「おう、ありがとうな」
二人にはそう言ったものの、心の中では叫び声を上げたい気持ちで一杯だった。
「ただいま‥‥」
「やあ、おかえり。学校はどうだった?」
カウンターで作業をしながら俺にそう聞いてきた。店内を軽く見渡すが、客は誰もいないようだ。これは都合がいい。
「恋歌がうちの学校でライブするんだとさ」
俺がそう言うと、ゼルは動かしていた手を止めた。
「ほう?これはまた妙なことが続くものだねぇ‥‥いや、彼女に関しては必然か‥‥」
「少なくとも、アイツがこの都市からいなくなるまでは自由に動けない」
「だろうね‥‥彼女達には?」
「これから連絡してみるけど、多分もうあっちから連絡が来てるかもな。着替えながら見てくる」
俺はそう言って自室の方へと向かった。
「さて、Rainを確認しないとな‥‥」
俺は春海のスマホを操作してRainを確認する。すると魔法少女全員から連絡が入っていた。まず響からは‥‥
『恋歌がもうこの街に来てる。気を付けて』
亜美からも‥‥
『逢田恋歌さんが、近くにいるみたいですよ。私も注意しますが、春海さんも気をつけてください』
そしてフェアリーからは‥‥
『もう分かってると思うけど、例のアイドルが港湾都市にいるわよ。死にたくなければ暫く変身しないことね』
さらにアサシンからも送られていた。
『歌い手殿の件は存じておろうが、一応忠告だけしておく。注意されたし』
全員俺を心配してくれているのは分かった。だが‥‥‥
「なんで、グループRainという機能を活用しないんだ!一応このメンバーでグループ作ってんだろうが!一人一人返信するの面倒くさいわ!」
俺はそう叫んだあと、ため息を吐きながら一人一人返信した。