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薔薇の死神  作者: 族猫
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45.攻勢の狼煙

 俺達を見下ろしている龍の姿を呆然と見つめながら、何か手はないかと考える。しかし、どれだけ考えてもこの状況を打破する方法が思いつかない。まあ、都合よく祈祷の効果が今発揮されればどうにかできるかもしれないが‥‥‥


(こりゃあ、撤退も視野に入れなきゃかもしれないわねぇ‥‥)


 だが、いざ撤退を選んだとしても相手が簡単に逃してくれるはずがないうえ船を捨てれば俺とタイタンは海の上を移動する手段がない。でも、グレイシアも1人くらいは担いでいけるだろう。


(あの龍‥‥なんでまだ攻撃してこないのかしら?もしかして、まだ完全に力を取り戻していないから連続では撃てない?まあ、どんな理由であれこれはチャンスである事に違いないわ。このスキに二人を逃しましょう)

「ねぇ、二人共‥‥‥」

「「断る!!」」


 俺が意を決して二人に声をかけると、俺が何か言う前に二人はそう叫んだ。


『ローズの事だから、自分が犠牲になってでも僕達を逃がそうと考えている。でも僕はローズを置いて逃げるつもりは無い!』

「それに、今回巻き込んだのは私の方よ?それをあなたに全部押し付けて逃げるだなんて出来る訳無いわ!」


 まあ、こうなる事は分かっていた。正直二人を説得出来る自信も無い。だとすればどうしたものか‥‥‥俺は再び頭を悩ませた。



 いま私は、港にある事務所で各神社からの連絡を待っている。今でこそ落ち着きを取り戻してはいるものの、あの子達が出撃した後にこの秋田港では大きな混乱が起きていた。それもそのはず、突然爆発が起きたと思えば港全体が霧に包まれたのだ。事前に説明を受けていた関係者ならいいが、それ以外の報道陣や市民からすれば異常事態でしかないだろう。その為、直後はこの事務所に多くの人間が押しかけてきたものだ。


「少しは落ち着いてきましたかね?」

「まあ、さっきよりかはマシだが‥‥完全に混乱が収まるのはまだ時間がかかるだろうな。それより、祈祷の方はその後どうだ?」

「いえ、まだ数カ所からの連絡がまだですね。正直、今の私達には待つ事しかできないのが悔しいものです」


 私はそう言って、海の方に視線を向けつつローズの視界を見てみた。すると予想以上の惨状に思わず顔が歪む。


(やはり神か‥‥このままではあの子達が危険すぎる。最悪、撤退させる必要もあるね‥‥)


 私がそんなことを考えていると、事務所の職員が慌てた様子で私に声をかけてきた。


「連絡が来ました!全ての神社の用意が完了したようです!」


 私達はその報告で胸を撫で下ろす。


「それでは、早速お願いします!」


 私がそう言うと、職員は受話器を再び耳に当てて連絡を始めた。


「なんとか間に合ってよかったな」

「ええ、あとはあの子達に任せるとしましょう」

「ああ、だが‥‥大丈夫だろうか?」

「ええ、どうやら助けも間に合ったようですし‥‥何とかなるでしょう」

「ん?助け?」



「タイタン!船の修復状況は?」

『とりあえず穴は塞いだ。これから内部の水量を調節して立て直す』


 龍の攻撃が一時的にでも弱まったすきに、俺達はなんとか体制を立て直そうと動いていた。だが、何とか立て直したとしても先程の攻撃を食らえば結局は同じ事だろう。


(祈祷はまだなの‥‥‥?流石にこれ以上は‥‥)

「待たせたな!嬢ちゃん!」


 その時だった、突如聞こえたその声に俺達は辺りを見回した。すると西の空からこちらに向かってくる一羽のカラスが見えた。


「ザシエル!?」

「いやぁ‥‥間に合ってよかったぜ‥‥嬢ちゃん!お前さんに手土産だ!受け取れ!」


 そう言ってザシエルは、何かを俺に向かって落とした。そしてそれを俺が受け取る。


「確かに届けたぜ〜〜!」


 ザシエルはそう言って飛びさって行った。そして俺が受け取った物を見たグレイシアが口を開く。


「それってもしかして木簡?」

「ええ、そう見えるわね‥‥」


 ザシエルが持ってきたものは、細長い木が束になった三国志などでよく見るものであった。


(あぁ‥‥間違いない。こんな物を送ってくるなんてあの子しかいないわ‥‥一体何が書かれているのやら‥‥ってこれ、魔力が込められている。と言うことはまさかの魔導書?)


 魔導書は、魔法を使う人間が自身の魔法を本に込めることで魔力のない人間でもその魔法を使う事ができると言うものだ。俺達魔法少女も普段から少しずつ魔導書を作っておき、魔力が尽きた際の保険や複数の魔法を同時に発動して火力を上げたりなどに使う事もある。割と便利な代物なのだが、文字を使って魔力を込めるので作るのが非常に面倒臭い。また、魔導書は取り敢えず文字さえ書ければ何でもいい為この木簡の様にその形は作る人間の趣味によって変わる。


(わざわざ送ってきたという事は、この状況を打開できる物なんでしょうね‥‥よし!)


 俺はその木簡の紐を解き、木簡の束を開いてみた。するとそこには、漢字で何やら文字が書かれていた。そしてその文字の横には、ご丁寧にも日本語訳が書かれており俺はそこに書かれている文章を読んでみる事にした。


『古より南方を守護せし神よ!厄災を祓いし劫火をもって、か弱き我らを招福に導きたまえ!』


 俺がそう叫ぶと俺が持っていた木簡が光となって消滅し、俺達の真上に巨大な赤い鳥が姿を表した。


「これって‥‥朱雀?」

「ええ朱雀よ。でも本物というわけではなくて、ある軍師様が生み出した朱雀を模した幻影だけど」


 俺がそう言って空を見上げると、呼び出された朱雀が龍と睨み合っている。どうやら龍の注意が朱雀に移ったようだ。体制を立て直すなら今のうちだろう。


「二人共、今のうちに何とか立て直しましょう」

「そうね‥‥もう少し耐えれば、何とかなるかもしれないものね」

『そろそろ船も完全に治る。それに、主砲も大きくした』

「それじゃあいくわよ!」

「「了解!」」


 グレイシアは再び海へと飛び込み、水の龍となって龍神へと迫る。そしてタイタンも、戦艦を動かして龍神へと主砲を放った。


「朱雀!私を乗せて飛びなさい!」

『ヒョォォォォォ!!!』


 俺がそう叫ぶと、朱雀は戦艦の横まで降りて来る。そして俺が背に乗ると、また龍神への元へと飛翔した。


「朱雀!私に合わせなさい!」

焼滅の薔薇(バーニング・ローズ)!!』


 俺が炎を放つと同時に、朱雀も龍神に向かって炎を吐く。先程のグレイシアの攻撃に気を取られていたのか、俺の攻撃は龍の頭に直撃する。


「まあ、どうせ聞いてないんだろうけど‥‥ん?」


 その時、俺はあることに気づく。なんと、龍の口元が多少焦げていたのだ。


「まさか‥‥外は頑丈だけど、内側は柔らかいなんてそんなベタな展開ある?まあ、だとしても狙って口を狙うなんて難しいんだけど‥‥‥」

『ローズ、聞こえるか?』

『え、ゼル?』


 突如頭の中にゼルの声が聞こえ、俺は少し驚いた。


『遅くなってすまない。遂に祈祷が始まった。もう間もなく効果が現れるはずだよ』

『本当!?それは俄然やる気が出てきたわね!』

「動きが鈍くなれば、イケるか?よし、時は満ちれり!!二人共、こっからは私達のターン!!この龍神に今までのツケを払わせるわよ!!」

「ええ!犠牲になった人達とその家族の恨みや悲しみ‥‥‥今ここで晴らす!」

『僕達は必ず勝つ!必ず生きて帰る!!』


 防戦一方であった俺達は、遂に攻勢に移ることになる。



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