41.意外な申し出
「ん?春海‥‥ずっと難しい顔してるけど‥‥どうかしたの?」
「え?ううん。何でもないわ」
秋田へと向かう飛行機の中で、俺は少し考え事をしていた。その理由は、昨日の凍華からの電話にある。
昨夜‥‥
「凍華?何かあったの?」
『突然ごめんなさい。実は相談したい事があるの』
「相談?」
俺が聞き返すと、凍華は『ええ』と答えてから話を続けた。
『実は‥‥私達の事が、県にバレたわ』
「え、県にバレた?」
まあ、今回の件がバレること自体は仕方のない事だ。流石にストップでもかかったのだろうか?
『どうやら私達の噂がかなり広がってしまったみたいで、織田さんに連絡が来たそうよ。それで内容なんだけど‥‥私達三人に知事が会いたいそうなの』
「は?知事って‥‥秋田県知事が?私達に?会いたい?何で?」
『それは、分からないけれど‥‥別に強制というわけではないと思うけれど‥‥どうする?』
「そうねぇ‥‥‥どうしたものかしら‥‥」
「いいんじゃないかな?」
俺が悩んでいると、後ろからゼルが声をかけてきた。
「やあ、凍華ちゃん。すまないけど、二人の話は聞かせてもらったよ。秋田県知事が会いたがっているなら会ってみよう」
「え、本気で言ってるの?」
「ああ、至って真面目だよ。罠の可能性が無いとは言えないけど、知事だって秋田県人だ。自身の県が見捨てられるって言われて黙ってはいられないだろう。それにメリットもある。もし知事の協力を得る事が出来れば、私達の問題が一つ解決できるかもしれない」
『問題というのは、もしかして‥‥』
「ああ、タイタニスの停泊場所だ。知事の許可が貰えれば、秋田港にタイタニスを入港出来る。確かあの港は300m級の船でも普通に入港しているはずだから、恐らく問題ないだろう。あとは、地元警察の協力が得られる可能性だ。知事が公安局に話してくれれば、もしかすれば警察が協力してくれるかもしれない。そうすれば色々と便利になる」
ゼルの言う事も良くわかる。確かに、知事の協力が得られれば心強い。
「まあ、罠だったとしてもゼルが助けてくれるだろうし‥‥一度会うだけ会ってみましょうか?」
『分かったわ。じゃあ、そう連絡してもらうわね』
「あ、ちょっとまって!一応響にも聞いてみないと!」
俺は直ぐ響にRainを送り、事の次第を話した。すると響から一言だけ「任せる」と返ってきた。
「よし、じゃあそれでお願い」
『ええ、分かったわ』
そうして俺は通話を切った。
「もしかして、昨日の話の事で悩んでる?」
「ええ、本当に良かったのかなぁって思っちゃって」
「大丈夫。何かあれば二人は僕が守る」
いつもの事ながら、頼もしい事だ。だが、響にばかり頼るわけにもいかない。何かあれば、俺が何とかしなければ‥‥
『皆様、只今秋田空港に着陸いたしました。シートベルト着用のサインが消えるまでシートベルトは締めたままでお待ちくださいませ』
俺達は、再び秋田の大地に降り立った。
「ひ、響‥‥またなの?」
翌朝、ベッドに潜り込んでいた響に抱きつかれた状態で俺は目が覚めた。
「響~起きて~」
「ん‥‥?あれ‥‥?なんで僕のベッドに春海がいるの‥‥?」
「あなたが私のベッドにいるのよ‥‥」
このやり取りも、いい加減慣れてきた。
「ほら、準備するわよ。今日は午前中に知事と会うんだから」
「分かった‥‥‥」
まだ眠そうな響を無理やり起こして、俺も準備を始める。そして二人共準備を終えて部屋を出ると、廊下でゼルが待っていた。
「おやおや、ようやく来たようだね」
「前にも言ったけど、乙女にはそれなりの準備ってのがあるのよ」
「そうだそうだ~」
俺達はそんな会話をしながら、朝食を食べに向かった。
「そろそろ、来るはずだけど‥‥あっ!」
俺達がホテルの玄関前で待っていると、田澤さんの車が見えた。そして俺達の前で止まると、車から凍華が降りた。
「みんなお待たせ!」
「それじゃあ、復音さん。あとは頼みますわ。終わったら男鹿の方に来て貰えれば」
「はい、分かりました。一応向かう際には連絡をしますので」
「ああ、そうしてくれると助かる。それじゃあまた後で」
田澤さんはそう言って車を走らせてその場を去った。そして俺達はゼルの借りたレンタカーに乗り込んだ。
「それじゃあ、みんなこれから県庁の方に向かうから近づいて来たら変身しておくんだよ?」
ゼルはそう言って車を走らせる。と言っても、ホテルからはそこまで遠くはないため俺達はもう変身してしまう事にした。
「とりあえず、私が先に言って取り次いで貰うから君達は車で待っててくれ」
「分かった」
変身した姿で、正面から堂々と入れば流石に目立ちすぎる。その為、俺達は一先ず車の中で待機することになった。因みに、田澤さんの時の反省を活かしてゼルは良く分からない仮面を付けている。
「何か‥‥凄く緊張するわ‥‥戦う時は何とも思わないけれど、普通にこの格好で人に会うのってかなり恥ずかしいのよね‥‥」
俺がそう言うと、グレイシアとタイタンも頷いた。
「確かにそうね‥‥よくよく考えるとただのコスプレだものね‥‥コスプレ衣装で偉い人と会うとなると確かに妙に恥ずかしいわ‥‥」
「同感‥‥なんかゾワッとする」
俺達がそんな会話をしていると、ゼルは一人の男性と共に戻ってきた。
「お待たせしました。魔法少女の皆様ですね?流石に入り口からでは騒ぎになりますので、裏口の方から知事のお部屋へとご案内致します」
男性はそう言って俺達を知事の元へと案内してくれた。
「こちらが、知事のお部屋になりますので少々お待ちください。知事、魔法少女の皆様をお連れしました。」
「どうぞ」
男性がそう言って扉をノックすると扉の奥から返事が聞こえた。そして男性に続いて部屋の中へと入ると、年配の男性が椅子から立ち上がりこちらに歩いてきていた。
「ようこそおいでくださいました。どうぞ、こちらにお掛けください」
俺達は、その男性に促されるまま部屋の中央に並べられた椅子へと座る。すると男性も俺達と対面する形で椅子に腰掛けた。
「この度は、私の我儘でお呼びしてしまい申し訳ありませんでした。私は、この秋田県の知事をしております。竹本敬正と申します」
竹本知事がそう挨拶をすると、ゼルが口を開いた。
「これはご丁寧に、私は彼女達の監督官を務めている者です。ゼルとお呼びください。そしてこちらが‥‥‥」
「スカーレット・ローズと申します竹本知事、お会い出来て光栄です」
「カルド・タイタン‥‥です」
「クール・グレイシアと申します」
俺達は順番に挨拶を済ませ、さっそく本題に入ることになった。
「まず、この度はこの秋田県を救う為にお力を貸して頂き誠にありがとうございました。政府からは何とか対処する旨の発表はされておりますが、日本の状況を見ればそれも難しい事は皆気づいております。故に誰もが希望を見いだせず苦しい思いをしていたのです。ですが、今回の皆様のお話を聞き市民達は希望を取り戻しました。皆様には感謝してもしきれません」
知事はそう言って頭を下げた。これを見る限り、罠ということはなさそうだ。
「そこで、我々としても何かお手伝いをさせて頂きたいのです。やはり何もせず皆様に全てお任せすると言うのは心苦しいのです」
知事の言葉に俺達は顔を見合わせた。まさか相手側から協力を申し出てくれるとは思わなかったからだ。
「そう言っていただけると、こちらとしてもありがたい話です。実は今回の作戦で少し困っている部分があるのです」
「何でも仰ってください!」
ゼルが真剣にそう言うと、知事は身を乗り出すように聞いてきた。
「今回の敵は海の上です。その為、その移動手段兼戦力としてカルド・タイタンが作る戦艦を使う予定なのです。しかしその大きさ故に今すぐ作れると言うものではなく、事前に作っておき出撃の際は直ぐに動かせる状態にしておきたい。しかし、中々大きな船の停泊場所を見つけられずに困っておりました。そこで出来ればで良いのですが、戦艦の停泊場所として秋田港を使わせて頂きたい」
「なるほど‥‥分かりました。こちらで手配しておきましょう」
正直難しいと考えていたのだが、まさかこれほどあっさり許可が下りるとは思わなかった。俺達全員が驚いていると、それを察したのか、知事は話を続けた。
「現在の一件で、フェリーやタンカーなども入出港出来ず港はただの飾りとなっています。ですので有効活用して頂けるというのならこちらとしても嬉しい限りです。因みに、入港予定はいつ頃でしょうか?」
「出来れば、本日中に入港させたいと考えております」
「畏まりました。ではその様に手配しておきましょう」
「ありがとうざいます!共に、この街を守りましょう!」
そう言って知事とゼルは握手を交わし、会談は終了となった。