40.ライブ
「なあ復音、また面白い話を手に入れたんだ!」
次の日の朝、そう言ってオタクは俺の席へとやって来た。
「ん?今度はどんな話だ?」
俺がそう尋ねると、オタクは楽しそうに話し始める。
「全国的に魔物の騒ぎが起きているせいで、多くの瓦礫や残骸が全国の廃棄物処理場とかに集められてるのは知ってるだろ?その残骸の一部が東北に運ばれているらしいんだ。トラックは勿論、貨物列車でも運ばれてるらしいよ」
「普通に残骸を処理しきれないから、余裕のあるところに運んで処理するんじゃないのか?」
「まあ、僕も最初はそう思ったさ。だけど、仲間が言うにはその運ばれている残骸は殆どが鉄なんだって。これってもしかして、カルド・タイタンが関係してるのかもしれないよ!実は動かないで放置するつもりはないんじゃないかって噂もあったけど、やっぱり政府はちゃんと動いていたんだよ!」
そう熱弁するオタクに、俺はただ「お、おう」と返す事しかできなかった。でも、確かに面白い話ではあった。オタクの読み通り、恐らくその鉄は秋田へと運ばれるのだろう。織田さんや田澤さん達の人脈には、素直に驚かされる。
「あともう一つ!これ、見てくれ!」
そう言ってオタクは小さな封筒から、チケットの様な物を取り出した。
「ん?『逢田恋歌の帰国記念ライブ』?」
「そう!何とあの逢田恋歌のライブチケットを手に入れたんだよ!」
それは凄い事だ。逢田恋歌のライブは、その人気から抽選形式で販売される。その為、チケットが中々手に入らない事で有名だ。それを手に入れたと言うのはかなりの幸運の持ち主と言えよう。
「それでさ、実は3枚もゲットしましたぁぁぁぁぁ!!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
「「「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
オタクの言葉に思わず俺は大声を出してしまい、それに続いてクラスメイト達も大声を上げる。
「おい、お前‥‥一応お祓いとかしといた方がいいんじゃねぇか?」
俺はオタクの両肩を掴んでそう言った。他のクラスメイト達も、羨ましいと言うよりはオタクの身を案じる様な言葉を投げかける。
「オタク‥‥お前運使い果たしたんじゃないか?」
「まじで、気をつけろよ‥‥?」
「おかしい人を亡くした‥‥」
「ちょっと待ってくれよ!?なんで僕が死ぬこと前提なの!?おかしいよね!?」
オタクはそう言うが、1枚手に入れるだけでも凄いのに3枚とかほぼ奇跡だ。恐らく、どれかが当たればいいなぁと複数応募した結果大当たりしてしまったと言うところだろう。
「ま、まあそんなことはどうでもいいんだ。今回の応募で当たったから全部買いはしたけど僕は1枚あればいいから、もしよかったら復音に1枚あげるよ。同じ魔法少女好きの仲間だからな!」
「お、おう‥‥ありがとう?」
俺はチケットを受け取ってよく内容を見てみた。すると日付が明日になっていた。
「明日の夜!?中々に急だな‥‥こう言うのって普通数ヶ月前とか、遅くても数週間前に販売されるんじゃないのか?」
「ああ、確かに急だね。逢田恋歌の帰国発表のあと直ぐに公式サイトでライブの開催が発表されたんだ。そして昨日チケットが届いたってわけ」
どうやら、全国の異変に対応できない政府に対する不満を一時的にでも逸らす為に逢田恋歌の帰国を早めにアピールしたいようだ。
「それじゃあ残りの一枚は、ジャンケンで勝った人にあげるよ」
「よっしゃあ!絶対に手に入れてやるぜ!」
「私も!一度行ってみたかったのよね〜!」
その後、クラスでは白熱したジャンケン大会が開催された。
「おお‥‥!ほぼゲリラ的に開催されたライブなのに、凄い数の人だな」
「そりゃあ、あの逢田恋歌だからね。人は集まるさ。もう一人は、まだ来てないみたいだね」
俺とオタクは現地で合流し、もう一人を待っていた。すると、遠くの方からこちらに手を振る人物が見えた。
「ごめん、お待たせ〜」
そう言って合流したのは、熾烈な戦いを勝ち抜いたラッキーガールである永瀬だ。
「それじゃあ、早く中に入ろうか」
オタクはそう言うと入り口の方へと歩き始め、俺達もそれに続いた。
「凄い人の数だね‥‥私、こういうライブに来るの初めてだよ‥‥」
「俺もだ‥‥こう、始まるのを待ってるのは妙なドキドキ感があるな」
俺と永瀬がそんな会話をしていると、オタクが笑いながら口を開いた。
「二人共、初めてなんだね。でも、そんなに緊張しなくても大丈夫さ」
オタクがそう言った直後、ステージで様々な色のライトが光り始め、凄い迫力の音楽が流れ始める。
『日本のみんな〜!私は帰ってきた〜〜!!!』
そう言いながらステージに登場した逢田恋歌に、会場全体から大きな完成や拍手などが響き渡る。
『それじゃあ一曲目!ダイヤモンドの恋心!いっくよ〜!』
初めてのライブは、まさに圧巻の一言だ。彼女の歌もそうだが、周りの観客の一体感が物凄いのだ。
「なんか‥‥凄いね‥‥」
「ああ‥‥凄いな‥‥」
本当に楽しそうに歌って踊る逢田恋歌という少女は、上手く言い表せないような魅力に溢れていた。
「来てよかったな」
俺は時間を忘れてそのライブを楽しんだ。そして気づけば、ライブは終わりを迎えていた。
「オタク、今日は誘ってくれてありがとうな。何か、みんながハマる理由がわかった気がするよ」
「うん!本当に楽しかったね!小田君今日はありがとう!」
「気に入ってもらえて嬉しいよ!また機会があったら一緒に行こうな!」
俺達がライブの余韻に浸りながらそんな会話をしていると、突如謎の轟音が響き渡った。そして周囲から悲鳴が上がり始める。
「おいおい‥‥まさか魔物かよ‥‥」
俺が忌々しげにそう呟くと、永瀬が俺とオタクの手を掴んで叫んだ。
「とりあえず避難しましょう!」
「あ、ああ‥‥そうだな!」
「近くにシェルターがあるはずだ!そこに行こう!」
俺達三人は急いで近くのシェルターへと向かった。
「とりあえず、ここにいれば何とかなるだろ」
「うん、そうだね」
とりあえずシェルターへと逃げ込んだ俺達は安堵する。だが、俺はやはり外の現状が気になる。ここは逢田恋歌のライブ会場の近くである以上、逢田恋歌本人だけでなく彼女の護衛をしている魔法少女もいる。ならば、俺が出ていく必要はないだろう。
(でも、やっぱここでジッとしてるのって性に合わないわ)
「なあ、二人共‥‥ちょっとトイレ行ってくるわ」
「う、うん気をつけてね?」
「早めに戻ってきてくれよ?」
「おう、それじゃあ行ってくる」
俺はそう言って二人から離れ、人気のない場所へと走った。
「やっぱ、必要なかったわね」
俺が外に出ると、既に魔物を追い詰めているところであった。
「それじゃあ、二人のもとに戻りますか‥‥ん?」
俺がシェルターへと戻ろうかと思ったとき、ある物が目に入った。それは横転したトラックの運転席に挟まれて動けなくなっている運転手の姿だった。
「まずい!」
俺は急いでそのトラックへと向かい、運転席を炎で焼いて切っていく。すると、魔物の放った攻撃がこっちに飛んでくるのが見えた。
「チッ!あとちょっとなのに!しかたない!」
『火炎障壁!!!』
俺は何とか結界を張って攻撃を防ぎ、運転手の男性をトラックから引きずり出す。そして男性を抱えてシェルターへと走った。
「え?ローズ?」
俺は後ろから何か聞こえた気がするが、急いでいるため敢えて無視した。




