39.放課後の戯れ
「八咫烏ねぇ‥‥まあ、ほぼ間違いないだろう。正直、私も可能性としては考えていてね。龍神を見た時にほぼ確信していたと言ってもいい」
「なら、何で事前に言ってくれなかったんだよ」
「龍神だけでも大変なのに、八咫烏の話をして君に悩みの種を増やすのもどうかと思ってね」
いつも適当な感じに見えて、一応心配はしてくれているようだ。
「さて、そろそろザシエルが帰って来る頃だと思うんだが‥‥」
「え?今日帰ってくるのか?」
「ああ、一旦報告しに来るそうだ」
なるほど‥‥ザシエルは確か、中国に行くとか言っていた。正直、『アイツ』の用事ってのが気になってはいたし色々と探って貰いたい物もあるため丁度いいかも知れない。
その時、突如窓を突くような音が聞こえた。そして俺が窓を開けるとザシエルが部屋に入って来た。
「ふぅ‥‥やっと帰ってきたぜ〜‥‥よう、坊主!元気してたか?あ、あとブナゼルはなんか飲み物くれよ」
「分かってるよ。少し待っててくれ」
ゼルはそう言って一旦部屋を出ていき、アイスティーの入ったグラスを持ってきてゼルの前に置いた。
「それじゃあ、報告を頼むよ」
ゼルがそう言うと、ザシエルはアイスティーを飲むのを一旦やめて口を開いた。
「俺が今回中国に向かったのは、軍師の嬢ちゃんがこの国の現状を知りたがっていたからだ。何でも、妙な気がこの国から流れてきてるんだとよ」
中国にいながらも感じ取れるということは、かなりのものなのだろう。やはり例の鳥が飛び回っているのが原因なのか。それともまた別のものなのか。やはり渦中にいると、感覚も鈍くなってくるようだ。
「んで、あの嬢ちゃんがお前さんにくれぐれも気を付けるようにとの仰せだ。あとは『鍵は依代にあり。早急に対処されたし』だそうだぜ?あの嬢ちゃん、何かに気付いたのかもな」
「依代と言うのは、恐らく御神体や御神木などの事だろうね。つまり、今回の一件の原因がそこにあると言う事か‥‥」
ゼルは、少し考えたあとにザシエルを見た。
「ザシエル、帰ってきたばかりで悪いが少し頼まれてくれるかい?」
「ああ、いいぜ。ようは八咫烏を祀る神社を調べればいいんだろ?」
ザシエルはそこまで言うと、残っていたアイスティーを一気に飲み干した。
「じゃあな二人共!」
そう言って窓から飛び立ったザシエルを見送った俺達は、明日からの日常に備えて休む事にした。
「よう、秋司!今日の放課後暇か?」
次の日、俺が学校に来ると幸樹が俺に話しかけてきた。まあ、内容は予想出来るが‥‥
「まあ、今日は予定ないけど」
「なら今日こそダンジェネで勝負しようぜ?」
「とは言っても、あのショッピングモールは火事で無くなったけど他にダンジェネ置いてるゲーセン近くにあるか?」
「それがよ、実はこの学校から10分位行ったところに本屋あっただろ?何かあそこの一部をゲーセンに改装したんだと。んで、まさかのダンジェネも置いてたんだよ。昨日見てきた」
「あの本屋やるな‥‥」
それは驚きだ。ダンジェネは踊って得点を競うと言う特性上、かなりスペースを取る。その為意外と置いていないゲーセンも多く、特に店の一部を改装したゲーセンではまず見た事はない。そんな中であのゲームを置くとは‥‥
「何の話をしてるの?」
俺達が話していると、永瀬がやって来た。
「この近くの本屋にダンジェネが置かれてるんだとさ」
「え、本当!?近くのゲームセンターじゃ何処にも置いてなかったから、暫くやることはないなぁって思ってたよ。あの本屋さん、やるねぇ‥‥」
そう言って永瀬は顎に指を当てる仕草をする。
「おう、だから今日の放課後に早速行ってみようと思ってる」
「なら私も一緒に行く!今日は丁度部活が休みなの!」
「よっしゃ!んじゃあ決まりな!」
何か、この二人だけで決定してしまった。まあ、別に今日用事はないから問題は無いが。
「あ、そうだ!ねぇ復音くん、春海ちゃんも呼ぼうよ!私、また春海ちゃんと対戦したいな!」
「あぁ‥‥春海は忙しいらしいから無理だな。また今度誘ってやってくれ」
「そっかぁ‥‥それは残念‥‥」
残念がる永瀬には悪いが、俺がいる以上春海が来る事はできない。こればかりはどうしようもないことなので諦めてもらうしかない。俺が心の中で謝っていると、丁度教師がやって来たのでそのまま解散となった。
「もう間もなくで調理実習が始まります。そこで、班を決めるための話し合いをしたいと思います」
家庭科の担任である若い女性教師、佐藤香苗はそう言って黒板に文字を書いていく。
「では、班を決めるに当たって料理の得意な人とそうでない人で偏りが無いように班を組みたいと思います。そこで料理の経験がある人や得意な人はいませんか?」
おかしい、なぜクラス全員が一斉に俺を見るのだろうか‥‥永瀬も確か料理得意だろ。それに俺の斜め前に座っている女子、鈴木さんも料理できること知ってるぞ。
「え、えっと‥‥復音君は料理が得意なのですか?」
佐藤先生はこの異様な光景にひどく困惑なされているようだ。
「はい先生!秋司の料理は美味いっすよ!」
「私も食べた事あるけどおいしかったよ〜流石は家が飲食店なだけあるって感じだよね〜」
「中学の時も調理実習で復音の取り合いになったよな〜」
そこまで褒めるくらいなら、一度でも家の店に来てほしいものだ。
「では、A班の班長は復音君にお願いします。あとBCD班は‥‥」
こうして、半ば無理やり調理実習の班長にされてしまった。正直面倒だが致し方ない。俺は窓の外を見て思わず溜息を吐いた。
「ほら、あっただろ?」
俺は幸樹や永瀬と一緒に、学校近くの本屋に来ていた。すると幸樹が言っていた通り、本屋の奥の方にゲームコーナーが出来ていた。そしてそこには存在感抜群の『ダンシング・ジェネレーション』。曲にあわせて踊る事でスコアを競うゲームで、前回は春海の姿でやったがこっちの身体では1年ぶりになる。
「さて、最初は誰がやる?」
俺が二人に尋ねると、幸樹が俺を指差してきた。
「まずは俺と秋司でやろうぜ?それで勝ったほうが永瀬とやるってこで」
「分かった」
「うん、いいよ」
俺と幸樹は二人でゲームの前に立ち、ゲーム機に100円を投入する。
「曲はお前の好きなの選んでいいぞ」
「お?いいのか?後悔しても知らねぇぞ〜」
俺の言葉に、幸樹はニヤニヤとした笑みを浮かべながら曲を選び始める。そして遂にゲームが始まった。
「二人共がんばれ〜」
今のところは互角だ。お互いに目立ったミスもなく、ボーナス点も取っている。本人も言っていたが、相当練習したんだろう。油断すれば負ける!
「クッソォォ!!負けたぁぁぁ!!」
結果として俺が勝った。だが、久し振りにやったせいかかなりキツかった。
「じゃあ、次は私ね!」
そう言って、嬉しそうに100円を入れる永瀬に俺は顔が引きつる。
(やばい‥‥明日は筋肉痛だな‥‥‥)
(うおぉぉぉぉ!!!耐えろ俺の足ぃぃぃぃ!!!後少しで終わるぞぉぉぉぉ!!!)
久し振りにやるダンジェネを連戦するのは、やはり無理があったようで、足が凄く痛い。だが、俺にも維持がある。負けるわけには行かない。
「まじかよ‥‥‥」
「流石は復音君だね」
「た、耐えた‥‥‥」
俺は今、全身の疲労からその場に座り込んでいる。結果としては、何とか同点で終わらせる事ができた。
「幸樹‥‥疲れた‥‥何か食わせてくれ‥‥お前の奢りで‥‥」
「お、おう‥‥何か、凄い物を見たわ‥‥帰りに何か買ってやるよ‥‥」
「それじゃあ私は飲み物買ってあげるよ」
「た、助かる‥‥」
俺達は今日はとりあえず帰ることにした。