3.羞恥の事実
翌日、俺が教室に入ると教室の中央に人だかりが出来ていた。
「お、修司!昨日あの後どうしたんだよ!探したんだぜ?」
そんな人だかりの中心から幸樹が抜け出して俺のもとへとやってきてそう叫んだ。
「悪い、トイレのあと向かおうとしたんだが突然大騒ぎになっただろ?それで人に飲まれてな」
「そうだったのか、それじゃあ仕方ないな。ってそれより見てくれよ!」
そう言って幸樹にスマホの画面を見せられ、俺の顔が微妙に歪む。
「凄いだろ?お前がトイレに行ったあとに突然天井が崩れたと思ったら、この赤い魔法少女が目の前に立っててさ!思わず撮っちまったぜ!」
そう興奮気味に幸樹が言うと、人だかりの中にいた一人の男子が声を上げる
「本当、すげぇよな〜メディアでさえこんな綺麗に撮れてなかったぜ?それに、近くで顔見れたとか羨ましすぎる!!」
その男子の言葉に周りの生徒達も一様に頷く。そしてその中の一人の男子、小田邦夫は何やらノートを片手に幸樹に声をかけた。
「なぁ早田。その写真僕に送ってれないか?もしあれなら金を払うことも辞さない」
「ん?別に金はいらねぇよ。これだってはっきり言って隠し撮りなわけだから、これで金を取るのは違うだろ」
幸樹はスマホを操作して写真を送る。
(隠し撮りって思うなら消せよ。ってかそもそも撮るなし)
そう思うものの口に出せるわけでもなく、俺はその光景を微妙な表情で見つめていた。
「あ!オタクだけずるいぞ!俺にもくれ!」
「私も!」
「私にも頂戴!」
「分かった!RAINのグループに貼るから落ち着けって!」
幸樹はそう叫んで必死にスマホを操作する。因みにオタクとは小田邦夫の略称である。っと言うのも小田は本当の意味でもオタクであり、俺ともゲームなんかの話で良く盛り上がる。
「よっしゃ!これで揃った!」
小田が嬉しそうにノートを広げていたので、俺は話しかけた。
「なあ、何でそんなに喜んでるんだ?」
「フフフ!これを見給え!」
そう言って俺の目の前に広げられたノートには様々な魔法少女の写真に能力や名前などが書かれており、最後であろう空欄の部分には『スカーレット・ローズ』と書かれている。
「な、なんだ……これ……」
「凄いだろ?魔法少女の追っかけって結構いるんだけど、そういう人達と交渉して能力や名前とか教えて
貰ったり写真を譲ってもらったりして作ったんだ!ただ、赤い魔法少女スカーレット・ローズだけが手に入らなかったんだけど、早田のおかげで遂に完成した!これから魔法少女が増えるならその都度更新していくけど、これが現時点では最新版かな」
(おいおい……魔法少女の追っかけって、新手の戦場カメラマンか何かか?)
軽く引き気味に俺は返事をして、ノートの中身を横目で見てみた。すると何人かの顔なじみが写っているのが見え、俺は小さくため息を吐いた。
「とりあえず見てみてくれよ!」
オタクはそう言ってノートを半ば強引に押しつけてきたため、ノートを受け取って中身をパラパラとながめてみた。はじめは流し見程度だったのだが、読んでいくとそのあまりの完成度に気づけば書いてあることをしっかりと読み込んでいた。
「それにしても良く出来てるな……能力の詳細まで書かれてるじゃないか」
「そうだろう?だけど遠目で見たり人から聞いたくらいだから、大体は想像で書いてる感じだけどね」
「そうなのか」
想像とは言うものの、実際に戦った事のある俺から見てもその殆どの情報は概ね正確だと感じるほどの物で、呆れを通り越して感心してしまう。オタクの言うその追っかけの連中はかなりの情報収集能力を持っているようだ。
「本当によく集めたもんだ……ん?」
一通り目を通した俺は、ある部分で目を止めた。
「なあオタク。この名前の横に書いてるのは何だ?」
様々な魔法少女の名前が書かれている横に何やら書かれているのが見え、オタクに尋ねると得意げな表情で答え始めた。
「ん?ああ、それは魔法少女のファンとかが付けた二つ名というか異名みたいなもんだよ。例えばこのストーム・フェアリーであれば『ラファール・ダンサー』だね。ラファールはフランス語で疾風。それに英語のダンサーで『疾風の踊り手』って感じだね」
「へ、へ〜……まさか全部に付いてんのか?」
「勿論!このスカレーット・ローズだったら『アブソリュート・ローゼス』で意味は『絶対の薔薇』そして……」
俺は一瞬目眩を感じるが、そんな事はお構いなしにオタクの説明は続き……
「そして、最後に僕の最推しの魔法少女である『アビス・リリー』は『ロンリー・コマンダー』だね」
「『孤独な指揮官』か……」
軍服のような衣装に見を包んだ魔法少女『アビス・リリー』とは直接戦ったことはないものの、何度か戦闘を見たことがあった。そのため、この異名にはある意味納得がいった。
「お前はその魔法少女が好きと言うか推してるのか?」
「そう!ほら見てくれよ!」
そう言って見せた1枚の写真には、真っ黒な渦の中で勝ち誇ったような表情を浮かべる『アビス・リリー』が写っていた。
「な?可愛いだろ?」
「ま、まあ……そうだな……」
そう興奮気味に語るオタクを、俺は若干引き気味に見ていたが、ふとあることを思いつき、その直後に俺はオタクの肩を両手で掴んでいた。
「なぁ……オタク」
「ふぇあ!?な、ななななんだよいきなり!?」
「そのノート写メ撮らせてくんね?」
「はい?なんで?」
「じ、実は俺も魔法少女に興味があってさ。そのノートを見て色々と勉強したいなぁと……」
俺の言葉に口を開けたまま呆けているオタク。正直、言ってる俺もだいぶ恥ずかしい。だが、俺がこのノートの中身を見て勉強したいと思ったのは事実だ。というのもこのノートをざっくりと見た感じ、面識のない魔法少女に関してはなんとも言えないものの、知っている魔法少女の情報は概ね正確であったため他の魔法少女の情報も割と信憑性はあると考えた。ならそれを利用しない手はない。
「復音……お前……」
「駄目か?」
真顔で俺の顔を真っ直ぐに見てくるオタクに俺は恐る恐る尋ねると、突如オタクは俺の手を力強く握ってきた。
「僕は嬉しいよ!まさかこんな近くに理解者を見つけるだなんて!!今日からお前のことは同士と呼ばせてもらおう!!!」
「お、おう……」
よく分からないが、俺はオタクの持つ様々な魔法少女の情報を入手することに成功したのだった。