38.共犯者
何人もの魔法少女が集結する異様な光景は、何も知らない人間が見れば何か非常事態でも起きたのかと大混乱を起こす事だろう。それほどの異常事態が今、このタワーの屋上で起きている。
「それで、あなたが三重県から遥々この街にやって来た理由は?」
俺がそう尋ねると、アサシンは顔を上げて口を開いた。
「最近、各地で異変が相次いで起きておりまする。我が故郷である近畿地方も同様。一週間前には琵琶湖、数日前には比叡山に扉が出現いたした。そしてその前後には黒き怪鳥が目撃されておりまする。しかし上層部からは何の情報も得られず、魔法少女は連日の戦で士気が下がる一方。故に僅かでも情報を頂きたい」
「そもそも、なんで私達であれば情報を持っていると思ったの?」
「薔薇殿は、他者と協力をしておられませぬ。しかし、毎度我々が知り得ぬ情報を得ているのは確か。なれば貴殿には何か他の情報網を持っておられるのではないかと」
まあ、アサシンの言いたいことも分かる。なんの情報もなくただひたすら戦わされるのは精神的にキツイものがあるだろう。だからこそ藁にもすがる思いで来たのだろうというのも理解できる。別に俺は情報を隠すつもりもないし、人の役に立つというのなら喜んで差し出そう。だが、俺には一つアサシンに問い詰めねばならぬ事がある。
「事情はわかったわ。だけど、そういう事なら魔力でも出して私達をおびき寄せれば良かったじゃない。なぜ‥‥私をつけたの?魔法少女にとって素がバレる事は、死に直結するに等しい事。隠れて後をつけるのは、命を狙っていると言っているのとほぼ同じよ?」
「お詫びのしようもござらぬ。しかし、拙者は本来この場にいてはならぬ存在。政府に見つかれば問題となりかねませぬ。故に無闇に魔力を放出する訳にもいかず、このような手段を取り申した」
確かにその通りだ。戦力不足と言われているこの時に、アサシンが持ち場を離れたとなれば大問題になるだろう。それに彼女とは長い付き合いだし、そんな事をするような性格ではない事も良く知っている。
「まあ、仕方ないわね‥‥今回は貸一つって事で許してあげましょう」
俺はそう言ってアサシンの手を取って立ち上がらせた。するとアサシンはまた深く頭を下げる。
「かたじけない‥‥この御恩は必ず」
そんなアサシンを見て、俺は他の三人にも目を向けた。
「三人もそれでいいかしら?」
「問題ないわ。関西の魔法少女と連携がとれるならメリットの方が大きいもの」
「僕はローズの判断に従う」
「我も異存は無い」
三人の答えを聞いた俺は、早速本題の話を始めることにした。
「この間、フェアリーと話したときに今回秋田に現れた敵が実は魔物では無いのではないかという話になったの。そこで、今回タイタンを連れて秋田に行って来たわ。そこでグレイシアと合流して、実際にその敵と戦ってみたの」
「結果はどうだったの?」
「一切歯が立たなかった。こちらの攻撃がほとんど効かず、こっちのバリアも簡単に突破された。どうすることもできずに命からがらなんとか逃げてきたわ」
俺の言葉に、タイタン以外の全員が驚きの表情を浮かべる。まあ、それはそうだろう。自分で言うのもあれだが、スカーレット・ローズ、カルド・タイタン、クール・グレイシアと言う魔法少女の中でも屈指の実力者が手も足も出ないなど殆どありえない話なのだ。
「何だと!?貴公らが敗走‥‥!?そんな魔物が‥‥‥‥ッ!まさか‥‥!」
「ええ、そいつから魔物の気配は殆ど無かったわ。それで色々と調べた結果、龍神‥‥つまり神と呼ばれる存在だと言う事がわかった」
「「「な!?」」」
俺の言葉にタイタン以外の三人が信じられないという顔をしている。まあ、それは当然だ。なにせ突然「神が現れた」と言ったところで信じられる訳がない。
「そんな事、ありえるの?神だなんて‥‥」
「ありえない‥‥と言いたいところだけど‥‥魔障の扉の奥に魔界と呼ばれる世界があってそこから来る魔物がいるわけだし、神がいる神界と呼ばれる存在があっても不思議ではないわ」
「なれば、かの怪鳥も神の可能性があると?」
「正直そうなんじゃないかと思い始めてる。例の鳥が現れても魔物の気配はあまり感じなかったし、事実警報もなっていないしね」
俺がそう言うと、四人は難しい表情のまま黙ってしまった。そして暫くの静寂の後、突如アサシンが「鳥」「黒」「神」と呟き始めた。そしてその呟きを聞いて俺の中で鳥の正体が浮かび始める。
「「「「「八咫烏!!!」」」」」
ほぼ同時に、俺達全員がその正体と思われる名前を挙げた。
「八咫烏‥‥迷える者を導いたとされる、導きの神‥‥かの神が、己が力を悪用したというのか‥‥」
「まだ確定したわけでないけど、八咫烏の導きの力が魔物や龍神をこの世界に導いたとしても不思議ではない」
八咫烏であれば色々と説明がつきそうではある。だが俺は、リリーが言った八咫烏が力を悪用したという部分に妙な引っ掛かりを覚えた。
「まあ、神ならではの対処法も一応あるらしいから例えあの鳥が神でも何とかなるでしょ。いや、何とかしましょう」
そう、何とかしなければいけない。何とかしなければ、俺達の後ろにいる人々が犠牲になるのだ。
「政府が頼りにならぬ以上、我等が動かねばなるまい」
「拙者の方でも探ってみまする。他の魔法少女には仔細を濁して伝えまする故、安心めされよ」
「政府に見つかれば大変な事になるでしょうけれど、こうなった以上しかたないわ。情報集めくらいなら手伝ってあげる」
「僕にできる事があれば、言ってほしい」
魔法少女が共通の脅威に対して団結する。これが本来のあるべき姿なのかもしれない。
「私達は秘密を共有した運命共同体よ。人々を守るため、それぞれ成すべきことをしましょう!解散!」
俺がそう叫ぶとそれぞれ帰路につく、と言いたいところだが、俺にはまだ用がある。フェアリーにな。
「と解散する前に、フェアリーに言いたいことがあるのだけど」
「‥‥‥‥それはお昼のことかしら?」
多分、今の俺は中々に素敵な笑顔をしていた事だろう。それに比べてフェアリーは渋い顔をしている。
「ええ、今日のお昼‥‥そちらの新人さんがとんでもない事をしでかしかけましてねぇ‥‥どんな教育をなさっているのかと‥‥」
「丁度離れた場所にいて、私では間に合わなかったの‥‥世話になったわね‥‥しっかりと指導もしておくわ‥‥」
「それじゃあ、貸し一つって事でいいかしら?」
「‥‥‥‥」
「あともう一つ、逢田恋歌について何か知ってる?」
「‥‥‥私も、昨日のニュースで初めてしったわ。タイタンに続いて、あの子も呼び戻したって事は、政府は何かに備えているのかしらね」
「そう、知らないならいいわ。ただ、警戒はしたほうがいいかもしれないわね」
こうして俺は、一夜にして多くの協力者を獲得した上でこの国でも屈指の魔法少女二人に貸しを作ることが出来た。素晴らしい収穫と言える。あと、フェアリーとアサシンのRainも手に入れたのだった。