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薔薇の死神  作者: 族猫
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36.話し合いと帰還

「ここはどうだい?」

「ん〜少し浅い。もう少し陸の近くまで水深があればいいんだけど‥‥あまり沖に停めておくと、波に負けて流されないか心配。出来れば、大量の鎖を岩に打ち込んでガッチリ固定したい」


 あの後、朝食を終えた俺達は凍華や田澤さんと別れてタイタニスを停泊しておく場所を探して海岸沿いを巡っていた。だが、この場所探しが意外と難しい。と言うのも、タイタニスほどの巨大な船では座礁の危険がある為あまり陸地に近づけないのだ。それに水深が問題無くても、周りに船を固定する鎖を打ち込む為の岩が無かったりそもそも周りに岩が多すぎてタイタニスの大きさでは近づけなかったりと色々問題がある。


「まあ、とりあえずは男鹿半島をグルッと一周してみましょう?もしかしたらそのうちみつかるかもしれないわ」

「そうするしかないね。それじゃあ二人とも車に乗りたまえ」


 ゼルに促された俺達は、車に乗にのってまた海岸沿いを走り出した。



「ずっと変身してるのも大変だろうから、凍華は一先ず隠れててくれ。んで、俺が合図を出したら変身して出てきてくれ」

「ええ、分かったわ」


 三人と別れた私は、豊和さんと合流して町の集会所に向かった。どうやら豊和さんが事前に連絡をしていてくれたみたいで集会所の会議室には多くの人達が集まっていた。


「お、豊!ようやく来たか!いきなりみんなを集めでぐれって一体なした?」

「親父さん。突然申し訳ねっす。みんな集まってらっすか?」

「おう、お前で終わりだ」

「分かったっす。んじゃあ、始めるっすべ」


 部屋の中からそんな会話が聞こえた後、豊和さんの大きな声が響き渡った。


「皆、今日はよく集まってくれた!今日集まってもらったのは他でもない。ここ最近の異変についてだ」

「異変?」「それって例の津波の事か?」


 豊和さんがそう言うと、部屋の中がざわめき始める。そして少し落ち着いてきた時に豊和さんは再び口を開いた。


「今回の異変に対して、政府は静観する事を決定したのは皆も知っての通りだ。確かに、日本中で起きていることを考えれば確かに仕方のない事なのかもしれない。でも、家族や仲間を失った俺達としては納得できない!!」

「そうだ!息子が死んだのに黙ってられる訳ねぇ!!」

「オラも弟が飲まれた!!」

「それだけじゃねぇ!漁が出来ねば、オラ達は生活もできねぇ!」


 口々にそう叫ぶ人々に、豊和さんは「そこでだ!」と大声で叫ぶ。するとそれまで騒いでいた人々は一瞬にして静まり返った。


「俺は昨日、海で捜索の手伝いをしている時にある人物と話す機会があった。そして今日、その人物もこの場に呼んでいる。入って来てくれ」


 私は豊和さんに呼ばれ、ゆっくりと部屋の中へと歩いていく。すると私の姿を見た人々は驚きの表情を浮かべる。


「あれって‥‥」「魔法少女だ‥‥‥」

「本物か?」「実際に見たことがあるから間違いねぇ‥‥」


 私が豊和さんの隣に立つと、豊和さんは再び口を開いた。


「皆も知っての通り、俺達を魔物から守ってくれている魔法少女クール・グレイシアだ。彼女はこれまでも多くの魔物から俺達を救ってくれた。だから俺は彼女に聞いてみた。『あなたでも今回の異変の解決は難しいのか』と。そうすると彼女は『自分だけでは難しいが、仲間に協力を頼んで必ず解決する』と異変解決の為に尽力してくれている事を教えてくれた。そして今回、彼女を含めて三人の魔法少女が協力してくれることになった!!」

「本当か!?」「そいだば、もう解決したようなもんだべ!」


 豊和さんの言葉で、先程までどこか殺伐としていたこの部屋の雰囲気がほんの僅かではあるものの柔らかくなった気がする。そしてそんな雰囲気の中で、私は一歩前に踏み出して口を開く。


「皆さん、先ほどご紹介に預かりました。クール・グレイシアと申します。今回私は知り合いの魔法少女に応援を頼み、この国でも屈指の実力を持つ二人の魔法少女の助力を得る事に成功しました。ですが、私達だけではこの異変の解決は難しいでしょう。ですが、ここにいる皆さんがお力を貸して下されば必ず解決できます!!」


 私はそう言って、今回の作戦の概要を全員に伝えた。



「意外と見つからないものねぇ‥‥」

「すでに一周してしまったねぇ‥‥」

「お腹空いた‥‥‥」


 結局男鹿半島を一周したものの、停泊場所として丁度いい場所は見つからなかった。そして一先ず道の駅に車を止めてこのあとどうするかを考えていた。そして俺がふとスマホを見てみると、時間は昼を過ぎていた。


「おや、もうこんな時間だったのか‥‥取り敢えず、丁度道の駅にいるしお昼にしようか」

「ご飯!」

「あなた、相当お腹空いてたのね‥‥」



「満足」


 食事を終えて、満足そうな響を見ながら、俺は後ろを歩くゼルに声をかけた。


「それでこれからどうする?まだ凍華から連絡は来てないみたいだけど」

「そうだねぇ‥‥取り敢えずここで時間でも潰すかい?これから移動するのも面倒だし」


 まあ、正直これ以上行く場所もないしそれがいいだろう。それに変に移動して合流するのに苦労するのも面倒くさい。


「それじゃあ、アイスでも買って‥‥ん?」


 俺がアイスを買うために売り場に向かおうとした時、俺のスマホに電話が掛かってきた。



「ごめんなさい。遅くなったわ」

「気にしないで、観光気分で楽しめたから」

「ご飯も美味だった」

「うぅ‥‥一緒に回りたかったわ‥‥」


 俺達の返事に凍華は悔しそうな表情を浮かべた。


「ところで、変身して来いって言われたからこの姿で来たけど‥‥」

「あ、そうそう。実は代表の人を連れてきたから会ってほしいのよ」


 グレイシアがそう言って後ろを向いた。それにあわせて俺とタイタンもグレイシアの視線の先を見ると、そこには田澤さんともう一人の男性が何やら会話をしながら歩いてきているのが見えた。


「疑ってたわけじゃねぇが、まさか本当に魔法少女が三人も居るとはな〜」


 田澤さんと一緒にいる男性は、少し驚いたような表情を浮かべながらそう口にする。そして俺達の前まで来てゆっくり頭を下げた。


「俺は、漁師たちのまとめ役をしている織田益夫おだますおだ。今回は、本当にありがとう‥‥俺達にできる事なら何でも協力させてくれ」

「お気になさらず、私達も好きでやっているだけですから」


 俺がそう言うと、織田さんは顔を上げてニカッと笑った。


「さて、親父さん。早速話ししましょう」

「おう、そうだな。取り敢えず、話し合いの結果としては全員一致で全面協力する事になった。流石にこのままじゃあ男鹿だけじゃなくて、秋田全体が死んじまう。それだけは何とかしねぇといけねぇ」


 どうやら町の人達は相当やる気のようだ。正直あまりいい反応を貰えないんじゃないかと少し考えていた為、本当にありがたい。


「取り敢えず祈祷の方は、神社を管理している宮司にお願いしてある。後は鉄が欲しいって言ってたが、どれぐらい必要なんだ?」

「少なくても8万以上は欲しい」

「「は、8万!?」」


 響の答えに、田澤さんと織田さんは同時に叫んだ。そりゃあ当然だろう。だって8万tの鉄だなんてどうやって集めるんだという話だ。二年前にアメリカでやった時は、丁度いい地下資源があったから何とかなったもののこの日本の一地域で集めるのは大変どころではない。


「ま、まあ‥‥取り敢えず、知り合いの鉄工所や思いつく限りの場所を当たってみる。だが最悪のパターンは覚悟しておいてくれ」

「その時はまた考える。だから一週間で出来るだけ集めて」

「あ、ああ‥‥」


 そう言う織田さんの顔は、依然として微妙な表情をしていた。


「まあ、親父さん。それについてはまた話し合おっす。この後確か漁協の人達と話し合いをあるんだっすべ?そろそろ行こっす。それじゃあ皆また後で」


 そう言って田澤さんは、織田さんを連れてこの場を離れていった。


「さてと、これからどうする?」


 俺が変身を解きながらそう言うと、物陰に隠れていたゼルがゆっくりと姿を表した。そしてそれに合わせて二人も変身を解く。


「そうだねぇ‥‥これ以上は何かできそうな事はなさそうだし、今夜の便で帰るとしようか。今ならまだ席が取れるからね」

「あら、もう帰っちゃうの?」

「ええ、学校があるしフェアリーにも聞きたいこともあるしね。また何かあれば連絡するし、そっちも連絡してちょうだい」

「ええ、分かったわ。みんな気をつけて帰ってね」


 簡単に挨拶を交わした俺達は凍華と別れ、車に乗り込んだ。



「また敵が出てきた!誰か後方の援護を!!」


 京都府京都市にある比叡山に魔障の扉が出現し、多くの魔法少女が戦闘を行っていた。しかし、予想以上の数に魔法少女達は苦戦を強いられていた。


「許せ、こちらも手が回らぬ」

「それにしても、何でいきなり扉が!?出現の予兆なんて無かったのに!」

「恐らく、数日前にこの場所を通過した例の黒い鳥が原因でしょうか?」

「分からぬ‥‥故に事態の収束完了後、情報を集めねばなるまい」


 忍者のような出で立ちの少女は、それだけ言って獲物である鎖鎌を手に走り出した。

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