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薔薇の死神  作者: 族猫
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33.調査後の一時

「ところで、復音さんたちは今日どこに泊まるんだ?」

 

 ようやく船着き場にもどり、船から降りたときに田澤さんがそう聞いてきた。


「そういえば、今日どうなるか分からなかったので、まだ決めていませんでしたね、この辺りの宿が取れればいいんですが‥‥」


 ゼルがそう答えると、田澤さんはスマホで何かを操作しながら口を開いた。


「なら丁度いいな。実はこの辺りの宿は今の一件で殆どが休業状態なんだが、その数少ない営業中の宿に俺の知り合いがいてよ。今軽く聞いてみたらどうやら部屋は空いてるらしい。二部屋しかないみたいだが、どうする?」


「それは有り難い!ぜひ泊まらせていただきます!二人もそれでいいかい?」

「ええ、問題ないわよ」

「ノープロブレム」

「よし、それじゃあ予約しとくな。あと凍華、お前も一緒に泊まってこいよ」

「え、でも‥‥」

「久しぶりに会った友達なんだろ?いいから行ってこいよ。叔母さんには俺から言っとくから」

「なら、そうしようかな」


 凍華の返事に田澤さんは満足した様な表情で電話を掛け始めた。


「よっし!予約完了!宿に到着する頃にはいい時間になってるだろうし、早速向かおう。俺が先導するから、復音さんは後ろから俺の車について来てくれ」

「ええ、分かりました」


 そうして俺達は車に乗り込んで宿に向かった。

 


「んじゃあ、明日は俺と凍華で仲間を説得するわけだが、復音さん達はどうするんだ?」


 宿について車から降りると、田澤さんがそう聞いてきた。


「ふむ、特に無いですね。君達は何かあるかい?」

「私も無いわ。結局のところ住民の協力が無ければ何も出来ないもの」

「僕は海辺が見たい。船が出せる場所の目星は付けておきたいから」

「なら、取り敢えずこの辺りを巡るって事でいいかな?」


 ゼルの言葉に俺と響は一緒に頷いた。


「そうか、ならこっちで進展があり次第凍華の方から連絡を送るってことでいいか。よし、じゃあ宿の方には話はつけてあるから、話せば部屋に案内してくれるはずだ。俺は凍華の家に行って、もう一度ここに連れて来たらそのまま帰るわ」

「ええ、一度家に戻って着替えを持ってくるから先に部屋に行ってて頂戴」

「ええ、分かりました。今日は本当にありがとうございました」

「おう!じゃあな!」


 そこまで話すと、田澤さんと凍華は車に乗って行ってしまった。そして俺達は田澤さんの車を見送ってから宿の受付に向かった。



「すみません、本日予約した復音ですが」

「いらっしゃいませ、本日4名様でご予約の復音様ですね?では、こちらにご記入をお願いします。そしてこちらがお部屋の鍵となっておりますので」


 ゼルは受付用紙に記入を済ませ、鍵の一つを俺に手渡した。まあ、この時点でゼルが何を言いたいのかはもう分かっている。どうせ俺達三人で使えということだろう。そう思っていると‥‥


「私は一人部屋を使うから、君達は三人で使うといい」

 

 予想通りである。まあ、どうせ逃げられないだろうしおとなしくしておこうと思う。


「あの、この後に来るもう一人の子にはこちらの部屋番号をお伝えください」

「はい、かしこまりました。では、ごゆっくりどうぞ」


 受付を終えた俺達は部屋へと向かい、それぞれの部屋に入る。そして俺はある事に気づいた。


「なるほど‥‥そういうタイプの部屋ね‥‥」


 そう、この部屋は畳の敷かれた和室になっておりトイレはあるものの浴室が無かった。いや、温泉旅館などでは割とある話なので別にそれが悪いというわけではない。だが、俺としては少し考えねばならない事態となった。


「ん?春海、どうかしたの?」

「うぇ!?いや?何でもないわよ!?」

「???」


 先程から響は不思議そうな顔で俺を見てくる。まあ、事情を知らない身からすれば俺がただ挙動不審なだけだろう。


「ほら、早く荷物置いてゆっくりしましょうよ。ね?」

「まあ、確かに。今日は少し疲れた。あ、浴衣がある」


 響がそう言うと、その直後に布の擦れるような音が聞こえ始めた。


(ん?この音、まさか‥‥‥)


 俺が恐る恐る響きの方へ視線を向けると、思ったとおり服を脱いでおり下着姿になっていた。


(おっふ‥‥‥ホテルの時はそれぞれ浴室で寝間着に着替えていたけど、この部屋にそれがない以上こうなるの事は分かっていたはずなのに油断した!)


 俺は直ぐに目線を逸らし、響の方を見ないように荷物を片付け始めた。確かにこの身体でいる間は、別に女子の身体を見たからといって別に恥ずかしくなるわけでのも無いし特に嬉しく感じる事も無い。つまり何も感じないのだが、やはり罪悪感というものはあるわけで‥‥この記憶を持ったまま男に戻った時は本当に死にたくなるのだ。



「取り敢えず浴衣に着替えてみた。どう?」


 そう言って浴衣姿を見せてくる響きに俺は思わず「おぉ‥‥」と声が漏れてしまった。やはり美少女は何を着ても美少女なのだと改めて思う。


「春海は着替えないの?」

「え?そうねぇ、まだ荷物が片付いてないから片付けたあとに着替えようかな」

「なんか晴海にばかりやらせて申し訳ない。やっぱり僕も片付け手伝う」

「ん?別にいいわよ?今回は私が無理やり連れ出したようなものだし、ゆっくりしてて頂戴な」

「いや、僕は僕の意思でここにいる。だから僕も手伝う」

「あらそう?なら、少しお願い」


 そうして俺は響に手伝ってもらいながら荷物の整理を再開した。そして暫くすると扉をノックする音が聞こえた。


「は〜い」


 俺は直ぐに入り口に向かい、扉を開けると凍華が荷物を持って立っていた。


「おまたせ〜」

「あら、意外と早かったのね?とりあえず中に入ってゆっくりしてて頂戴。いまお茶を淹れるから。響も飲む?」

「いただく」


 俺は、急須に茶葉をいれ予め沸かしていたお湯を注ぐ。そして程よいタイミングで三人分の湯呑みにお茶を注いだ。


「‥‥‥ふぅ、やっぱりお茶を飲むと落ち着くわねぇ‥‥」

「そうねぇ‥‥紅茶も好きだけど、この緑茶を飲んだ時の力が抜ける感じというか最高よねぇ‥‥」

「茶菓子がよく合う」


 俺達三人が暫くお茶を飲みながらほっこりしていると、凍華が俺のほう向いて口を開いた。


「そういえば、春海はお茶を淹れるの慣れてるのね。淹れている時の動きもそうだけれど、絶妙な濃さでとても美味しいわ」

「そ、そう?そう言ってもらえると嬉しいわ。一応私の家は喫茶店をしてるから自然と身についちゃったのよ」

「その店には僕もたまに行ってる。静かな雰囲気で落ち着くし、料理もかなりの腕。場所が場所ならもっと流行ってるはず」

「へぇ‥‥私も是非行ってみたいわ」

「もしこっちに来ることがあればいらっしゃいな。サービスするわよ?」


 俺達はそんな感じで暫く世間話を楽しんだ。




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