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薔薇の死神  作者: 族猫
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32.龍神


「はい?かみ?GODorPAPER?」

「はぁ‥‥あれを見てなぜPAPERが候補になるんだい?あれがねぶた祭のねぶたにでも見えたのかい?勿論GODの方に決まっているだろう」


 まあ、それはそうだ。正直、現実逃避をしたいあまり意味不明な事を口にした自覚はある。


「まあ、大方の予想はしていたことだが、面倒なことになったねぇ‥‥」

「なあ、さっきあの龍を神って言ったよな?」


 俺達が話していると、田澤さんが船を一旦止めて、運転席から出てきた。


「ええ、言いましたが‥‥田澤さんには何か心当たりでもあるのですか?」

「あ、あぁ‥‥秋田の人間なら殆どの奴は知ってるような御伽話さ。正直、秋田の龍神といえばそれしか浮かばねぇ」


 田澤さんがそう言うと、凍華もハッとした顔になり口を開いた。


「まさか、三湖伝説の『八郎太郎』?」

「おう、凍華も昔爺さんに聞いたことあるだろ?」

「それで、その伝説というのはどのような?」

「まあ、俺も詳しく知ってるわけじゃねぇが‥‥八郎太郎って男が、掟を破った事で呪われたんだったか?で龍の姿になっちまったそうでな。その後そいつは山の上に今の『十和田湖』を作って住処にしたんだ。ところがそこにやって来た何とかっていう坊さんに追い払われちまったらしい。そして色々あって今の八郎潟に巨大な湖を作って住処にしたんだとさ」

「なるほど‥‥‥しかし、いまその湖は無いようですね?」

「ああ、何十年も前に埋め立てちまったんだ。今じゃ村になってるよ」

「ふむ‥‥‥御伽噺にその続きは何かあるのですか?例えば、また住処を変えたとか」

「いや、その後に辰子って女性と恋仲になったとかいう話はあるけど、これ以上住処を変えたって話は聞かないな」


 田澤さんがそこまで言うと、ゼルは今まで以上に険しい表情を浮かべた。そしてゆっくりと口を開く。


「凍華ちゃん。早期解決の為、家の子に協力を頼んだ君の判断は間違っていなかったようだ。あの龍は近い内に陸に向かうだろう」


 その言葉に俺達全員が驚愕し、表情を強張らせた。


「復音さん、そりゃあどういう事だ?」

「いえ、別に簡単な話ですよ。かの龍神が己の住処へ帰るだろうというだけのことです」

「住処ってまさか‥‥‥」

「ええ、先程仰っていたかつて湖であった場所です。恐らくかの龍神はその場所を再び湖にし、自身が降臨する為の神域にする可能性があります」

「ちょっとまって!?あんな巨体が陸に近づいて、河なんか登り始めたら‥‥」

「ああ、陸に近づくだけで大津波。河を登れば大氾濫。湖を作る為に地面を砕けば大地震。ありとあらゆる大災害が起きるだろう。しかし神と呼ばれる存在にとっては些細な事であり、いちいち気にすることは無い」


 ゼルの言葉でその場の全員が硬直した。そして凍華が慌てたように声を上げる。


「それじゃあ、早くなんとかしないと!」

「でも、今の僕達にあれを倒せるとは思えない」

「だからって黙ってみているわけには‥‥」


 俺は凍華と響のやりとりを聞きながら、ゼルの方に目線をやる。そしてゼルのなんとも言えない雰囲気を感じた為口を開いた。


「ねぇ、もしかして対処法があるの?」


 俺がそう言うと、全員の目線が一斉にゼルの方に向く。


「ああ、もちろんある。相手が神であるからこそ通じる方法がね。だが、この作戦には多くの人々の協力が必要となる。そこで、春海」


 ゼルはそこまで言うと、真剣な表情で俺の方を向いた。


「多くの人間が関われば、当然政府の目にとまる事になる。だからこそ、君が決めるといい。政府に目をつけられることを承知で戦うか、この件から手を引くか。そしてこれは響ちゃんも同じだよ?本来君は勝手に戦闘に参加する事は出来ないはずだ。それが無断で戦闘に参加したどころか、政府の仇敵である我々に手を貸していたんだ。ただでは済まないだろうね」


 確かにその通りだ。元々は俺達で内々的に処理し、政府にバレないようにするつもりだった。だが、敵が予想以上の強さであったためそれも不可能となった。これ以上関われば再び政府に目をつけられ、また刺客を送り込まれる事もあるだろう。そして俺に手を貸した響の立場も悪くなるに違いない。俺はそんなことを考えながら、凍華を横目で見た。すると凍華は、どこか申し訳無さそうななんとも言えない表情をしていた。


「はぁ‥‥あのね、ここで手を引く位なら、そもそも凍華の話に乗らないわよ‥‥それに私はね、自分の命惜しさに市民を見捨てるつもりはない。あの机に座って講釈を垂れるだけの連中とは違うわ」


 俺がそう言うと、凍華はどこか安心や驚きの感情が混ざりなんとも言えない表情を浮かべた。そしてゼルが俺に続いて響の方を見ると、響はいつも通りの真顔で答えた。


「僕は春海に従う」


 そう言う響にゼルは再度確認するように口を開く。


「政府の方は大丈夫なのかい?おりるなら今のうちだよ?」

「問題ない。そっちはどうにかなる」


 ハッキリとそう言い切った響に、ゼルはこれ以上の問答は必要ないと判断したようだ。そしてその雰囲気を感じ取った俺は、パンと手を叩いて言った。


「よし!それなら決まりね。それじゃあ、その方法っていうのを教えて頂戴?」

「いいだろう。まず、今回の相手は先程も言ったとおりこの秋田県一帯を支配する龍神だ。その強さは君達が実際に戦って感じたとおり、とても叶うような相手ではない。しかし、神も全能ではない。というのも一部の例外を除き、神とよばれる存在は人々からの信仰によって力を得ている。だが、人々の信仰は神の力の源であると同時に神自身を縛る鎖にもなる。そこで今回はその信仰を利用して、かの神の力を封じる」

「そんなことが可能なのか!?」

「ええ、あれほどの龍神であれば、必ずかの神を祀る祠や社があるはず。その場所で祭壇を作り、神を鎮める祈祷を行うのです。そうすれば一瞬だとしても、かの神の力を封じられます。そこで田澤さんにはできるだけ多くの人間を集めてもらいたい。祈祷を行う神職の人間だけでなく、決戦の際にはタイタンの能力をフルに使うために大量の鉄が必要になる」

「分かった!取り敢えず漁協の連中に声をかけてみる。実は今回の政府の対応には仕方ないと分かっているとはいえ不満を持ってるやつは多いんだ。だから魔法少女が討伐に動くと聞けば、みんな協力してくれるだろう」

「なら私も行くわ。実際に魔法少女がいたほうが説得力もあるでしょう?」

「たしかに凍華ちゃんがいたほうがいいだろうね。それじゃあ二人ともよろくおねがいします」


 ゼルの言葉に二人は大きく頷いた。そして田澤さんが運転席の方に歩いていく。


「よっし、取り敢えず方針は決まったし、帰るか!かっ飛ばすから、みんなちゃんと掴まってろよ!」


 田澤さんがそう言うと同時に、船は物凄い速度で海を進み始めた。



















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